9 九州・沖縄地方とその周辺で発生する地震のタイプ

九州地方に被害を及ぼした地震には、日向灘周辺などの海域で発生したものや陸域の浅いところで発生したものなどがある。日向灘周辺ではM7程度の地震がしばしば発生し、地震動による被害のほか、津波を伴って九州の太平洋側の沿岸地方に被害を及ぼしてきた。また、南西諸島沿いでは、1911年の奄美大島近海の地震(M8.0)のようなM8程度の巨大地震が発生したこともある。一方、陸域では、明治以降だけでも、1889年の熊本の地震(M6.3)、1914年の桜島の地震(M7.1)、1922年の島原半島の地震(M6.9)、1968年のえびの地震(M6.1)など、M6〜7程度の被害地震が発生している。さらに、1946年の南海地震(M8.0)のように周辺地域で発生した地震や1960年のチリ地震津波のように外国で発生した地震による津波被害も知られている。

 沖縄地方に被害を及ぼした地震には、太平洋側沖合などの海域で発生したものなどがある。1771年の八重山地震津波(M7.4)では、津波により先島諸島で12,000名近い死者{1}を出したとされている。沖縄島や慶良間列島では、19世紀末まで被害地震の記録はあまりみられないが、1911年の奄美大島近海の地震(M8.0)では被害が生じた。また、沖縄地方は1960年のチリ地震津波のように海外で発生した地震による津波被害も知られている。なお、図9−1図9−2図9−3は、これまでに知られている九州・沖縄地方の主な被害地震を示したものである。

 九州・沖縄地方の地震活動は、太平洋側沖合の南海トラフや南西諸島海溝から陸側へ傾き下がるプレート境界付近で発生する地震と陸域の浅いところ(深さ約20km以浅)で発生する地震に大きく分けることができる。

 九州・沖縄地方には、南東の方向からフィリピン海プレートが年間約5〜7cm{2}の速さで近づいてきており、南海トラフや南西諸島海溝から九州・沖縄地方の下へ沈み込んでいる。九州地方では、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う地震活動が、宮崎県から鹿児島県の沿岸付近では深さ約60km、さらに西方の陸域では深さ約200km近くまで見られる(図9−4)。一方、沖縄地方では、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う地震活動が深さ200kmより深いところまで見られる。

九州地方の地形を見ると、東の別府湾付近から西の島原半島付近にかけて、九州地方中部をほぼ東西に横切るように、九重山、阿蘇山、雲仙岳などの火山が分布している。この地域では、同じくほぼ東西に横切るように、短い活断層が多数分布している。しかも、これらの活断層は、南北方向に地面が伸びるような力が働いて地面が下へ落ちるような方向に動くもの(正断層)である。圧縮するような力がかかること(逆断層や横ずれ断層)が多い日本列島にあって、ここは特異な地帯となっている。また、地殻変動も南北方向の伸びを示している(図9−7)。この地帯は別府−島原地溝帯と呼ばれており、陸域の浅い地震はこの地溝帯やその周辺において比較的多く発生している。なお、別府−島原地溝帯の南西方向の延長にあたる南西諸島の北西側(東シナ海側)の海底には、南西諸島に並行するように溝状の地形(沖縄トラフ)が走っており、海底調査の結果、正断層が多い地帯とされている{3}。沖縄トラフで発生する地震の多くは、別府−島原地溝帯と同様に、正断層型の浅い地震である。また、九州地方の南部には霧島や桜島の火山があり、この付近でも地震活動が見られる。さらに、種子島、屋久島、沖縄島の南部や石垣島などには活断層があるが、これらの活断層で発生した地震は知られていない。図9−5図9−6は、九州・沖縄地方の地形と活断層の分布を南東方向と北西方向から鳥瞰したものである。

 九州・沖縄地方の最近の地震活動について見ると、日向灘周辺では、1984年の地震(M7.1)で被害が生じたほか、1987年の地震(M6.6)で死者1名{4}などの被害が、1996年10月と12月の地震(共にM6.6)で小被害が生じた。奄美大島近海では、1995年10月に、 M6.6、M6.5の地震が発生し喜界島などで小被害が生じた。これらの地震に伴って津波が発生した。一方、陸域の浅いところでは、1975年の阿蘇山北縁での地震活動(最大M6.1)、同年の大分県中部の地震(M6.4)、1984年の島原半島西部での群発地震(最大M5.7)、1994年の鹿児島県北部の地震(M5.7)、1997年の鹿児島県北西部の地震(M6.3、M6.2)などの被害地震が発生した。また、西表島の北西部を中心とした地域で、1992年9月から群発地震が発生し、同年10月のM5.0の地震で小被害が生じた。