埼玉県和光市の荒川河川敷を起点とし、板橋区・練馬区・杉並区・世田谷区の笹目通りおよび環八通りに沿って、多摩川河川敷に至る南北方向の22kmの測線において、バイブロサイス車を震源とするP波反射法地震探査を実施した。また、屈折法地震探査を併せて実施し、バイブロサイス車2〜4台を震源とする多重発振を計8ヶ所で行い、全測線の受振器でデータを取得した。地震探査測線の位置は、国土地理院の1/50,000地形図(図1−1)に示した。
<反射法地震探査>
* 当地域における、先新第三系基盤までの深部地下構造(形状とP波速度)を明らかにする目的で反射法地震探査を実施した。
* 調査地域は特に交通ノイズの大きい地域であったが、受振測線について交通量の多い環八通り・笹目通りをさけ、白子川、石神井川、善福寺川、神田川などの静かな側道を極力利用した。また、発振作業をできる限り夜間に実施することにより、受振ノイズレベルを低下させた結果、部分的ではあるが深部基盤までの反射波を得ることができ、地表から最大深度約3500mの先新第三系基盤までの地下構造(形状とP波速度)が明らかとなった。
* 標準的な陸上反射法データ解析の流れに従って処理・解析が行なわれ、処理解析結果として表層構造図、速度構造図、反射断面図を作成した。
* 堆積層は比較的コントラストの強い反射面により4層(表層を含む)に層区分し、平成14年度東京都地下構造調査や、平成12年度川崎市地下構造調査の解釈と一致するように反射面の地質学的解釈を行った。また、この地質的な層区分(A面、B面、C面)により、5層(表層、基盤層を含む)の速度構造モデルを作成した。
* C面(先新第三系基盤上面に対応)の深度は、調査測線の北端付近で約3200m、南端付近で約2800mであり、測線中央部で不明瞭である。不明瞭な部分を除き、基盤に不連続は確認できない。南部ではフラットであるが、測線中部から北部にかけては深度3000〜3500mの起伏があり、杉並区南荻窪から高井戸(RP500〜600を底とする)にかけて基盤の落ち込み、練馬区の光が丘公園周辺(RP120〜200)で基盤の高まりがあると解釈される。
* 測線中部の基盤面の凹部を充填している部分には反射が乏しく乱れている。この部分の区間速度の信頼性は低いが、基盤面までの区間速度は3.2〜3.4km/sであり、上総層群以前の堆積物であると推定される。
* B面は、上総層群基底付近に厚く堆積する礫層の強反射波列の下部付近であり、おおよそ上総層群と三浦層群相当層の境界付近に対応すると推定されている。既存の結果によれば、三浦層群のP波速度は大略2.7〜3.3km/sであり(鈴木、1996)、速度情報からもB面〜C面にかけてはこれに相当する地層であると考えられる。B面〜C面にかけて、連続性がよくやや顕著な反射面が複数確認できる。測線両端部における他測線との接合は良好であり、測線北端で約1500m、測線南端で約1600mを示している。測線中央部については反射面が不明瞭であり、解釈線を破線で表現した。
* A面は、平成14年度、15年度東京都地下構造調査によると、上総層群と下総層群の境界または上総層群中の反射面に対比されており、今回の測線北部でそれぞれ連続する。A面〜B面にかけてのP波速度は大略1.8〜2.5km/sであり、速度が深さとともに漸増する結果が得られている。
* A面についても、測線の一部記録がノイズ状況により不明瞭な部分があるが、測線全域でほぼ平坦、もしくは、緩やかな北傾斜である。光が丘(RP160)周辺の中間層(上総層群および三浦層群)が若干撓んでいるように見られるが、地表部付近において断層運動による大規模な不連続は見られず、今回の南北測線からは、断層(活断層)が潜在している様相は認められない。
<屈折法解析結果>
* バイブロサイス車2〜4台の夜間発振によって、最大到達距離21kmまでの屈折波初動を確認することができた。5つの発振記録から、ペーストアップおよび初動読取結果が表示され、基盤層上面からの屈折波を識別することができた。震源からのオフセット距離7km程度から基盤上面に相当する屈折初動が得られた。
* レイトレーシング法によるフォワードモデリングで屈折波を解析した結果、堆積層4層(基盤を含めると5層)に層区分された速度構造モデルで、初動走時をほぼ説明することができた。
* 最上位の下総層群相当の速度は、1.75km/sである。上総層群上部(A面)に相当する屈折波は速度1.9km/sであり、A面〜B面にかけては、走時曲線の弓なりの形状から直線的に速度を漸増(1.9‐2.5km/s)させた。
* 三浦層群相当層上面(B面)に対応する屈折波は、速度2.6km/sであり、その下位のB面〜C面にかけては、基盤屈折波のインターセプトタイムを合わせるために、3.2km/sまで直線的に速度を漸増させた。
* 基盤岩のP波速度は、既存の屈折法の結果を総合すると、関東平野の北東から南西に向かって基盤の地震波速度が減少していることが確認された。この傾向は既存文献と整合的である。
* レイトレーシングによる最終モデルでは、基盤上面(C面)速度が、北端で5.4km/s、南端で5.1km/sと求められた。ただし、既存資料を参考にしてレイトレーシングにより試行錯誤的に求められたモデルであり、必ずしも一意的に求められていない点に留意が必要である。
* レイトレーシングによる最終モデルでは、基盤岩上面の深度は、測線北端で3200m、測線南端で2800mであり、測線中部で深度3500m程度に達する落ち込みが存在する。
<総合解析結果(弾性波探査)>
* 屈折法のレイトレーシングで求められた速度境界は、反射法断面図の反射面と対比することができ、反射法、屈折法でそれぞれ求めた速度は、解析精度の範囲内で整合している。
* 総合解析により求められた堆積層のP波速度は深度と共に漸増し、0.8km/s〜3.4km/sを示している。上位から0.8km/s(表層)、1.6〜1.7km/s(表層基底〜A面:下総層群相当層と上総層群上部に対応)、1.8〜2.5km/s(A面〜B面:上総層群に対応)、2.5〜3.4km/s(B面〜C面:主に三浦層群相当層および下位層に対応)と求められた。
* 基盤速度を測線北端で5.4km/s、南端で5.1km/sと変化させることで、屈折初動を適切に説明することができた。