(h5)である。これらのうち,本調査の実施目的には直接関与しないものの,最下部付加層の導入により新たに追加されたモデルパラメータは,β6及びh5である。
ここで,最下部付加層の導入が逆解析結果に及ぼした影響に注目する。
前節2.2.3(2)あるいは表2−2−4に示したとおり,本調査の逆解析ではβ6 が候補解あるいは最終解における最大S波速度となった (βi<β6,i=1〜5)。また,h5については,他の層厚よりも充分大きな値に設定してある(hi/h5≪1,i=1〜4)。図2−2−39、図2−2−40、図2−2−41によれば,本調査の観測位相速度が存在する周波数範囲(0.15〜3.9Hz)において,基本モードに対するβ6及びh5のperturbationの絶対値は,他のモデルパラメータと比較して充分に小さく,ほとんど無視してよい。つまり,基本モードだけを考慮した限りにおいては,最下部付加層に係るモデルパラメータは観測位相速度の再現に寄与しなかったこと,すなわち,最下部付加層の導入は逆解析結果に直接影響しなかったことがわかる。
一方,前節2.2.4(2)で述べた高次モードの理論位相速度を計算する際,最下部付加層の存在は極めて重要である。なぜならば,基本モードの理論位相速度が任意の周波数範囲で計算可能であるのに対して,高次モードの理論位相速度は,「最大S波速度(ここではβ6)と一致する周波数以下では存在しない,いわゆるcutoff frequencyがある」という,基本モードの理論位相速度とは全く異なる性質を有するためである。高次モードを考慮した逆解析を実施する場合,観測位相速度の存在する周波数範囲内で,高次モードの理論位相速度が必ず存在するように,モデルパラメータ(S波速度及び層厚)を設定しなければならない。したがって,最下部付加層に係るモデルパラメータ(特にS波速度)が逆解析結果に及ぼす影響は,一般に基本モードのみを考慮した従来の逆解析結果と比較して,非常に大きいものであるといえる。
ちなみに,図2−2−35、図2−2−36、図2−2−37に示す逆解析結果は,基本モードのみで求めたものであるが,高次モード(1次モード)の理論位相速度は,各図からわかるとおり,観測位相速度の周波数下限(約0.15Hz)より低い周波数範囲にも存在している。したがって,表2−2−4に示した最下部ダミー層に係るモデルパラメータ(β6及びh5)の広域探索範囲の与えかたは,概ね順当であったと評価してよい。
以上から,本調査の逆解析で実施した最下部付加層の導入は,数値計算の安定化のみならず,高次モード分散に基づくモデリングにも対応した有用な措置として,評価されるべきである。
注1:perturbationの簡単な説明。
簡単のために,モデルの全層に対するパラメータXの相対誤差(ΔX/X)を一定と仮定した場合を考える。ある周波数fで第i層のperturbationが相対的に大きいということは,その周波数の位相速度C(f)の決定に関与している第i層のパラメータXi がわずかに変化(=一種の誤差)しても,位相速度決定への影響が相対的に大きいことを意味する。原理的には,ある周波数fでの位相速度の微小変化ΔC(f)への各層の関与の度合いを計る量としては,perturbationではなく,理論的に導かれるpartial derivative ∂C(f)/∂Xを考える。しかし,ここではモデルの改良に,一般化逆解析(=generalized inverse (Aki and Richards, 1980))の利用を考えて,より実際的な量perturbationを取り上げた。これは,各層のpartial derivative ∂C(f)/∂XにそれぞれモデルパラメータXという重みをつけたものであるから,相対的にモデルパラメータXの大きい層のpartial derivative ∂C(f)/∂Xを強調していることになる。
注2:medium responseの簡単な説明。
Medium responseは地下構造モデルに固有の量で,周波数の関数である。表面波のmedium responseには,モードによってその周波数依存性の変わる性質があるところから,medium responseを地下構造の一種のフィルターと見なせる。例えば,ある地下構造のところを,互いにmedium response の異なる複数のモードの波が伝わると仮定する。いま,通過する波について,あるモードに注目した場合,周波数の違いによる波のパワーの大小が,また,ある周波数に注目した場合,モードの違いによる波のパワーの大小がそのmedium responseによって決まる。