3−3−3 解析方法について

図3−3−3に解析の流れを示す。以下にその内容について説明する。

・P波及びS波初動読み取り(図3−3−3@)

選定した14個の地震全てが観測された青葉区榎が丘小学校の観測点の波形記録を一例として初動読み取り結果と併せて図3−3−4に示す。

・初動走時読み取りデータのチェック(図3−3−3A)

今回の解析では、次の3点につきチェックを行い、必要に応じて、初動走時を再度読み取り修正する。

a)初動走時の観測点別分布傾向:P波(UD成分)の走時とS波(NS及びEW成分)走時の分布傾向の類似性とNS成分とEW成分の読み取り走時に大きな相違がないか(図3−3−5)。

b)走時曲線のばらつき:各成分の走時曲線が、地震毎に一定のまとまった傾向となっているかどうか(図3−3−6)。

c)S/N比(ここでは、読み取った初動走時の前後2秒間のパワーの比としたので、値が大きいほど良好な記録であることに相当する)のチェック:各成分について観測点別にS/N比が悪いものがないかチェック(図3−3−7)及び地震別にS/N比のヒストグラム(図3−3−8)を作成しデータセットとして解析で使用可能か検討した。

以上の結果から、1998/06/14(千葉県東方沖)の地震は、走時のばらつきも大きく、S/N比も他と比較して悪いため解析には使用していない。また、図3−3−4からわかるように1998/03/23(茨城県沖)の地震に対する記録はS/Nが悪く、初動を読み取ることが不可能であったたので、解析には使用していない。

・初動走時データセットの完成(図3−3−3B)

S波の初動走時としては、水平2成分のデータを読みとり、最終的には、S/N比が良い方の成分のデータを採用。

・走時遅れ分布を計算(図3−3−3C)

図3−3−9−1図3−3−9−2図3−3−9−3図3−3−9−4における走時分布を見ると、観測走時には明らかに震源位置の影響によると推定される走時の差が見られる。震源位置による影響が含まれていると、地下構造による走時の変化がとらえにくい。そこで、観測走時に幾何学的に平面をフィッティングすることにより、震央位置の違いによる走時の差(トレンド成分)を求め、それを原記録から差し引いた。その結果が、図3−3−9−1図3−3−9−2図3−3−9−3図3−3−9−4に示すP波、S波走時遅れの分布である。

同図からわかるように、地震の震央位置の違いによらず、横浜市の南東部と北西部に走時遅れが大きい領域が存在し、中央やや西よりの地域で走時遅れが小さいことがわかる。

・初期モデル作成(図3−3−3D)

10km以深は科学技術庁防災技術センターが震源決定で使用している速度モデルで固定し、浅部は、既往文献調査結果を基に1次元モデルを作成(図3−3−10)。

図3−3−11は、各地震毎に、10km以浅についても科学技術庁のモデルとした場合の理論走時と、浅部を今回作成したモデルとした場合の理論走時を併せて示しているが、全般的に観測走時と合っているのは後者である。

なお、1998/01/16(千葉県南部)のP波のように、系統的にずれているものについては、震源情報に誤差が含まれているものと推定される。

・屈折を考慮した数値シミュレーション(図3−3−3E)

3次元レイトレーシング(ホイヘンスの原理に基づく爆発法)により、震源までを含めた領域を1kmの立方体のグリッドに分割して理論走時を計算する。(図3−3−12参照)

・観測データとの対比・チェック及び検討と速度モデルの修正

図3−3−3F)

横浜市域内について初期モデルを修正し、再度理論走時を計算し観測データと対比・チェックを行う。観測データと修正後の速度モデルにおける走時遅れ分布の対比図を図3−3−13に示す。

なお、全ての地震に関する波形記録・初動走時データは横浜市総務局災害対策室に保管している。(A4キングファイル5冊分)