測定は測定深度毎にS波及びP波の発震を行い、ボーリング孔内に設置されているケーシングやロッドの影響を受けにくいように発震位置、測定計画等を考慮しながら行った。これは孔壁が崩れやすくすべてのケーシング及びロッドを抜管してからの測定ができなかったためである。少なくともロッドが1重管である区間を測定し、基本的には最深部から順番に測定するようにした。具体的な作業要領は以下のとおりである。
@ 受振器はウインチを使用してボーリング孔内の測定深度まで下降させた。設置は孔内3成分受振器内に組み込まれたアームを電動で開き受振器ゾンデ部分を孔壁に圧着した。
A 発震作業はP波、S波ともに同じ地点でミニバイブレータを動作させて震動を発生させた。バイブレータ震源から発せられるTB信号やパイロット信号は受振信号を伝達するケーブルとは別のケーブルを使用してデジタル探鉱器に送り記録した。
B 受振信号はアナログのまま孔内ケーブルを介しAD変換器をもつデジタル探鉱器に送り記録した。
@〜Bの作業を順次繰り返し、すべての深度について行った。
(1) データ処理
デ−タ処理の流れを図4−3−2−2に示し、以下にその内容を述べる。
(a) データ読み込み
データ読み込みは、取得したデータを、処理システムで使用できるフォ−マットに変換し、システム上のハードディスクに格納する作業である。この時不要になるトレースセットを除去した。
(b) バンドパスフィルタ
バンドパスフィルタは、S/N比の悪い周波数帯域をカットするために特定の周波数帯域だけを通過させ、それより高周波数の帯域と低周波の帯域とを遮断するフィルタである。適用したバンドパスフィルタのパラメータは、バイブレータが発震した周波数(20〜120Hz)と周波数解析結果をもとにパラメータを決定した。図4−3−2−3に周波数解析結果を示す。
P波
適用ゲート : 0 〜 1 秒
周波数制限 : 30Hz24db/Oct 〜140Hz48db/Oct
S波
適用ゲート : 0 〜 1 秒
低周波数側制限: 5Hz24db/Oct 〜45Hz48db/Oct
c 振幅調整
トレースの平均的な振幅レベルが、ある時間ゲート内で一定になるようにする処理である。1トレース内での時間方向の振幅レベルがそろうだけではなくて、トレース同士の振幅レベルもそろうことになる。P波は反射波より後に速度の遅いS波が測定されているためこれを抑制するようにゲートを設計した。S波測定結果は初動より前の時間にノイズが多く含まれていたためこれを抑制するようにゲートを設定した。
P波 設計時間ゲート
最小オフセット側 最大オフセット側
0 〜 0.04 秒 0.19 〜 0.23 秒
0.03 〜 0.1 秒 0.22 〜 0.29 秒
0.07 〜 0.14 秒 0.26 〜 0.33 秒
0.12 〜 0.6 秒 0.31 〜 0.79 秒
0.4 〜 1 秒 0.59 〜 1 秒
S波 設計時間ゲート
最小オフセット側 最大オフセット側
0 〜 0.15 秒 0 〜 0.45 秒
0.1 〜 0.4 秒 0.5 〜 0.8 秒
0.15 〜 0.14 秒 0.75 〜 0.9 秒
0.35 〜 1 秒 0.85 〜 1 秒
(d) デコンボリュ−ション
震源から出たパルス状の弾性波は、地層や観測システムのフィルタ作用によって歪んだ波形となる。デコンボリューションは、歪んだ波形を元のシャ−プな波形に 戻す処理である。また、多重反射のような周期性のある成分の除去も行う。
デコンボリューションを適用した結果分解能は向上し、繰り返し波の除去ができた。
P波 オペレータ長: 0.1 秒
ギャップ長 : 0.001 秒
ゲート長 : 0.2 秒
S波 オペレータ長: 0.1 秒
ギャップ長 : 0.011 秒
ゲート長 : 0.5 秒
(e) 波動場分離
波動場分離は、見かけ速度の違いを利用して、速度フィルタにより上方伝播波と下方伝播波とに分離する処理である。前処理後の波形に波動場分離処理を行った。
P波 速度フィルタ種類 : 除去型
下方伝播波除去 制限傾斜 : −1 〜 11 トレース/ミリ秒
制限傾斜 : −11 〜 −4 トレース/ミリ秒
上方伝播波除去 制限傾斜 : −20 〜 1 トレース/ミリ秒
S波 速度フィルタ種類 : 除去型
下方伝播波除去 制限傾斜 : −1 〜 51 トレース/ミリ秒
制限傾斜 : −13 〜 −11 トレース/ミリ秒
上方伝播波除去 制限傾斜 : −50 〜 1 トレース/ミリ秒
(f)初動読み取り
初動読み取りは、分離した下方伝播波を使用し初動の読み取りを行う作業である。読み取った初動走時データから初動走時曲線を作成し速度解析を行った。速度解析結果を図4−3−2−4に示した。初動読み取り結果を図4−3−2−5、図4−3−2−6に示す。
(g) 往復走時補正
往復走時補正は、測定されたデータが片道分の走時データであるため、VSPトレース作成に必要な往復走時データに変換する補正である。波動場分離で分離した上方伝播波に読み取った初動走時を用いて往復走時補正を行った。
(h) コリドールミュ−ト
コリドールミュートは、往復走時補正を行ったデータから多重反射の除去や反射波を含まない部分を除去をする処理である。多重反射や反射波を含まない部分は重合の際ノイズとなるためである。
P波 ミュート時間ゲート (トレース番号−秒)
上側 下側
1 〜 0.05 1 〜 0.095
8 〜 0.053 17 〜 0.16
18 〜 0.113 40 〜 0.253
27 〜 0.154 64 〜 0.358
40 〜 0.203 92 〜 0.466
54 〜 0.248 93 〜 1
81 〜 0.376 94 〜 1
101 〜 0.45 101 〜 1
S波 ミュート時間ゲート (トレース番号−秒)
上側 下側
1 〜 0.012 1 〜 0.1
4 〜 0.044 10 〜 0.181
5 〜 0.088 15 〜 0.232
8 〜 0.124 16 〜 0.288
10 〜 0.143 20 〜 0.309
19 〜 0.233 28 〜 0.391
22 〜 0.282 45 〜 0.587
26 〜 0.314 46 〜 0.622
32 〜 0.389 54 〜 0.647
35 〜 0.426 58 〜 0.674
40 〜 0.491 62 〜 0.814
43 〜 0.524 72 〜 0.837
52 〜 0.588 75 〜 0.875
60 〜 0.649 76 〜 0.877
69 〜 0.727 79 〜 0.936
73 〜 0.82 80 〜 0.98
80 〜 0.856 84 〜 0.999
85 〜 0.945
97 〜 0.997
(i) 重合
重合は、コリドールミュートを行ったトレースを重合しVSPトレースを作成する処理である。前処理、波動場分離、往復走時補正、コリドールミュート処理を行った波形を重合した。図4−3−2−7の左側にP波重合結果、右側にS波重合結果を示す。またここまでに行った一連の処理過程を図4−3−2−8、図4−3−2−9に示す。