4−1−4 平成15年度におけるモデリング

平成14年度までの調査結果から,モデリングを実施する際に,以下の点で改善・改良を行う必要が生じた。

@各観測点において,同じ層番号では,ほぼ同じS波速度となり,構造が周りに対して極端に変化することがないS波速度モデルを解析する。これは,平成14年度調査(特に反射法地震探査結果)から,調査地域内には地下構造に極端な不連続を生じさせるような断層が見られず,構造が比較的連続的に変化していると考えられるからである。

A他の調査結果(反射法地震探査,既存ボーリング)との整合性を満たす。

平成14年度調査までは,モデル解析にfGAを用いてきた。そこでは,各観測点は独立した点として個別に構造解析を実施してきた(単点解析)。平成14年度調査では,探索範囲を平成13年度よりも狭く設定することによって,観測点間の同じ番号の速度層がほぼ同じようなS波速度になるように解析を実施したが,単点解析であることに変わりはなかった。

そこで,平成15年度では,より観測点間の関連性を維持することを目的として,全観測点を同時に解析することとした(多点解析)。その際,求める構造パラメータ(S波速度,層厚)に対して,観測点間の関連性を保つための制約条件を付加した。これは,平成14年度までの解析では,構造パラメータとして探索範囲内における任意の組み合わせの中から観測位相速度を満足するものを調べるものであったのに対して,この解析では,観測点間の関連付けによる制約条件の中で,観測位相速度との対応を図るものである。 

この制約条件は,他の調査結果(反射法地震探査,既存ボーリング)との整合性を満たすためにも設定した。

解析方法は,最小二乗法を用いた多点同時解析を採用した。これは,制約条件を先験的情報として定式化し,解析に組み込むことが比較的容易であるためである(松浦1991,杉本1988)。一方,最小二乗法解析では,初期モデルを必要とする。一般に,解析結果は初期モデルに依存すると言われていることから,初期モデルも先験情報として扱われる。本調査開始時点(平成13年度)では地下深部の情報が少なく,この初期モデルを設定することが困難であったため,解析にはfGAを用いてきた。

平成15年度は,これまでに反射法地震探査などが実施されたことによって初期モデル設定に必要な情報が蓄積され,fGAだけではなく最小二乗法も適用することが可能な条件が整ってきた。

初期モデルとしては平成14年度結果のモデルを用いることとした。これは,観測位相速度を満足しており,全観測点を通してみれば,概ね他の調査結果と整合がとれているため,解析の初期モデルとしては十分使用できると考えたためである。

<モデル層数>

モデル層数は,以下の検討を行い,6層から7層に変更した。

基礎試錐「石狩湾」調査報告書(石油公団,1995)には,既存反射データ再解析(平成15年度)の測線を含む石狩地区におけるグリーンタフ(定山渓層群)上面の時間深度分布資料が含まれている。この資料は調査地域周辺に位置する深部ボーリング(多くは民間石油会社によるもので,基本的には非公開資料として,一部を除き詳細は不明)のデータも参照して作成されていると考えられ,調査地域内に有用な深部ボーリングがほとんどない本調査においては貴重な資料である。

この石油公団資料に基づいて平成15年度反射測線における地震基盤を同定し,それを平成14年度反射測線へ追跡解釈したところ,地震基盤深度が平成14年度調査で想定していたものより深く,最深部(東米里)では深度5000m以上になることが分かった。6層による構造解析を実施した場合,最下層(第6層)の上部層(第5層)の層厚が2000〜3000mとなり,この間のS波速度が一定となるモデルが作成されることとなる。

また,各調査年度の反射断面における地震基盤上面は,さほど明瞭ではなく連続性に乏しい。震源のエネルギーが地震基盤を把握するのに十分大きかったとすると,@反射面形状が複雑で連続的な反射面としてイメージングされない,A地震基盤にいたるまでの速度変化(速度増加または速度減少)がゆるやかで,大きな速度コントラストがないことから反射面が明瞭ではないことなどが原因として考えられる。

一方,屈折法地震探査結果によれば,地下深部に少なくとも5km/s程度以上のP波速度を持った高速度層媒質があることは確かである。

この高速度層に対して,@反射面が明瞭ではない,つまり速度コントラストが大きく変化することはない,A高速度層からの屈折波は記録されている,つまりP波速度は深度が深くなるのに伴い増加していることから,弾性波速度は深くなるのに伴い,ゆるやかに増加していると考えられる。この結果を微動解析モデルで表現する際には,現在のS波速度が2km/s程度の層(第5層)から3km/s程度の層(第6層)に繋がるモデルよりも,その2層の間に,中間のS波速度を持った層が存在するモデルの方がより地震探査結果を表現できるものと考えられる。

以上の検討結果から,モデル層数に関して,6層モデルを用いてきたものを7層モデルに変更し,旧モデルの第5層を2分割することとした。

<制約条件(拘束条件)>

地震基盤深度拘束は,反射測線近傍に位置する微動観測点のみに適用した。適用した微動観測点は次のとおりであり,微動モデルの第6層と第7層の境界深度に対し拘束するとした。第7層は,全観測点でほぼ3km/s以上のS波速度が解析されており,地震基盤と想定している。

・平成14年度反射測線近傍観測点:No.10,No.12,No.14,No.20,No.21,No.25

No.33

・平成15年度反射測線近傍観測点:No.6,No.8,No.9,No.13,No.23,No.27

・再解析測線近傍観測点     :No.2,No.31

次に,岡(2003)による第四系基底深度分布及び当別層(西野層)基底深度分布を参考にして,各観測点におけるこれらの地層境界深度を推定した。この推定した境界深度を微動モデルのどのS波速度層境界を深度として拘束するかは,次のような方針とした。

1)隣り合う観測点で地層境界深度が大きく違わないと推定されている場合には,拘

束するS波速度層境界は同じ層番号の速度層境界とする。

2)地層境界が大きく傾斜していると推定されている場合には,反射P波速度が同じ地層でも深くなるとより大きな値を示すという傾向と矛盾しないように,地層境界が深い方の微動点では,一つ下の速度層(S波速度が大きくなる)の速度境界として拘束する。

上記のような既存の第四系基底深度分布に基づいた深度の拘束を全観測点に適用したところ,ほとんどの観測点で,第1層と第2層の境界深度または第2層と第3層の境界深度に対し拘束することとなった。

当別層(西野層)基底の深度についての拘束は,No.13,No.25観測点を除く全観測点で適用し,ほとんどの観測点で第3層と第4層の境界深度または第4層と第5層の境界深度に対し拘束することとなった。No,13,No.25の観測点を除いたのは,地層境界に対する先験的情報が不確定なためである。

反射法・屈折法地震探査では,P波速度に関する情報が得られているが,S波速度に関しては直接の先験情報はない。そこでS波速度に対する拘束は,同じ番号の速度層における速度値がスムーズに変化する条件のみを加えた。