2−4−2 データ処理方法

データの処理は,共通反射点重合法に基づき,図2−4−2に示す標準データ処理フローにしたがって実施した。

(ア) データ編集

磁気テープに記録された測定データの編集を行い,データの品質を確認した。

(イ) ジオメトリー作成

発震点と受振点の中点を反射点と定義し,各測線において反射点分布(図2−4−3)に基づき,重合測線(図2−1−2)を設定した。共通反射点間隔は12.5mとして,重合測線に沿って共通反射点位置(CDP位置)を設定した。

(ウ) 最小位相変換(Minimum Phase Conversion)

スイープ信号との相互相関処理後の起震車の震源波形は,ゼロ位相型となっているが,後述するデコンボリューション処理を行うと波形の歪が起こる。これを避けるために,震源波形をゼロ位相から最小位相に変換するフィルターを原記録に適用した。

(エ) 共通反射点編集(CDP編集)

測線の屈曲の影響で,反射点は重合測線の周辺に帯状に分布するので,各共通反射点位置(CDP)に対し,原則として500m以内に分布する反射点を集めて,CDPギャザーに編集した。

(オ) 振幅補償(Gain Recovery)

反射波の減衰を補正するために,ゲート長 1200msecの自動振幅調整(AGC)を適用した。

(カ) デコンボリューション(Deconvolution)

発震点・受振点での応答特性の相違を補正し,分解能の高いデータを得るための波形変換処理(デコンボリューション)を行った。この処理は,多重反射波の除去にも効果がある。

・ゲート長   : 3000msec

・オペレータ長 : 360msec

・予測距離   : 4msec

・ホワイトノイズ: 0.5 %

(キ) 表層補正(静補正)

地表付近には,弾性波速度が極端に遅い(一般に,P波速度で1000m/s以下)表層部(未固結表土)が存在する。この表層部の分布(厚さ)の不規則性は,地下からの反射波の時間のずれとなって現れ,重合後の記録において著しい品質低下を招く。この対策として地表付近の表層部を除去し,その下の基底層の速度層に置換する表層補正(時間補正)を行った。表層補正値を求めるには,タイムターム法が実用的な方法である。

タイムターム法とは,基底層からの屈折波の観測走時を,表層を波が伝わる時間の項(タイムターム)と基底層を波が伝わる時間の項とに分解し,多数の観測値からこれらの未知数を連立方程式として解く方法である。タイムターム法により求めた表層構造を図2−4−4に示す。

(ク) 速度解析(Velocity Analysis)

速度解析とは,本章(1)で説明したNMO補正を行うために必要な速度情報を得るための解析である。反射イベントの走時はオフセット距離に対して,近似的に式2−2のような双曲線として与えられ,その曲率は速度の関数となる。 式2−2

は,水平多層構造の場合は,地表と反射面までの地層の平均的な速度として式2−3で与えられる。反射法における速度解析とは,このRMS速度を求めることに他ならない。RMS速度は重合速度とも呼ばれる。 

式2−3

実際の速度解析では,個々の反射イベントの曲率を解析してRMS速度を求めるのではなく,様々な速度に対してNMO補正と重合を繰り返し行って,最も反射イベントが鮮明で振幅が大きくなるような速度をRMS速度として抽出する。通常は,一定の速度でNMO補正を行って重合したパネル上から最適な速度を選択する定速度重合法が一般的に用いられる。

RMS速度が求まると,式2−4から区間速度や平均速度を計算し,深度と往復走時との関係式を得ることができる。 式2−4

   

NMO補正値( − )は,速度解析から得られた を式2−2に代入して式2−5で与えられる。

式2−5

定速度重合法(Constant Velocity Stack)により,測線に沿って1km間隔に速度解析を実施した。速度解析例を図2−4−5−1図2−4−5−2図2−4−5−3図2−4−5−4に,速度解析結果に基づく速度プロファイルを図2−4−6に示す。

また,後述するマイグレーション処理のために,反射面の傾斜の影響を除去した速度解析(DMO速度解析)も合わせて実施した(図2−4−7)。

(ケ) NMO補正(NMO Correction)

共通の反射点をもつ反射波(CDPギャザー)の受振点距離による到達時間の遅れを受振点距離0mの時間に補正するため,速度プロファイル(図2−4−6)に基づき,NMO補正を行った。

(コ) 残差静補正

各トレースの反射イベントは,表層補正とNMO補正により,理論的には同一の走時となるが,実際には表層補正での誤差の影響などでわずかな相違が見られる。その相違を解消するための補正値をトレース間の相関から求める残差静補正を実施した。残差静補正後,再び速度解析を行い,その精度を向上させた。

(サ) CDP重合(共通反射点重合)

NMO補正のCDPギャザーを重合した。

(シ) ノイズ抑制フィルタ

重合記録断面上で卓越するランダムノイズの抑制と擬似イベントの除去を目的として,F−X予測フィルタを適用し,連続性のある反射イベントを強調した。フィルタ適用後の重合記録断面図を図2−4−8に示す。

(ス) 時間マイグレーション(Time Migration)

差分法に基づいたマイグレーション処理を行った。速度については,反射面の傾斜の影響を除去したDMO速度プロファイル(図2−4−7)の100%値を適用した。

(セ) 帯域通過フィルタ

マイグレーション後の記録に対し,反射イベントを強調するために,帯域通過フィルタを適用した。浅部と深部では反射波の卓越する周波数が異なるので,往復走時に応じて,次の帯域幅のフィルタを適用し,マイグレーション時間断面図とした。

・0    〜 1.0sec 12/16 〜 40/48 Hz

・1.0    〜 2.5sec 10/12 〜 32/44 Hz

・2.5sec 〜 6/8 〜 24/32 Hz

マイグレーション時間断面図を図2−4−9に示す。

(ソ) 深度変換(Depth Conversion)

マイグレーション後の記録に対し,平滑化した速度関数を用いて,時間軸から深度軸へ変換を行い,図2−4−10及び図2−4−11(カラー表示)の深度断面図を作成した。なお,深度断面図の深度軸の表示は,標高0mを基準としている。