探索範囲は,有用な事前情報がある場合,これを用いて設定し,効果的な解析を行うことができる(例えば,松岡ほか,2000)。当地域では,その情報として深部ボーリングについていえば周辺地域における石油関連のものに限られる。反射法地震探査関係の情報については,石油などの深部探査を目的としたものがあるが,その内容は公表されていない。本調査地域は,事前情報として参照できるものは非常に少ない。
また,平成13年度に実施した微動アレー探査結果との比較・検討を行う際には同じパラメータ(条件)で解析されたもので行う方がよいと考えられる。そこで,これらのパラメータに関しては平成13年度と同様のものを用いることとした。
平成13年度は,調査地域の西側山麓地域と中央・東部平地地域とでは,地下構造が異なることが予想されたため,それぞれの地域に適した探索範囲を設定した。本年度調査(追加調査含む)の微動観測点は,主に中央・東部平地地域に位置するため,平成13年度の中央・東部平地地域で設定した探索範囲を用いた。
解析に用いたパラメータを以下に示す。
解析層数:6
探索範囲(平成13年度調査の中央・東部平地地域で設定した探索範囲に同じ)
層 層厚(m) S波速度(m/s)
1 50 〜 300 100 〜 600
2 100 〜 1000 400 〜 1200
3 300 〜 1300 500 〜 1500
4 500 〜 2000 800 〜 2000
5 500 〜 2000 1200 〜 2700
6 −−− 2000 〜 3500
解析では,S波速度構造の候補解を10個求めることとした。観測点No.27における例を図3−5−6に示す。図中,上右側が推定S波速度構造の候補,上左側が図右側の構造によるレイリー波基本モードの理論位相速度である。また,観測データから得られた位相速度を○印で示してある。この結果では,10個のS波速度構造モデルは全て解析された位相速度に十分適合している。よって,この10個のS波速度構造モデルは全て候補解となりうる。
データ解析の項で述べたように候補解から最適解を選定または推定していくためには,ボーリング結果や反射法結果などの独立した情報のあることが望ましい。本年度は,反射法探査が実施されたが,測線は豊平川沿いに限られる。そのため,全調査地域にわたって,そのような手段による最適解の推定は難しい。そこで,ここでは平成13年度の構造に調和する解を最適解とした。
図3−5−6のうち,下図右側は観測点No.27において選定した最適推定S波速度構造,下図左側は右側の構造によるレイリー波基本モードの理論位相速度である。最適解を残差最小ではなくて,上で示した検討結果を用いて選定した。そこで,最適解による理論位相速度と観測データから得られた位相速度との残差を調べた。それが最下図に示してある。残差の定義には以下の式による相対残差を用いた。
E=|Cobs−Ccal|/ Cobs
ここで,Eが相対残差,Cobsが観測値,すなわち解析で得られた位相速度,Ccalが計算値,すなわち理論位相速度である。この結果から,No.27では,0.65Hz付近.0.85Hz付近,0.95Hz付近.1.2Hz付近で0.05〜0.08,すなわち約5〜8%の相対残差があるが,それ以外では,相対残差は,ほぼ2%以下である。
本年度に実施した全観測点の解析結果を図3−5−7−1、図3−5−7−2、図3−5−7−3、図3−5−7−4、図3−5−7−5に示す。図右側には,上で示した手順によって決定されたS波速度構造と,その探索範囲を示している。推定されたS波速度構造は,本調査での目的の1つ,すなわち地震基盤と考える最下層は明らかに探索範囲内に収まっている,妥当なS波構造と考える。また左側には,解析された位相速度(○印)とS波速度構造から計算されるレイリー波基本モードの理論位相速度(実線)を重ねて示してある。これらは比較的良く一致しており,推定されたS波速度構造は観測から得られた位相速度をほぼ説明できていると考えられる。
次に平成13年度,14年度調査で得られた計30点の微動探査結果に関して,これを用いて3次元モデルを構築していくにあたっての検討を行う。