図3−5に、本測線の解釈断面図を示す。図中の数字は、反射法速度解析の結果から得られた代表的な区間速度、および、屈折法解析から得られた基盤速度を表示したものである。図3−6, 図3−7は、それぞれ、図3−3, 図3−4に反射法解析および屈折法解析の結果から得られた速度構造を加筆したものである。図3−8には、やや広域的に関東平野における既存の深部反射法調査(平成11年度千葉県地下構造調査、防災科学技術研究所による朝霞−鴻巣測線(笠原、2001:Takahashi et. Al., 2004)、平成7年度川崎市活断層調査)を含めた関係を示す。図3−5、図3−6、図3−7、図3−8では、本測線周辺の既往の解釈結果と屈折法結果を参照・整合させながら、境界A(水色)・境界B(緑色)・境界C(青色)の3つの反射境界について統一的に解釈を試みた。反射面の不明瞭な部分は、破線で表現している。特に、CDP550〜1100にかけてはノイズが卓越するため、反射面が急激に不明瞭になっており、解釈には注意が必要である。例えば、CDP530の深度1500mの反射面は一見すると不連続であり断層のように見えるが、ノイズ状況の急変に伴い、これより南側の反射面が掻き消されている可能性が高く、反射面は水平に連続しているものと推定される。
A、B、C面の特徴について、表層基底面とあわせて下記にまとめる。今回の調査は、浅層反射法調査ではなく深部を対象にしたもので、今回の調査仕様(粗い発振間隔、局所的に屈曲した測線)では、浅部(500m以浅)の細かな議論には精度上の限界があることを念頭に置く必要がある。なお、調査地域におけるA面、B面において、傾斜不整合の存在は確認できない。
解釈のコントロールポイントとして防災科学技術研究所の下総地殻活動観測井(鈴木・小林、1999:鈴木、2002)があり、また、江東地殻観測井(鈴木、1996)、流山NP−1などの坑井が、千葉県の実施した活断層調査・地下構造調査の測線を経てつながっている。平成12年度千葉県地下構造調査で総括された解釈線は、平成14年度東京都測線で接続している(平成14年度東京都地下構造調査)。
今年度の調査により、平成12年度の川崎市地下構造調査の測線を経て、防災科学技術研究所の横浜地殻活動観測井(鈴木、1999)とも反射法測線がつながることになったが、横浜地殻活動観測井は先新第三系基盤まで掘り込んでいないこともあり、本報告書での解釈は、平成12年度千葉県の解釈線を延長したものを採用する。
なお、本測線の解釈は、屈折法の最終速度モデルを基に、反射波の特徴と連続性に着目して速度境界線を追跡しているため、屈折法の最終速度モデル(境界が平滑化されているモデル)とは若干異なっている。以下に、各面について解釈を示す。
C面は、先新第三系基盤の上面に対応する。本調査測線の北端付近には、埼玉県活断層調査(1998)、防災科学技術研究所による朝霞−鴻巣測線(笠原、2001:Takahashi et. Al., 2004)、平成14年度および平成15年度東京都地下構造調査の反射法測線がある。これらの基盤深度は3000m〜3400mとされており、今回の調査結果の3300mとほぼ一致する。一方、測線南端については、平成12年度川崎市地下構造調査測線と約2kmの距離をおいて接続する。この測線の北西端での基盤上面深度は約2700mであり、今回の測線南端における基盤深度2700mと一致する。測線内の基盤上面の形状は、南部ではフラットであるが、中部から北部にかけては、起伏に富んでいるように見える。例えば、杉並区南荻窪から高井戸にかけて基盤の落ち込み(RP500〜600を底とする)があると解釈される。また、練馬区の光が丘公園周辺(RP120〜200)で、基盤の高まりがあると解釈される。いずれも反射イメージが弱いため反射断面だけでは判定できないが、屈折法解析の結果と総合して解釈した結果である。なお、今回の測線周辺で基盤まで達したボーリングデータがなく基盤深度を確定できるコントロールポイントが存在しないので、解析精度による若干の誤差(数%以下)が含まれていると考えられる。基盤面の凹部を充填している部分 (RP300〜700)は反射が乏しく乱れている。この部分について、基盤面までの区間速度の信頼性は低いが、3.2〜3.4km/s程度であり、上総層群以前の堆積物であると推定される。
調査地域のブーゲー異常図をみると、大局的なトレンドとして北から南に向かって低くなっており、測線両端における基盤深度のみを比べると逆相関の関係にある。このような現象は、関東平野地域において、例えば、平成12年度川崎市地下構造調査においても報告されている。前述したように、関東平野の基盤岩は地質帯が変化し、基盤密度がそれに伴って変化することが推定されることから(鈴木、1996)、重力解析では基盤以深の密度変化による影響を考慮する必要があると考えられる。また、中間層の影響、特に、上総層群以浅と三浦層群以深の構成比(層厚比)の違いも残差重力に影響を与えると考えられ、当地域のブーゲー異常と基盤深度は単純な関係式では表現できない。なお、練馬区〜杉並区(RP140〜280)にかけてブーゲー異常のコンターがやや密になっているようである。これは、測線北部から中部(RP140〜280)の基盤面が北傾斜していることと局所的に一致しており、この構造に対応している可能性が高い。
基盤速度について、レイトレーシングの最終モデルでは基盤構造および基盤速度を空間的に変化させることで初動観測値とのフィッティングに改善をみた。すなわち、基盤上面(C面)のP波速度を、北端で5.4km/s、南端で5.1km/sとなるように設定した。測線北端については、平成14年度東京都地下構造調査では5.5km/s、平成14年度東京都地下構造調査では5.3km/sであり、今回の結果(5.4km/s)とほぼ一致している。測線南端についても、関東平野南西部(川崎市・横浜市地域)の基盤速度は5.1km/s程度であり、今回の結果(5.1km/s)と一致している。また、測線沿いに北から南へと速度が小さくなっているが、これは纐纈(1993)などの結果と整合的である。当地域の基盤地質としては、北東から南西にかけて三波川帯の変成岩から秩父帯、四万十帯に移ると推定されていることから、基盤速度の変化はこれを反映したものであると考えられる。ただし、調査手法的な限界から、基盤速度が変化する詳細な地点についてはわからない。
B面は、上総層群基底付近に厚く堆積する礫層の強反射波列の下部付近をトレースした。およそ上総層群と三浦層群相当層の境界付近に対応すると推定されて、既存の結果によれば、三浦層群のP波速度は大略2.7〜3.4km/sであり、速度情報からも、B面〜C面が三浦層群相当層であると考えられる。B面〜C面にかけて、連続性がよくやや顕著な反射面が複数確認できる。測線両端部における他測線との連続性は良好であり、測線北端で約1500m、測線南端で約1600mを示している。一方、測線中央部については反射面が不明瞭であり、大深度ボーリング等のコントロールポイントがないことから、解釈の精度については任意性がある。このため、測線中央部では、反射面が推測の域をでないため解釈線を点線で表現した。
この面は、千葉県西部地域においては、平成11年度調査測線(松戸市〜印西市)の中間部分では明瞭ではなく、平成12年度調査測線(松戸市〜流山市)の流山の坑井情報から追跡し決定している。千葉県側については、上総層群基底礫層に相当する強反射は認められず、堆積環境が異なることを示している。
A面は、平成14年度東京都地下構造調査によると、上総層群/下総層群境界または、上総層群中(北多摩層上面)の反射面に対比されており、今回の測線北部で連続する。一方、平成12年度川崎市地下構造調査では、防災科学技術研究所の横浜地殻活動観測井(鈴木・小林、1999:鈴木、2002)付近の深度約300mに確認できる上総層群中の反射面を追跡していて、今回の測線の南端付近における深度が約700mとなる(図中の水色線)。これは、A面と比べて400m以上異なっているが、この原因は両者の層の定義が異なることによるもので、地質解釈に矛盾があるわけではない。
今回、平成14年度、15年度東京都地下構造調査の層区分に従って地下構造モデルの作成を行った。これは、防災科学技術研究所のKiK−Net下総観測井の上総層群と下総層群の境界(海抜からの深度350m)を、平成11年度千葉県地下構造調査測線を経由して接続したものである。接続を行うに際して、比較的明瞭な反射面を速度境界としてトレースしていて、不整合により下位層が削剥されている部分では下位の地層へ乗り換えることも考えられる(平成15年度千葉県地下構造調査)。このため、A面はあくまでも速度モデルの区分であり、地質学的層区分(上総層群と下総層群の境界)とは一致していない可能性がある。
また、上総層群と下総層群の区分については、定義が統一されておらず地質学的・層序学的な議論の余地が残されている点にも留意が必要である(近藤,1996;平成15年度千葉県地下構造調査)。平成15年度千葉県地下構造調査では、ここで言うA面を、屈折法から求められる速度境界に近い、柿の木台層と国本層の境界という解釈を行っている。そのために、解釈者によっては、A面は上総層群中の反射面と対比される。
A面〜B面にかけてのP波速度は大略1.8〜2.5km/sであり、速度が深度とともに漸増する結果が得られている。A面についても、測線の一部記録がノイズ状況により不明瞭な部分があるが、測線全域でほぼ平坦、もしくは、緩やかな北傾斜である。CDP220付近の中間層(上総層群および三浦層群)が若干撓んでいるように見られるが、地表部付近において断層運動による大規模な不連続は見られない。従って、活断層の疑いとして危急性を持った調査を行う必要はないが、今後、新たな地盤調査を行う際には十分な注意を払う必要がある。測線中央部は、オフセット発振を多用しているため浅部の詳細な議論はできないが、今回の調査仕様では有意なアノマリーは確認できない。以上をまとめると、今回の調査からは、環状八号線に沿った南北測線において、断層(活断層)が潜在している様相は認められない。
今回の反射法・屈折法地震探査で判明したことを以下にまとめる。