3−4−3 まとめ

横浜市域全体の地下構造を把握するために実施した微動アレイ探査の観測点、全25点において、位相速度曲線(分散曲線)を求めることができ、当初の目的を達成することができた。このうち、大アレイ5点については、位相速度曲線から逆解析により1次元のS波の速度構造を推定することができた。

以下に、堆積平野(特に、都市部において)の地下構造調査への適用性を検討した。

(1)観測仕様

以下の仕様を適用することにより、信頼性のおける観測データを取得することが可能であることを確認した。

@ 観測機材の性能:特性の揃った固有周波数7秒の地震計及び計測時間誤差50ms/day以下のGPS時計付記録器、5Hzのローパス・フィルターの使用。

A アレイ形状:二重正三角形の各頂点及び重心の計7箇所に地震計を設置しての同時観測。

B アレイサイズ:底辺長250m、1,000m、4,000mの正三角形で各1回ずつの計3回観測方式

C 観測時間:100Hz以上のサンプリング間隔、60分間以上の観測データ取得

(2)解析方法

以下の方法を適用することにより、おおむね周期7秒程度までの位相速度の決定と、深度2km〜4km(基盤のS波速度として約3km/sec程度)までの1次元のS波速度構造の推定が可能であることを確認した。

@ 位相速度解析:空間自己相関法(SPAC法及び拡張SPAC法)

A 1次元のS波速度構造解析:個体群探索分岐型アルゴリズム(長、岡田ほか1997)を用いた逆解析

(3)ノイズ対策

微動アレイ探査を実施するにあたっては、種々の環境ノイズ(例えば、自動車・鉄道が走行時に発生する振動や工場が発生する振動等)の軽減対策が非常に大きな問題となる。この環境ノイズの対策として、以下のことを行うことにより、環境ノイズの多い都市部においても微動アレイ探査は、十分適用できる調査手法であることを確認した。

@ 観測場所設定時において、予め交通量の多い道路や鉄道の路線、振動の発生する工場等の位置についての事前把握と地点変更

A 環境ノイズの少ない時間帯、曜日の調整による観測

B 適切なフィルターの使用

(4)他の調査手法との整合性

微動アレイ探査によって求められた1次元S波速度構造は、反射法地震探査や屈折法地震探査などの他の調査手法で得られた速度と、おおむね整合性が良いことを確認した。

(5)適用性

以上のことから、人口や建物が密集している都市部において、強振動予測のための基礎資料を得るために、微動アレイ探査は観測条件の悪い市街地域でも深部のS波速度構造を直接的に求めることができ、堆積平野の深部地下構造把握の調査手法として十分に適用できることを確認した。