4 東北地方の地震活動の特徴

東北地方に被害を及ぼした地震としては、三陸沖で発生し、津波によって20,000名以上の死者{1}を出した1896年の明治三陸地震(M8 1/2)がよく知られている。この他にも、明治以降では、1933年の三陸地震(M8.1)、1983年の日本海中部地震(M7.7)などが海域で、1894年の庄内地震(M7.0)、1896年の陸羽地震(M7.2)などが陸域で発生し、地震動や津波などによる被害を及ぼしてきた。東北地方は、近畿地方などに比べて古い歴史の資料が少ないが、古くは830年の出羽の地震(M7〜7.5)をはじめ、数多くの被害地震が陸域や海域に発生してきたことが知られている。また、東北地方では、1993年の北海道南西沖地震(M7.8)のように周辺地域で発生した地震による被害や1960年のチリ地震津波のように外国で発生した地震による津波被害も知られている。なお、図4−1図4−2は、これまでに知られている東北地方の主な被害地震を示したものである。

 東北地方の地震活動は、太平洋側沖合の日本海溝から陸地の方へ傾き下がるプレート境界付近で発生する地震、陸域の浅いところ(深さ約20km以浅)で発生する地震、日本海東縁部で発生する地震の三つに大きく分けることができる。この中で、発生する地震の数が多く、規模も大きいのが太平洋側沖合で発生する地震である。

 東北地方には、東南東の方向から太平洋プレートが年間約8cm{2}の速さで近づいている。太平洋プレートは、日本海溝から東北地方の下へ沈み込んでおり、太平洋プレートの沈み込みに伴う地震活動は、東北地方の日本海側では深さ約150〜200km、さらにロシアの沿海州南端付近の地下深く(深さ600km程度)まで見られる(図4−3図2−5)。また、日本海東縁部は東西方向に圧縮されている地域であり、この地域で南北方向に連なるように発生した地震の列に沿って、プレートの沈み込みが起こり始めているのではないかという説{3}も出されている。

 東北地方の地形を見ると、特に奥羽山脈や出羽山地周辺では、南北方向に延びる山脈や低地が交互に並んでいる。東北地方の主な活断層は、これらの山脈と低地の境目に沿って分布しており、多くのものは南北方向に延びている。そのほとんどは逆断層であり、この地域が東西方向に圧縮されていることを示している。ただし、地殻変動の観測によると、縮みよりも伸びが顕著な地域が多く、地殻変動の様式や度合いに地域性が見られ、東北地方全体が東西方向に一様に圧縮されているわけではない(図4−5)。陸域の大規模な被害地震の多くは既に知られている活断層で発生した場合が多いが、活断層が知られていない地域で地震が発生した例もある。また、ところどころで群発地震が発生することが知られている。図4−4は、東北地方の地形と活断層の分布を北東方向と北西方向から鳥瞰したものである。

 東北地方とその周辺の最近の地震活動について見ると、太平洋側沖合では、1978年の宮城県沖地震(M7.4)以降被害地震はなかったが、1994年に三陸はるか沖地震(M7.5)が発生し、青森県を中心に被害が生じた。陸域では最近は顕著な被害地震はなかったが、1996年の宮城・秋田県境付近の地震活動(最大M5.9)により若干の被害が生じた。日本海東縁部では1983年に日本海中部地震(M7.7)、1993年に北海道南西沖地震(M7.8)が発生し、日本海沿岸を中心に大きな被害が生じた。