5 関東地方の地震活動の特徴

関東地方に被害を及ぼした地震としては、相模湾付近で発生し、140,000名以上の死者・行方不明者を出した{1}1923年の関東地震(M7.9、関東大地震と呼ぶこともある)がよく知られている。この他にも、古くは 818年の関東諸国の地震(M7.5以上)をはじめ、1703年の元禄地震(M7.9〜8.2)、1855年の(安政)江戸地震(M6.9)、1894年の(明治)東京地震(M7.0)、1931年の西埼玉地震(M6.9)など、数多くの被害地震が海域や陸域に発生し、地震動や津波などによる被害を及ぼしてきた。これらの地震の多くは、主に関東地方南部を中心に被害を及ぼしてきたが、北関東でも1949年の今市地震(M6.2とM6.4)などによる被害が知られている。また、関東地方では、伊豆半島付近や東海沖など周辺地域で発生した地震による被害や、1960年のチリ地震津波のように外国で発生した地震による津波被害も知られている。なお、図5−1図5−2図5−3は、これまでに知られている関東地方の主な被害地震を示したものである。

 関東地方の地震活動は、関東地方東方沖合の日本海溝から陸地の方へ傾き下がる太平洋プレートの境界付近で発生する地震、相模湾から房総半島沖合にかけての相模トラフから陸地の方へ傾き下がるフィリピン海プレートの境界付近で発生する地震、陸域の浅い地震の三つに大きく分けることができる。関東地方の地下では、後述するようにプレート境界が複雑な構造になっており、プレート境界付近の地震は、陸域の深いところでも数多く発生している。このため、関東地方は、我が国の中でも非常に地震活動が活発な地域の一つであり、活断層に関係する陸域の浅い地震のみならず、沈み込むプレートに関係する地震も市街地の直下で発生し得る状況となっている(図5−9)。

 関東地方には、東南東の方向から太平洋プレートが年間約8cm{2}の速さで近づいている。太平洋プレートは、日本海溝から関東地方の下へ沈み込んでおり、太平洋プレートの沈み込みに伴う地震活動は、関東地方では深さ約200kmまで見られ、さらに中部地方や近畿地方の地下深くまで続いている(図5−5図6−4)。一方、フィリピン海プレートが南東の方向から年間約3〜4cm{3}の速さで関東地方に近づいており、相模トラフから陸側のプレートと太平洋プレートの間に割り込むように北西方向へ沈み込んでいる。フィリピン海プレートの沈み込みに伴う地震活動は、関東地方北部の深さ約100kmまで見られる(図5−6)。これらの沈み込んだ二つのプレートは関東地方南部の地下で互いに接触し合う複雑な構造となっている。また、フィリピン海プレート上に位置する伊豆半島が日本列島へ衝突しているため、フィリピン海プレートと陸側のプレートとの境界は、関東地方南部ではわずか10〜30kmの深さにある。このため、関東地方南部は、東海地方と同様に、プレート間の巨大地震の震源域が市街地の直下の比較的浅いところまで及ぶ可能性のある地域である(図5−9)。

 関東地方の地形を見ると、広大な関東平野が広がり、その周囲を関東山地などの山地や丘陵地が取り囲んでいる。活断層は関東地方南部、特に房総半島南部、三浦半島南端、神奈川県西部に比較的多く分布している。関東平野中央部でも、いくつかの活断層は知られているが、比較的新しい地質時代の堆積物に覆われていることが多いので、地形に明瞭に現れない場合がある。図5−7は関東地方の地形と活断層の分布を南東方向と南方から鳥瞰したものである。また、関東地方南部は北部に比べて、地殻変動が大きいことが知られている。この地殻変動は、主にフィリピン海プレートの沈み込みに関係するものと考えられている(図5−8)。

 関東地方とその周辺の最近の地震活動について見ると、伊豆諸島から伊豆半島にかけては、活発な群発地震活動が繰り返されているだけでなく、1978年の伊豆大島近海地震(M7.0)、1980年の伊豆半島東方沖地震(M6.7)、1990年の伊豆大島近海の地震(M6.5)などの大きな地震が発生している。房総半島周辺では、1987年の千葉県東方沖地震(M6.7)、1996年の銚子沖の地震(M6.4)などが発生している。また、定常的に地震活動が活発な茨城県南西部のやや深いところ(深さ50km前後)では、M5〜6程度の地震が数年に1回の割合で発生している。沈み込んだ太平洋プレートに関係した地震としては、1988年の東京都東部の地震(M6.0、深さ96km)や1992年の東京湾南部(浦賀水道付近)の地震(M5.9、深さ92km)が発生している。しかし、関東地方の内陸部や相模湾から房総半島南東沖にかけての相模トラフ付近では、ここ数十年間M7程度以上の大地震は発生していない。なお、図5−4は最近の陸域の深さ30kmより深い地震活動を示したものである。