・ブーゲー異常図（地質調査所， ２０００）
・既存深部ボーリング位置
・既存反射法地震探査測線
を重ねて表示したものである。ブーゲー異常値は、密度を２．０ｇ／ｃｃと仮定したものを用いた。ボーリング位置は基盤到達坑井（青丸）、数値は基盤到達坑井では基盤深度（海抜からの深度）を示す。
今回の調査地域は、東京都首都圏地域であり、地下深部に関する地質情報はあまり得られていない。調査地周辺のボーリングについては、先新第三系の基盤岩まで掘り抜いた坑井としては、国立防災科学技術研究所の深層地殻活動観測井「江東観測井」（鈴木，１９９６）、「府中観測井」（鈴木，１９９６）がある。この他に、東京都による一連の水文地質調査により、「立川試錐」（遠藤、他、１９７８）、「武蔵村山試錐」（川島、他、１９８０）、「八王子試錐」（川島、他、１９８４）、「穂積試錐」（川島、他、１９８５）、「昭島試錐」（川島、他、１９９０）の地下地質が調べられている。これらの位置と基盤深度は図１−１に示されている。
調査地はこれまでの調査から、層厚２０００〜４０００ｍ程度の新生代（新第三紀以降）の堆積層に被われ、その下位に中・古生代の基盤岩（先新第三系基盤岩）が分布していることが分かっている。基盤岩深度の概ねの傾向は、ブーゲー異常重力図で把握することができる（図１−１）。駒澤（１９８７）、駒澤・他（１９８８）は、この重力データをもとに関東地方の基盤深度を推定している。基盤上位の堆積層については、下位から、三浦層群、これを不整合（黒滝不整合）に覆う上総層群（上部鮮新統から中部更新統の深海〜半深海堆積物）、これの上位に、下総層群、または成田層群（関東平野東部）、または相模層群（関東平野南西部）と呼ばれる中期更新統の浅海性堆積物堆積物が分布している。下総層群の上位は、段丘層、ローム層、または河床堆積物である。
関東平野周辺における深部反射法調査について、その測線を図１−１に示した。図２−１−１には、平成１４年度東京都地下構造調査による反射法解釈断面を示す。基盤上面からの反射波はあまり強くないが、調査測線のほぼ全域で追跡することができる。基盤上面からの反射波は、測線東端で往復走時約２秒（深度約１９００ｍ）、測線西端では約２．５秒（深度約３０００ｍ）になり、途中で大きな起伏がなく、大略西傾斜の構造になっている。基盤岩のＰ波速度は、屈折法の結果から５．５ｋｍ／ｓと求められている。
立川断層は東京、埼玉の武蔵野台地西部を北西−南東方向に縦走する活断層である。｢新編 日本の活断層（活断層研究会編（１９９１））｣によれば、｢立川断層｣は、確実度：T、活動度：Ｂ、長さ：２１ｋｍ、走向： ＮＷとされている。立川断層は、地形的には南西落ちであるが、重力等から想定される基盤構造は北東落ちであり、地表から基盤までの地質構造形態を明らかにすることが立川断層の活動等の評価に必要であることから、いくつかの深層反射法探査が実施されている。
平成９年度東京都活断層調査の測線は、武蔵村山市三ツ木地区の測線Ｔ９７−１（測線長約２．５ｋｍ）及び立川市泉町地区の測線Ｔ９７−２（測線長約 １．５ｋｍ）の２測線であった。図２−１−２に測線Ｔ９７−１の反射法解釈断面、図２−１−３に測線Ｔ９７−２の反射法解釈断面をそれぞれ示す。これらの結果では、地表で指摘されている立川断層の位置周辺において、基盤上の堆積層は凸構造を示し、反射波の乱れが顕著であり、小さな逆断層等が見られる。但し、明瞭な上下の落差を伴う断層はみられない。基盤岩上部については明瞭な上下の落差は認められない。このことから、立川断層は横ずれが卓越した断層の可能性があるが、重力異常図（地質調査所、１９９５）によれば、立川断層周辺においては、東側に向かって基盤が落ち込んでゆくことが推定されるので、この傾向と立川断層の関係については、更なる検討が必要であるとしている｡
図２−１−４には、平成９年度活断層・古地震研究調査による反射法解釈断面（地質調査所、１９９８）を示した。ＣＭＰ７００から８００の浅部から走時０．８ｓまでの部分は反射面が断続的である。この断続部は地表の撓曲崖の直下であり地下における立川断層に相当し、立川断層に伴う撓曲ないし破砕帯は、幅が２００ｍ以上で少なくとも地表付近から深度７００ｍ付近までほぼ垂直に続いていることが明らかにされている。反射面の形状・連続性・振幅等の特性から見ると、断続部の西側走時０．６ｓと東側走時０．５ｓ付近の反射面とを対比できるかも知れないとしており、この場合、立川断層は深度６００ｍ付近では東側に約１００ｍ隆起していることになる。断続部の西側では走時０．７ｓから０．８ｓの反射面が基盤上面と考えられる。一方、東側については走時０．８ｓから０．９ｓの反射面が基盤上面かもしれないが、基盤上面の深度はもっと深く本探査では捉えられなかったかもしれないとしている。
図２−１−５には、防災科学技術研究所の府中地殻活動観測井の周辺で行われた反射法解釈断面（鈴木、他、１９８１；山水、ほか、１９９５；浅野、他、１９９１）を示す。立川断層の下盤側の基盤イメージが明瞭であり、深度約１０００〜２２００ｍでなだらかに東傾斜しているように解釈されている。
本調査では、立川断層にできるだけ直交する方向へ測線を設定し、これまで解明されなかった先新第三紀基盤岩までの構造形態を明らかにすることを視野に入れて計画された。
最後に、関東平野における３次元的な基盤深度について幾つかの文献によって推定されている結果を示す。図２−１−６は、共立出版（１９８６）による関東平野基盤等深度図である。纐纈（１９９３）は、屈折法地震探査データを用いて走時インバージョンを行い、関東平野の基盤構造とその速度を求めている。関東平野での基盤岩の速度は図２−１−７中の灰色の線分で南北２つに区分し、北部分での基盤岩速度は５．７ｋｍ／ｓ、南部分での基盤岩速度は５．４ｋｍ／ｓと求めている。これによると、今回の調査測線の基盤深度は、１０００〜２５００ｍの深い領域になる。
鈴木（２００２）に示された先新第三系上面深度分布図は、鈴木（１９９６）の既存調査地周辺の深堀井と新たな坑井ボーリングデータ、東京都・千葉県・神奈川県（横浜市・川崎市）で行われた活断層調査・地下構造調査の反射法・屈折法地震探査データを用いて、関東平野の先新第三系基盤までの地下地質構造の解析を総合的に行った結果である。第三系基盤の深度図を図２−１−８に示す。三浦層群及び相当層・上総層群及び相当層の層厚分布、上総層群相当層の基底深度を図２−１−９に示す。
これらの推定によると、本測線の先新第三系基盤深度は３０００ｍ以上、三浦層群相当層の層厚は２０００ｍに達すると推定されている。また。上総層群の層厚は西から東に厚くなっていき、測線東端で１０００ｍを超えると推定されている。下総層群の基底深度は、０〜２００ｍと推定されていて、西から東に深くなっている。なお、先新第三系の地質は帯状配列していると考えられているが、今年度の調査測線は主として秩父帯に当たり、測線の東端付近で三波川帯と境界を有する可能性がある。図２−１−１０に、関東平野周辺の先新第三系の分布図を示す。