8−5 まとめ

ア 文献調査

・札幌中心部とその北西地域(石狩湾岸地域)について,地表から深度2000m付近までの地下の地質構造を統一的にまとめた資料(岡,2003)を収集し,ボーリング柱状図,材木沢層下限等深度線図及び西野層下限等深度線図を,微動アレー探査や反射法地震探査の解析の際,有効な資料として利用した。

・資源関係の既存反射法地震探査データ及び札幌地域の重力データを収集した。これらのデータについては再解析を行い,3次元地下構造モデル作成のための補足データとした(エとカ参照)。

イ 反射法地震探査

・解析の結果,基盤及びそれを厚く覆う堆積層の構造(速度構造、地質構造)を把握することができ,それらの情報を3次元地下構造モデルの基礎データとした。

・地層境界に対比されると考えられる反射面を,反射面の連続性,反射強度,反射パターン,速度解析から得られたP波速度,測線近傍の既存ボーリングデータなどに基づいて抽出し,反射断面を,地表から深部に向かって,第四系,当別層(西野層),望来層,盤の沢層・厚田層・奔須部都層(または小樽内川層)及び基盤に区分した。

・基盤上面は東に向かって徐々に傾斜を増し,測線東端では深度5600m程度と推定された。

・各地層の測線東端での沈み込みは,平成14年度反射法地震探査で捉えた月寒背斜構造の東(北)側における地層の沈み込みに対応する。

・同一地層内のP波速度は,深いところほど大きな値を示す傾向がある。

・CDP790〜850付近に東側上がりの逆断層が検出された。既存資料を参照すると,既存ボーリング茨戸SK−1付近に示されている逆断層の南方延長部を捉えた可能性がある。反射断面で見る限り,第四系の基底にまでは及んでいない。

・材木沢層(ほぼ第四系前半)と当別層(ほぼ新第三紀後期中新世末〜鮮新世中頃)の間に顕著な斜交不整合関係が存在することが明らかになったが,東寄りの沈降域(低重力域に対応)では両者は整合的関係であるが,西寄りの上昇域では当別層の上半部を欠如している。このことは当別層の堆積時後半から材木沢層の堆積開始の間に東西圧縮に伴う褶曲形成が開始されたことを示唆しており,岡(2003)の成果を踏まえ,材木沢層以上の地層の発達状況を判断すると,この褶曲活動は現在まで続いていることが明らかである。

・平成15年度反射法地震探査結果に基づいて平成14年度反射断面の再解釈を行った。

ウ 屈折法地震探査

・発震点VP−1及びVP−4の走時曲線の内,基盤を伝播してきたP波屈折波の走時と判断した区間の見掛け速度を用いて,傾斜2層構造と仮定した試算から,基盤のP波速度として5500m/s前後の値を得た。

・反射法地震探査結果に基づいて設定したモデルに対してレイトレーシング解析を行った結果,理論走時は観測走時をほぼ満足し,反射法地震探査結果の妥当性が確認できた。

エ 既存反射データ再解析

・再解析の結果,地震基盤(定山渓層群)までの地下構造を把握することができた。

・全体に緩やかに盛り上がる構造は,既存文献の西札幌背斜に対比される。

・既存文献に示されている逆断層が検出された。

オ 微動アレー探査

・計5地点において微動アレー探査を行い,空間自己相関法(SPAC法)による解析から,それぞれの地点の基盤までのS波速度構造を得た。

・さらに,微動アレー観測点全35地点において,空間自己相関法(SPAC法)から求めた解析結果を初期モデルとして,最小二乗法による多点同時解析を行った。解析に際しては,求める構造パラメータ(S波速度,層厚)に対して,各観測点間の関連性を保つための拘束条件(深度)を付加した。このようにして得られたS波速度構造を3次元地下構造モデルの基礎データとした。

カ 既存重力データ解析

・既存重力データ(ブーゲー重力異常)と反射法地震探査測線・微動アレー探査観測点・既存ボーリング点などにおける既知の基盤深度との関係を利用して,基盤深度データが疎な地域の基盤深度を求め,3次元地下構造モデル作成のための補足データとした。

・得られた基盤深度構造の妥当性を評価するため,調査地域を東西に横切る断面で重力のフォワードモデリングを行った。その結果,モデルの計算値は観測値をほぼ満足し,基盤構造の妥当性が確認できた。

・ただし,断面東端では計算値が観測値よりも大きな結果となっており,これについては平成16年度調査に計画されている地震探査の結果を待って再検討する必要がある。

キ 3次元地下構造モデルの作成

・反射解釈断面図と反射測線近傍での微動アレー探査結果とを比較・検討した結果,微動結果も反射法結果と同じように,同じ地層でも深いところほど大きなS波速度を示すという考え方で解釈すると,反射解釈断面と矛盾しないように層区分ができた。

・反射測線近傍での地層区分や既存ボーリング結果も参照しながら,東西及び南北の断面で微動観測点全35点の地層区分と同一速度層区分を行った。

・S波速度構造の地層区分線と同一速度層区分線とは浅部では比較的一致する場合もあるが,褶曲運動によって地層が沈み込んでいるようなところでは,同一速度層区分線は地層区分線ほど大きな深度変化は示さず,両者は一致しない。そこで3次元地下構造モデルとしては,地層区分に基づいたモデル(地質モデルと呼ぶ)と同一速度層区分に基づいたモデル(物性値モデルと呼ぶ)の2通り作成した。

・地質モデルとしては,第四系(材木沢層)基底,当別層(西野層)基底及び基盤面の等深度線図を作成した。

・物性値モデルとしては,微動アレー観測点全35点の解析結果を用いて,S波速度層第1層下面〜第6層下面(=地震基盤面)の等深度線図を作成した。第1層から第7層までのS波速度の平均値を,その分布深度区間長に重みを置いて求めた。

ク 地震動シミュレーションによるモデルの検証

・物性値モデルのS波速度構造について,平成14年度と同様に1次元地震動解析を実施してモデルの検証を行った。

・多点微動モデル(実際の微動探査で得られたS波速度モデル)と物性値モデル(S波速度平均値モデル)について応答計算を行い,それらを比較した結果,1次元地震動解析を行った多くの微動観測点において,S波速度の平均値を採用した物性値モデルを用いても,多点微動モデルとほぼ同じ応答計算結果を得られることがわかった。

・しかし,微動観測点No.3のように,1層目の速度差が倍以上あり,その層厚が50m以上ある場合は,構造モデルの検証対象である1Hz以下の伝達関数の増幅率にも大きく影響することがわかった。このことから,1層目のS波速度の差の影響に注意すれば,平均的な速度を用いて深部構造をモデル化しても,大きく地震応答に影響しないことがわかった。

・多くの地震観測点で,観測波と物性値モデルを用いた1次元地震動解析の結果得られた合成波は,S波初動の1波について良く一致していた。また,初動から5秒のフーリエスペクトルについても,0.2Hz〜1.0Hzの間で両者はほぼ同じ値であった。

・1次元の増幅特性の影響が大きいS波初動のピークトゥピーク値を比較した結果,計算された合成波のS波初動のピークトゥピーク値は,解析を行ったすべての地震観測点において,観測波のそれの0.7〜1.5倍の範囲であった。

・物性値モデルの場合も,微動アレー探査によって得られたS波速度構造と同様に地震動の1次元増幅特性をある程度説明できることが分かった。