3−4 データ解析

ア 取得データの品質

札幌市街地の道路に沿って測線を設定したため,車両通行に伴うノイズによるS/Nの低下が懸念されたが,交通量が多いにもかかわらず,弾性波の伝播状況は良く,全体的に品質の良いデータが取得できた。図3−4−1−1図3−4−1−2図3−4−1−3図3−4−1−4図3−4−1−5図3−4−1−6に示す現場モニター記録を例にとって,記録に現れている反射波,屈折波の特徴について,以下に述べる。

(ア) 豊平川の東側での発震記録〜図3−4−1−1

全体的に低周波成分が卓越しており,屈折初動の繰り返しが見られる。屈折初動の伝播距離は,他区間の記録と比較してあまり良くない。発震点近傍での屈折初動の見かけ速度は1,800〜1,900m/sである。

(イ) 道道丘珠空港東線での発震記録〜図3−4−1−2

交通量のわりには記録の品質は良好であり,発震点から受振区間の端まで屈折初動は伝播している。豊平川の東側の区間と比較して高周波成分が含まれ,波形が鮮明となっている。西側に展開長が長く,第2層以下の屈折波(見かけ速度約3,500m/s)が見られる。往復走時で1秒程度までの区間には,明瞭な反射波が見られる。

(ウ) 丘珠空港線・篠路道での発震記録〜図3−4−1−3図3−4−1−4

記録の品質は良好である。発震点近傍での屈折波の見かけ速度は1,600〜1,800m/s程度である。地表から往復走時で1.5秒までの区間には明瞭な反射波が見られる。特に,1〜1.5秒の区間に存在する反射波の頂点が発震点から西側にずれているので,反射面は東方向に傾斜していると考えられる

(エ) 主要道札幌北広島環状線での発震記録〜図3−4−1−5図3−4−1−6

記録の品質は良好である。発震点近傍での屈折波の見かけ速度は1,600〜1,800m/s程度である。地表から往復走時で1.2秒までの区間には明瞭な反射波が見られる。反射波の頂点はほぼ発震点の直下に存在するので,反射面は概ね平らであると考えられる。

イ データ処理方法

データの処理は,共通反射点重合法に基づき,図3−4−2に示す標準データ処理フローにしたがって実施した。

(ア) データ編集

磁気テープに記録された測定データの編集を行い,データの品質を確認した。

(イ) ジオメトリ作成

発震点と受振点の中点を反射点と定義し,各測線において反射点分布(図3−4−3)に基づき,重合測線(図3−4−4)を設定した。共通反射点間隔は12.5mとして,重合測線に沿って共通反射点位置(CDP位置)を設定した。

(ウ) 最小位相変換(Minimum Phase Conversion)

スイープ信号との相互相関処理後の起震車の震源波形は,ゼロ位相型となっているが,後述するデコンボリューション処理を行うと波形の歪が起こる。これを避けるために,震源波形をゼロ位相から最小位相変換するフィルターを原記録に適用した。

(エ) 共通反射点編集(CDP編集)

測線の屈曲の影響で,反射点は重合測線の周辺に帯状に分布するので,各共通反射点位置(CDP)に対し,原則として500m以内に分布する反射点を集めて,CDPギャザーに編集した。

(オ) 振幅補償(Gain Recovery)

反射波の減衰を補正するために,ゲート長 1200msecの自動振幅調整(AGC)を適用した。

(カ) デコンボリューション(Deconvolution)

発震点・受振点での応答特性の相違を補正し,多重反射波の除去など分解能の高いデータを得るための波形変換処理(デコンボリューション)を行った。

・ゲート長   : 2000msec

・オペレータ長 : 240msec

・予測距離   : 48msec

・ホワイトノイズ: 0.5 %

(キ) 表層補正(静補正)

地表付近には,弾性波速度が極端に遅い(一般に,P波速度で1000m/s以下)表層部(未固結表土)が存在する。この表層部の形状の不規則性は,地下からの反射波の時間のずれとなって現れ,重合後の記録において著しい品質低下を招く。この対策として地表付近の表層を除去し,その下の基底層の速度層に置換する表層補正(時間補正)を行った。表層補正値を求めるためには。タイムターム法が実用的な方法として用いられる。

タイムターム法とは,基底層からの屈折波の観測走時を,表層を波が伝わる時間の項(タイムターム)と基底層を波が伝わる時間の項とに分解し,多数の観測値からこれらの未知数を連立方程式として解く方法である。タイムターム法により求めた表層構造を図3−4−5に示す。

(ク) 速度解析(Velocity Analysis)

速度解析とは,NMO補正を行うために必要な速度情報を得るための解析である。反射イベントの走時はオフセット距離に対して,近似的に(3.2)式(式3−2)のような双曲線として与えられ,その曲率は速度の関数となる。

式3−2

rms は,水平多層構造の場合は,地表と反射面までの地層の平均的な速度として(3.3)式(式3−3)で与えられる。反射法における速度解析とは,このRMS速度を求めることに他ならない。

式3−3)             

実際の速度解析では,個々の反射イベントの曲率を解析してRMS速度を求めるのではなく,様々な速度に対してNMO補正と重合を繰り返し行って,最も反射イベントが鮮明で振幅が大きくなるような速度をRMS速度として抽出する。通常は,一定の速度でNMO補正を行って重合したパネル上から最適な速度を選択する定速度重合法が一般的に用いられる。

RMS速度が求まると,(3.4)式(式3−4)から区間速度や平均速度を計算し,深度と往復走時との関係式を得ることができる。

式3−4

NMO補正値(−)は,速度解析から得られたを(3.2)式に代入して式3−5

式3−5

で与えられる。

定速度重合法(Constant Velocity Stack)により,測線に沿って1km間隔に速度解析を実施した。速度解析例を図3−4−6−1図3−4−6−2図3−4−6−3図3−4−6−4に,速度解析結果に基づく速度プロファイルを図3−4−7に示す。

また,後述するマイグレーション処理のために,反射面の傾斜の影響を除去した速度解析(DMO速度解析)も合わせて実施した(図3−4−8)。

(ケ) NMO補正(NMO Correction)

共通の反射点をもつ反射波(CDPギャザー)の受振点距離による到達時間の遅れを受振点距離0mの時間に補正するため,速度プロファイル(図3−4−7)に基づき,NMO補正を行った。

(コ) 残差静補正

各トレースの反射イベントは,表層補正とNMO補正により,理論的には同一の走時となるが,実際には表層補正での誤差の影響などでわずかな相違が見られる。その相違を解消するための補正値をトレース間の相関から求める残差静補正を実施した。残差静補正後,再び速度解析を行い,その精度を向上させた。

(サ) CDP重合(共通反射点重合)

NMO補正のCDPギャザーを重合した。

(シ) ノイズ抑制フィルタ

重合記録断面上に卓越するランダムノイズの抑制と擬似イベントの除去を目的として,F−X予測フィルタを適用し,連続性のある反射イベントを強調した。フィルタ適用後の重合記録断面図を図3−4−9に示す。

(ス) 時間マイグレーション(Time Migration)

差分法に基づいたマイグレーション処理を行った。速度については,反射面の傾斜の影響を除去したDMO速度プロファイル(図3−4−8)の100%値を適用した。

(セ) 帯域通過フィルタ

マイグレーション後の記録に対し,反射イベントを強調するために,帯域通過フィルタを適用した。浅部と深部では反射波の卓越する周波数が異なるので,往復走時に応じて,次の帯域幅のフィルタを適用し,マイグレーション時間断面図とした。

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マイグレーション時間断面図を図3−4−10に示す。

(ソ) 深度変換(Depth Conversion)

マイグレーション後の記録に対し,平滑化した速度関数を用いて,時間軸から深度軸へ変換を行い,図3−4−11及び図3−4−12(カラー表示)の深度断面図を作成した。加えて,平成14年度の反射断面と合わせてパネルダイヤグラム(立体視)も作成した(図3−4−13−1図3−4−13−2)。なお,深度断面図の深度軸の表示は,標高0mを基準としている。