地質解釈に際しては,主要な地層境界面に対比されると考えられる反射面を,反射面の連続性,反射強度,反射パターン,速度解析から得られたP波速度(断面図に記入),測線近傍の既存ボーリングデータ,平成15年度反射法地震探査結果などに基づいて抽出した。図2−5−2には,反射断面の地質解釈の際に参考にした既存ボーリングや調査地域周辺で掘削された既存の深部ボーリングなどの位置を示す。
平成13年度調査では,岡ほか(1991)及び最近の石油関係の資料をもとに,札幌市周辺の地質層序を表2−5−1のようにとりまとめており,以後の調査では,この地質層序に基づいて地層区分などの解釈を行っている。
以下に,解釈した地層の分布状況及び地質構造について述べる。
(ア) 第四系(前期更新世〜完新世堆積物)
石田ほか(1980)によると,札幌市街地が広がる平野部の地下浅部には,未固結の砂礫や粘土,火山灰,泥炭などからなる中期更新世〜完新世堆積物が分布し,その下位には前期更新世の材木沢層が分布している。第四系最下部層とみなすことができる材木沢層については,岡ほか(1992)によると,上部は主に礫〜砂礫から構成され,下部は一般的に板状泥岩,極細粒〜細粒砂岩及び両岩相の互層から構成され,下位の当別層(西野層)とは不整合関係であるとされている。
反射断面の地表から浅部にかけて,砂泥互層からなる堆積層に特徴的にみられるほぼ水平な縞状の反射パターンが明瞭に認められる。第四系基底面(ほぼ第四系の最下部層とみなせる材木沢層の基底面)は,このほぼ水平に分布する反射波群と,その下方に北傾斜で分布する反射波群との境界(不整合面,図中の緑色線)として捉えることができる。この境界深度は,既存ボーリングの厚別温泉SE−2(岡,2003)における材木沢層基底深度とほぼ一致し,北へいくにしたがって次第に深くなり,測線北端付近では深度1000m程度となっている。
なお,CDP700付近で実施された川下公園温泉ボーリングの工事報告書(札幌市,1995)では,第四系(材木沢層)基底深度を835mとしているが,本ボーリングのスライム観察記録の記載内容(層相)を再検討し,電気検層結果(見掛け比抵抗曲線の変化パタ−ン)を含めて比較的近くに位置する既存ボーリング孔(セキボウ温泉他,図2−1−2参照)と比較・検討した結果,深度835mの上位約200mにある砂岩礫岩互層の下面深度652mを第四系基底深度と見直した。この位置の反射波列は,厚別温泉SE−2における第四系基底面に連続していることが明瞭に認められる。
(イ) 当別層(西野層)
岡ほか(1992)によると,当別層は主に海成のシルト岩〜細粒砂岩から構成される。当別層と同時異相の関係にある西野層は,火砕岩・火山性砕屑岩を代表岩相とし,札幌市街の地下では約300mの厚さで分布するが,札幌市街北部附近で当別層に移化するとされている。
既存ボーリング柱状図(厚別温泉SE−2)との対比から,測線全体にわたって明瞭でかつ連続性が良く,測線南端では深度600m付近に至る反射面を当別層(西野層)基底面と解釈した(図中の茶色線)。当別層(西野層)は北へ向かうにつれて徐々に深くなり,測線北端付近では,基底深度が2700m程度,層厚が1700m程度と推定される。本層には第四系と同じように,全体に砂泥互層からなる堆積層に特徴的にみられる縞状の反射パターンが明瞭に認められる。
川下公園温泉ボーリングの工事報告書では,第四系の下位には,孔底(深度1802m)まで当別層(西野層)が分布するとしているが,厚別温泉SE−2との対比と反射波列の連続性から,深度1350mを当別層(西野層)基底深度とした。
当別層(西野層)内に引いた黄色の線は,平成15年度調査報告書でも述べたように,泥岩中に挟在する凝灰岩や凝灰角礫岩,砂岩泥岩互層中に挟在する軽石質凝灰岩などに対比される可能性がある。
(ウ) 望来層
岡ほか(1992)によると,望来層は硬質頁岩を主体とし,上部においては軟質泥岩(当別層下部の岩相に類似)と互層をなす。
測線近傍の既存ボーリング(厚別温泉SE−2,川下公園温泉ボーリング)は,望来層基底まで到達していない。そこで,測線から東に6〜9km離れてはいるが,望来層基底以深まで掘削されている既存の3本の深部ボーリング孔における望来層の厚さをみると,野幌SK−1では620m,西の里SK−1では702m,輪厚では560mとなっている。これらの層厚情報が測線付近まで適用できると仮定して,測線全体にわたって明瞭で連続性がよく,測線南端では深度1400m付近に至る反射面を望来層基底と解釈した。本測線付近での望来層の厚さは600〜700mとなる。
(エ) 盤の沢層・厚田層・奔須部都層
基礎試錐「石狩湾」調査報告書(石油公団,1995)の地質断面図によると,盤の沢層と厚田層は,基礎試錐「石狩湾」側(海域)では火砕岩を主体としているが,調査地域の北側の海岸線付近から陸域にかけては非火砕性堆積岩から構成される。また,奔須部都層は,上部はシルト岩と凝灰質シルト岩を主体とする。下部は安山岩・石英安山岩・流紋岩の細〜大礫からなる礫岩を主体とするが,海岸線付近から陸域では欠如している。
望来層の基底と地震基盤(定山渓層群)の間を,この地域の地質層序(表2−5−1)にしたがって,盤の沢層,厚田層及び奔須部都層と解釈した。当別層や望来層と同じように堆積層特有の縞状の反射パターンがみられる。
(オ) 地震基盤(定山渓層群)
地震基盤は,調査初年度(平成13年度)の文献調査の結果に基づいて,3km/s以上のS波速度を有するとされている定山渓層群とした。定山渓層群は,基礎試錐「石狩湾」調査報告書(石油公団,1995)によると,安山岩質の凝灰角礫岩・火山角礫岩・溶岩と,玄武岩質の凝灰角礫岩・火山角礫岩を主体とする。
平成14・15年度の反射法地震探査から推定される地震基盤の深度範囲(深度3000〜6000m付近)では,連続する反射面はさほど明瞭ではなく,地震基盤を確定することはむずかしい。そこで,測線北端で交差する平成15年度反射測線での地震基盤深度を採用し,望来層の上下面に対比させた反射面の分布形状も参考にしながら,次章で述べる屈折波のレイトレーシング解析結果も取り入れて,地震基盤面(図中の赤破線)に対比される反射面を抽出した。その結果,他の地層境界面と同じく,地震基盤面は北に向かうほど徐々に深くなり,測線北端付近では深度5600m程度と推定された。
(カ) 断層
断層を示唆する顕著な反射面のズレは認められなかった。