例として、図5−3−5−2の下図に示すアレー地点K4の逆解析最終結果の場合を簡単に考察する。本図によれば、位相速度の観測値と理論値とのずれが顕著な周波数帯域は、0.4〜0.6Hz付近(周期2.0sec前後)である。
図5−4−4−1は、アレー地点K4の逆解析最終解について、モデルパラメータPに関する理論位相速度C=C(f)のperturbation,P・{∂C(f)/∂P}を計算したものである。ある周波数fにおいて、C(f)のperturbationの絶対値が大きなパラメータほど、C(f)の増減変化に強い影響を与える。図5−4−4−1の中図および下図を参照すると、周波数帯域0.4〜0.6Hz付近の理論位相速度に強く影響するパラメータは、第1〜2層に対する層厚およびS波速度であることがわかる。
そこで、第1層および第2層のS波速度、および第1層の下面深度について、それぞれの値を最終解から±20%まで増減させた場合の理論位相速度を計算し、図5−4−4−2に示した。本図から、パラメータの変化量が微小であっても、理論位相速度は、非常に広い周波数帯域で、大きく増減することがわかる。一般に、位相速度の再現性を限定的な周波数帯域でのみ向上させることは、極めて困難である。
ここで、図5−3−4−1に示したアレー地点K4に対する観測位相速度(平均前)に注目すると、周波数帯域0.4〜0.6Hz付近は、アレー地点K4の大アレー・中アレー両者の観測微動から求めた観測位相速度(平均前)が“辛うじて重複する”周波数領域である。具体的には、大アレー微動観測から決まる位相速度は概して速く、中アレー微動観測から決まる位相速度は概して遅い。これは、前節5.2.2や同・5.4.1でも述べたように、アレーの空間分解能の大小が、アレー半径の大きさと相反して変化するためである。
以上の考察から、アレー地点K4の場合、たとえば大アレー・中アレー両者の中間のアレー半径を有するような円形アレーを設定して追加微動観測を実施するなど、平均後の観測位相速度の確からしさを改善するべき余地があると考える。同様の議論は、K4以外のアレー地点全般についても当てはまる。
図5−4−4−1 アレー地点K4 最終解に対するperturbation
図5−4−4−2 アレー地点K4 パラメータ変化と位相速度との関係