No.12では,低周波数側の0.28〜0.37Hzで残差が大きくなっており,観測位相速度はモデルによる理論値よりも大きな値となっている。次項の感度分析で検討すると,基盤S波速度が500m/s速いモデルを適用しても,観測位相速度との一致は良くならない。これは,この観測位相速度に合うモデルは,その構造が周辺における微動探査の結果や,反射法などの探査結果から得られるものとは,かけ離れた構造モデルとなってしまうことを意味する。
この部分に残差が生じていることの妥当性に関して考察するために,No.12に比較的近い場所で本年度測定されたNo.24の結果を検討してみた。これらの観測位相速度を比較したものを図7−1−2に示す。観測位相速度の形状は,全体では類似した形状を示しているが,先に示した0.28〜0.37Hz では値に相違が見られる。またNo.24では,観測位相速度をほぼ説明できるモデルが得られている。このことから,この部分では観測位相速度のデータの品質が悪いためであることが可能性のひとつとして考えられる。
このようにして,この部分に残差が生じていることを重視しないで,得られたモデルを比較検討してみる。No.12,No.24それぞれのモデルを図3−6−1−12,図3−6−1−24に示す。これらのモデルは深度1000m〜1700m付近の構造に若干の違いが見られるものの基盤深度が2000m程度であることや,第2層深度が400m付近となることなど全体的には類似したモデルが得られている。
No.30に関しては,感度分析の結果を検討すると逆解析モデルより若干速いS波速度を与えた場合に,低周波数側の0.2〜0.235Hz付近で観測位相速度をより満足する。ただし,0.25〜0.3Hz付近は少し悪くなる。この観測点は,基盤S波速度の探索範囲をより速い値に設定するか,より深部の影響を検討する必要があると考えられる。
探索範囲を制限したことにより,残差が系統的に拡大されて観測位相速度を説明できなかった観測点は特に見られず,これらのモデルから3次元的S波速度構造が推定できると考えられる。