まず、地震基盤から入射するS波波形を入力として与える。波形の与えかたには、
・ 特定の観測点における地震基盤を仮想的な震源とみなし、観測地震波を理論的に観測点直下の地震基盤にまで引き戻して入力波とする方法;
・ 地震基盤上で実際に観測したS波波形データを直接利用する方法;
などがあるが、本報告書では比較的簡便な後者の方法を用いる。
S波は、地表面に対して直交する振動面を有するSV波と、地表面に対して平行な振動面を有するSH波との2種類に分解できる。本報告書では、波動の性質が単純なSH波を用いる。この場合、実際の計算作業では、地震波形の水平成分のうちtransverse成分(震央と観測点とを結ぶ大円方向に対して垂直な成分)に現れるS波波形を対象とする。
次に、前節5.3で述べた2種類の速度構造モデルの作成方法に基づいて、地震動の観測点ごとの速度構造モデルを作成し、入力波形を地震基盤上面に垂直入射したときの、地表におけるSH波地震動を計算する。その際、水平多層構造及び地震基盤における平面SH波の鉛直入射を仮定した一次元多重反射理論(大崎,1994;吉田・笹谷,2000)を用いる。
最後に、時間領域における理論地震動と観測地震動との波形比較、及び周波数領域における地震動の振幅フーリエスペクトル比と伝達関数(振幅フーリエスペクトル比の理論値)との比較を行い、計算に用いたS波速度構造モデルの妥当性を検討する。すなわち、地震波形や振幅スペクトル比の観測値に対する再現性が高いほど、想定した速度構造モデルは良好であると判断される。
なお、本調査では検証作業を簡便化するため、地震のメカニズムや震源距離に係る波形補正を省略した。これは,本調査において速度構造モデルの検証のために利用する観測点が地震の震央位置からみて充分狭い範囲内に集中しているため(後出の図5−4−4−1を参照)、各観測点の地震波形に対する地震のメカニズムや震源距離の差は小さいと判断したためである。