3−2−2 解析の流れ

既存人工地震探査データ測線配置および再解析実施の流れを、それぞれ図3−2−1図3−2−2に示す。

・データセット作成(図3−2−2@)

図3−2−3−1図3−2−3−2図3−2−3−3図3−2−3−4図3−2−3−5に解析に用いた人工地震データの走時曲線を示す。データセット作成の際には同図に示す、矢印で示した記録のみを使用した。用いた記録の見かけ速度は総じて5km/s程度であった。

・3次元タイムターム法解析(図3−2−2A)

タイムタームとは

図3−2−4のような2層構造を考える。第1層の速度をV1、第2層の速度をV2とし、爆破点Aおよび受振点Bでの第1層の層厚をhA、hBとする。θは、第2層の臨界屈折角であり、θ=sin−1(V1/V2)によって表される角度である。爆破点受振点間距離をΔ、Aから速度境界に下ろした垂線の足A’とBから速度境界に下ろした垂線の足B’の間の長さをLとすれば、AB間の屈折波走時は、

式3−2−2−1     (1)

と表される。ここで第2層上面の傾斜や起伏が大きくなければ、凵烽kとして

            (2)

この式の右辺第1項を爆破点のタイムターム、第2項を受振点のタイムタームという。式の形からも分かるように、タイムタームは、上層の厚さに比例した量であり、時間の単位で測られるものである。

タイムターム法とは

タイムターム法とは、大局的には2層構造(堆積層と基盤)とみなせる地盤において、場所によって異なる表層の厚さを前述の「タイムターム」の大小によって調べる方法である。したがって、適用の大前提として、地盤が大局的に2層とみなせ、下層(基盤)の速度が場所によらず一定であるという2つの条件を満たすことを仮定している。タイムターム法では、多数の爆破点と受振点を配置して、距離凾ニ走時tを測定することにより各点のタイムタームと下層の速度V2を最小二乗法で決定するものである。

いま、爆破点の数をm、受振点の数をnとする。(2)式を、タイムタームを使って書くと、次のようになる。

式3−2−2−3     (3)

ここでTijはi番目の爆破点とj番目の受振点の間の走時ai、はi番目の爆破点のタイムターム、bはj番目の受振点のタイムターム、Vは下層の速度、そしてはi番目の爆破点とj番目の受振点間の距離である。上記の式から、爆破点・受振点のタイムタームおよび基盤速度を最小二乗法により求める。今回の解析では、11爆破点、143受振点の記録を解析に用いた。

また、測線が交差する場所に置いては、図3−2−5に示すように半径200m以内の受振点を同一受振点として扱うこととした。

・堆積層の速度値に関して(図3−2−2B)

前述のようにして求めたタイムタームを(4)式を用いて深度変換する。その際に、堆積層の速度値を仮定しなければならない。そこで、今調査では、堆積層の速度値として2.3km/sと2.5km/sの二つを仮定して、既往人工地震探査結果と比較することとした。その結果を図3−2−6に示す。

式3−2−2−4     (4)

ここで、、はそれぞれ、受振点jにおけるタイムターム・速度4.8km/s層の層厚を示す。また、は堆積層の速度を示す。

今調査では、堆積層の速度値を2.5km/sとした場合の方が既往探査結果と対応が良かったため、速度値を2.5km/sとした。

・4.8km/s層と5.5km/s層の屈折角の考慮(図3−2−2C)

3層構造を仮定した場合の波線のすすみ方を図3−2−7に示す。

AP間の屈折波走時は(5)式のようになる

式3−2−2−5     (5)

なお、式(5)における右辺第1項、第2項は爆破点でのタイムタームを、第3項、第4項は受振点におけるタイムタームを示す。今調査では、夢の島爆破の記録のみを用いているために、爆破点でのタイムタームおよび基盤速度をそれぞれ1.03秒、5.5km/s(5.3、5.6km/s)に固定して受振点でのタイムタームT55を算出した(式(6))。なお、夢の島でのタイムタームは瀬尾・小林(1980)の値を参考に、1.03秒とした。

式3−2−2−6     (6)

図3−2−8に基盤速度を5.3、5.5、5.6km/sに固定した場合のタイムターム分布を示す。同図から基盤速度を5.3km/sとすると、4.8km/s層のタイムタームが5.3km/s層のそれより大きくなる地域が広範囲に広がってしまう。また、基盤速度を5.6km/sと速くすると上記のような層の食い違いはほぼ見られなくなるが、既往の文献からこの層の速度を5.5km/sに固定した。

式(5)より5.5km/sのタイムタームT55は4.8km/s層のタイムタームT48を用いて式(7)の様に表せる。

式3−2−2−7     (7)

ただし、は第1層と第2層の臨界屈折角

式(7)から5.5km/s層のタイムタームと4.8km/s層のタイムタームを用いて4.8km/s層の層厚を求めることができる。

・4.8km/s層と5.5km/s層の臨界屈折角の考慮(図3−2−2D)

次に、図3−2−7に示すような3層構造を人工地震波が伝播する際の波線について考察することにする。

第1層から3層の速度値をそれぞれ2.5km/s・4.8km/s・5.5km/sと仮定すると図3−2−7に示す角度、はそれぞれ約27°、60°となる。したがって、第2層を伝播する波は第2層を斜めに横切る形になる。また、第3層と第2層の屈折点A1とA''の距離dは

式3−2−2−8     (8)

となる。したがって、受振点Aで観測されるタイムタームには、受振点Aからdだけ爆破点よりの基盤の深さの情報が含まれていることになる。今調査では、5.5km/s層の深度分布を図示する際に、式(8)に示す距離だけ爆破点側にシフトして表現することとした。