計5ヶ所で微動アレー探査を実施した。これらの観測地点の設定に当たっては,主に次の3点を考慮した。
@ 平成14年度,平成15年度調査で実施された反射法地震探査結果および既存反射データ再解析結果と対比可能となること
A 人口密集地域である札幌中心部にも分布すること
B 調査地域西側の山麓部の構造をより詳細に検討できるようにすること
図6−3−1に微動アレー探査観測点及び反射法地震探査測線(以下,本章では反射測線と記す)と,平成14年度までに実施した微動アレー探査観測点を示す。微動アレー探査観測点については,○印を微動アレー探査地点のほぼ中心に置き,沿え字の数字をアレー探査地点番号とした。なお,同図には重力のブーゲー異常値のコンターライン(駒澤ほか,1998)も示してある。
各観測点アレーの中心の所在地,実施日を表6−3−1に示す。観測点番号は平成14年度までの調査における30地点に続く通し番号として,No.31から順次付した。
平成15年度反射測線近傍では,西からNo.27,No.23,No.8,No.9,No.13の各観測点で微動アレー探査が実施されている。一方,平成15年度に実施する既存反射データの再解析測線近傍には,比較検討できる微動アレー観測点が設定されていなかった。そこでNo.31観測点を再解析測線の南東端付近に設定した。
平成14年度反射断面では月寒背斜の構造が明らかとなったが,微動アレー探査観測点は,この背斜構造の頂点付近には設定されていない。そこで,No.33観測点を背斜構造頂点付近に計画したが,豊平川により地震計の配置が制約され,計画地点からやや北側へシフトした菊水元町地区に設定した。
・札幌市中心部
札幌市中心部では,札幌駅付近より南側にNo11,No19,No20,No12があり,北側にNo.7,No.8,No.24がある。これらのうち,No.24は札幌駅の北側における空白域をカバーする目的で,平成14年度調査の際に設定された。平成15年度は札幌駅の南側における空白域をカバーする目的でNo.35観測点を設定した。札幌駅の南側には国道や繁華街があるために測定が困難であることが予想されたが,北海道大学植物園の協力を得ることができ,同園内に測定器を設置することにより良好な環境下での測定が可能となった。
・調査地域西側
平成14年度に実施された反射法地震探査断面では,測線西側の山麓部で反射面の連続性がみられず,構造が複雑になっていることが想定された。そのため,山麓地域の構造を把握することを目的として,山麓地域で観測点が設定されていなかった西野地区にNo.34観測点を設定した。
・その他
観測点密度が疎になっている東区美香保公園北側にNo.32観測点を設定した。
イ アレーの形状及びアレーサイズ
本年度調査では,調査初年度(平成13年度)の成果をふまえて,微動アレー探査法の1つ「空間自己相関法(略称:SPAC法)」を採用することとなった。それに伴って,予めアレーの設計を行い,アレーの形状・大きさを決めた。
(ア) アレーの形状について
空間自己相関法を用いる場合には,地震計アレーが円形を構成するように配置することが望ましい。このアレーを「円形アレー」と呼ぶ。実際に観測で使用する円形アレーは,観測点を円周上に等間隔に3点,円の中心に1点の計4点での構成を基本とする。説明の便宜上,これを「基本アレー」と呼ぶ。なお,この形は正三角形をなすことから,「正三角形アレー」と呼ぶこともある。図6−3−2に基本アレーの模式図を示す。
円形アレーを設計する際,野外での観測の作業効率及び室内でのデータの解析効率を高めるように工夫する必要がある。つまり,アレーの設計目標として「より少ない観測点数から成る,より小さいアレーによって,周波数軸上なるべく切れ目なくしかもより広い周波数範囲で位相速度が得られる」ように工夫した。
(イ) 基本アレーの組み合わせについて
上記(ア)で述べたように,「基本アレー」は4台の地震計で構成されるが,実際の測定で,4台以上の地震計を用いることができる場合には,大きさを変えた基本アレーを,中心観測点を共通として組み合わせ,観測効率を上げて実施することが通常行なわれる。
組み合わせ方法としては,観測点を7点で構成する二重円形アレー(以下,二重正三角形アレーと記す)や観測点を10点で構成する三重円形アレー(以下,三重正三角形アレーと記す)が通常用いられる。もちろん,より多くの地震計が使用可能な場合には,四重正三角形アレー,五重正三角形アレーなどを設定することは,理論の上では可能である。いずれにせよ,これらは,上記(ア)で述べた「アレーの設計目標」に適うものの1つである。図6−3−3に二重三角形アレーの模式図を示す。●印は観測点(地震計)の位置である。また,図6−3−4には三重正三角形アレー模式図を示す。
(ウ) 相関距離と位相速度について
二重三角形アレーを例にとって述べると,アレー半径(本節ではRで表すこととする)が「1:2」の2種類の基本アレーを組み合わせて使った場合(図6−3−3参照),1観測地点に見かけ上アレー半径が異なる5種類の円形アレー(具体的には,R, √3R, 2R, 3R, 2√3R などの円形アレー)を展開したことと等価になり,それぞれについて解析上重要な「空間自己相関係数(略称:SPAC係数)」を求めることができる。すなわち,このような二重三角形アレーを1観測地点に展開することにより,目的とする位相速度の得られる波長範囲が,より広くなるという効果がある。以後,この見かけ上のアレー半径を「相関距離」と呼ぶ。
二重三角形アレーで,アレー半径が「1:2」の場合における相関距離の模式概念図を図6−3−5に示す。図左側が測定時の地震計組み合わせである。それを図右側のような配置で測定されたと見なして解析を行うものである。各組み合わせで用いる地震計は●で示してあり,それらの間の対応関係は実線,破線及び点線で示してある。この実線,破線及び点線で示してある地震計の対応関係(地震計間の距離,方位)は,図の左右で共通である。
このようなアレーの組み合わせにより,周波数軸上断片的ではあるが,いくつかの周波数範囲で,それぞれ相関距離の違いを反映した複数の位相速度の分散が得られる。つまり,同一周波数でそれぞれの相関距離に対応する位相速度が得られるが,その値がそれぞれ異なる場合(札幌市,2002,笹谷ほか,2000,馮ほか,2000)もあるし,同一の場合もある。
いずれにしろ,このようにして得られる位相速度には,
@ 観測データの質(例えば,非定常ノイズの有無,微動のパワーの強度など)
A 解析時のデータ処理法(例えば,データのリサンプル,種々の解析パラメータの設定など)
B 空間自己相関係数に固有の誤差(例えば,係数のvariance;松岡ほか,1996)
C アレー直下の地下構造の不均質
D 地下構造の不均質に関わる位相速度の推定方法
などが複雑に関係している。
(エ) アレーサイズについて
アレーの大きさ,すなわちアレーサイズは,円形アレーの半径あるいはアレーの中心点と正三角形の頂点との距離とする。
アレーサイズは解析できる表面波の波長範囲,すなわち探査可能深度に関係する重要な量である。これに関しては,相関距離の約10倍の波長まで解析可能,つまりその波長までの位相速度が推定可能という報告(宮腰ほか,1996)もある。これは数値シミュレーションによる結果であるが,アレーサイズの見積もりに参考となる。しかし,その波長範囲は原理的には探査地域の地下構造に依存することからも分かるように,あらかじめ「適切な」アレーサイズを定量的に見積ることはできない。
したがって通常は,
@ 異なる手法で得られている対象地域の既存資料を参照する
A 既存の同種観測例を参照する
などの方法を採る。そして@,Aの両方法,あるいは@かAのいずれかの方法により,地下構造の参照モデルを作り,それに基づく位相速度を試算し,観測可能な表面波のおおよその波長範囲を推定する。結果として,この波長範囲に基づいてアレーサイズを決めることができる。
本調査の対象地域すなわち「石狩平野北部地域」では,文献調査の結果,S波速度構造モデルの推定に参考となる既存資料は乏しく,上記@に依ることは極めて難しい。しかし,過去,本調査対象地域内で行われた数少ない微動アレー探査の結果があり,平成13年度調査では,これらを参照してアレーサイズを見積っている。平成14年度調査では,上記Aの方法,すなわち平成13年度の微動アレー探査結果を検討して,アレーサイズを決めた。平成15年度は平成14年度調査で設定したアレーサイズを踏襲することとした。
(オ) 平成15年度調査で用いるアレーについて
基本アレーの組み合わせに関しては,上記(イ)で述べたように,二重正三角形アレー(図6−3−3参照)又は三重正三角形アレー(図6−3−4参照)が用いられることが多い。
平成13年度調査では,三重正三角形アレーを用いた。三重正三角形アレーは,二重正三角形アレーと比較して,観測効率が良いこと,見かけ上のアレーサイズすなわち相関距離がより多く(9通り)とれること,など有利な点がある。しかし,一方で,10ヶ所で観測条件が同じになるように観測点(地震計設置点)を選定することが求められ,また,都市部などでは観測点が上手く選定できても,その中には交通ノイズや,そのほかの人工ノイズが高いところが含まれ「空間定常」を乱すので,このようなアレーは避けなければならない,という不利な点もある。
平成14年度調査では,郊外地域に観測予定地点の多いこともあり,事前調査で,各観測予定地点で,全ての観測点を選定することが極めて困難であるか,または一部ノイズ条件が良くない場所が含まれることが分かったために,図6−3−3に示す二重正三角形アレーで観測を行った。
平成15年度調査でも,山麓域,札幌市中心部,豊平川沿いなどに観測地点を設定したために平成14年度調査の際と同様な状況となった。
以上のような理由により,平成15年度も図6−3−3に示す二重正三角形アレーで観測を行うこととした。先に述べたようにアレーサイズも平成14年度に実施したものを採用して,実際のアレー半径は100m,300m,800mとした。つまり3種類の大きさの異なる二重正三角形アレーである。それぞれ小アレー,中アレー,大アレーと呼ぶ。
実際の観測点設置では,予め地図上で,予定観測地点に二重正三角形の中心を定め,それを中心とする円周上に仮の観測点をマークする。次いで,現地に赴き,構造物や立入禁止場所,水上の場所などを避け,裸地やアスファルト道路,コンクリート舗装の場所を探し出した。このようにして,前述の条件を7点全てが満たすような観測点を定め,図6−3−3に示す二重三角形アレーを構成した。
ウ 使用機材
観測使用機材は,特性の揃った地震計及びGPS時計付収録器とローパスフィルタである。表6−3−2に主要機器一覧を示す。
エ 作業手順
図6−3−6に作業手順を示す。
(ア) 事前準備,観測点(地震計設置点)の選定
事前準備として,都市現況図(1/5,000)上で観測点(地震計設置点)の予備設定を行い,それをもとに観測場所の下見によって設置場所の確保,ノイズ源の有無などを確認した。実際には二重正三角形の頂点となる位置に,地震計を設置することが困難な場合や,その位置が交通ノイズなどのために観測に支障をきたす場合がある。そのような場合には,配置点を中心としてアレー中心との距離に対して5%の円内(誤差円と呼んでいる)で,できるだけ観測に支障のない場所を選定した。
地震計の設置点が私有地の場合は,所有者の許可を求めた。また,公道を使用する場合には,あらかじめ道路を管轄する各警察署から道路使用許可を得た。さらに公園,河川堤防などを使用する場合には,各土木事務所,河川局などから許可を得た。
(イ) ハドルテスト
観測開始前に,全機器のキャリブレーション(ハドルテスト)を行った。これは,使用する機器すべてを近接設置して,5分間程度,微動の同時観測を行い,使用機器の特性に対する一致の度合いをチェックするものである。図6−3−7に,ハドルテスト(観測直前の11月11日実施)の結果例として,パワースペクトル,パワースペクトル比,コヒーレンス及び位相差を示す。
パワースペクトル比は,地震計番号1番の地震計におけるパワースペクトルを基準として,他の地震計のパワースペクトルとの比率を求めたものである。コヒーレンスは,位相特性の一致の度合いを表す指標であり,完全に一致していれば1.0を示す。1.0に近いほど一致の度合いは良い。位相差は,地震計番号1番の地震計における位相スペクトルを基準として,他の地震計の位相スペクトルとの角度差を求めたものである。
パワースペクトル,パワースペクトル比を調べることにより,各地震計における振幅特性の一致の度合いを確認することができる。パワースペクトル図を見ると,各地震計のパワースペクトルは,ほぼ一致していると考えられる。さらに,パワースペクトル比図では,パワースペクトル比が0.1〜10Hzの範囲で0.9〜1.1以内を示しており,解析上特に問題とはならないと判断される。コヒーレンス,位相差は解析上特に重要な特性で,コヒーレンス図,位相差図により,各地震計におけるこれらの特性の一致に関する度合いを確認することができる。コヒーレンスについては周波数0.1〜10Hzの範囲で0.99以上が得られている。また,位相差は周波数0.3〜7Hzの範囲で±3゜以内0.2〜0.3Hzおよび7〜10Hzの範囲で±5゜以内である。これにより,解析上これらの特性には問題がないと判断した。
(ウ) 観測(データ収録)
観測は各点独立記録方式を採用し,地震計1台ごとに記録器を設置して微動データを収録した。観測に際しては,地震計の水平を保ち,かつ地面とのカップリングが良好になるように注意した。地面が柔らかい場合には木製のスペーサを使用した。
観測スケジュールをあらかじめパーソナルコンピュータにより各記録器に対して設定しておき,自動観測とした。観測は7台の観測機器が同時に動作するように設定した。さらに観測前後にGPSによる時刻校正を行い,観測開始時刻と終了時刻との確認を行った。
今回は比較的ノイズが少ない場所に地震計を設置できたため,ほとんどの個所では昼間に測定を行った。札幌市中心部に設定したNo.35では昼間の交通量が多かったため,北海道大学植物園内の小アレーを除いて,中・大アレーは夕方〜夜間に測定を行った。観測時における安全を確保するために,測定装置の周りをセイフティーコーンと通しバーで囲んだ。また,夕方〜夜間の測定中は,照明で測定装置を照らし,監視員を配置した。通常の観測時間は120分とし,データのサンプリングは100Hzとした。
観測終了後,データをパソコンに転送して,品質のチェックを行い,問題がなければ次の観測点に移動した。