また,甲府盆地及びその周辺地域では、本調査開始以前に重力探査が実施されており、その結果をもとに、250mメッシュの格子点状の観測点に対する残差ブーゲー異常値も計算されている。図5−3−3に示したとおり、地震基盤上面標高と残差ブーゲー異常とは互いに強い相関関係にある。
そこで、ここでは神野ほか(2003)の手法に準拠して、重力探査結果と微動アレー探査結果とを組み合わせた速度構造モデルの作成を行った。
最初に、図5−3−3に示すとおり、微動アレー探査の実施地点(計10ヶ所)における各速度層の出現標高と、各アレー中心位置での残差ブーゲー異常値とを対応させる。次に、ある地点での地表標高及び残差ブーゲー異常値を与えた場合、その地点の各層の層厚を図5−3−3に示す対応関係を利用して、線形補間計算で求める。S波速度は、前節5.3.1に示した平均S波速度を各層毎に当てはめる。前節5.3.2で述べた速度構造は4層モデルであったが、本節の速度構造モデルは微動アレー探査でのモデルに準拠した6層モデル(5層半無限モデル)である。
以上の方法で作成した速度構造モデル(層厚を除く)は、次のとおりである。
[S波速度]
第1層 0.42km/s
第2層 0.73km/s
第3層 1.03km/s
第4層 1.37km/s
第5層 1.78km/s
第6層(地震基盤) 2.94km/s
図5−3−3からわかるとおり、微動アレー探査から求めた地震基盤上面標高と残差ブーゲー異常との間には強い一次相関があるが、地震基盤以外の速度層の出現標高に関しては必ずしも、明らかな相関関係は見られない。これは、各アレー直下における実際の地殻構造の複雑さや、残差ブーゲー異常値としてアレー中心での計算結果のみを参照したことの反映と考えられる。
残差ブーゲー異常を利用した速度構造のモデリングは、各速度層と地質情報との対応関係が曖昧であることや、微動アレー探査実施場所以外の地域については適応が困難であることなどの問題があるものの、手法としては比較的単純である。