(4)アレーサイズについて

アレーの大きさ,すなわちアレーサイズは,ここでは,円形アレーの半径あるいはアレーの中心点と正三角形の頂点との距離とする。一般に,アレーサイズの見積もり方については,調査域の如何に関わらず通用するという標準的な方法はない。

周知のように,アレーサイズは解析できる表面波の波長範囲,すなわち探査可能深度に関係する重要な量である。これに関しては,相関距離の約10倍の波長まで解析可能,つまりその波長までの位相速度が推定可能,という報告(宮腰ほか,1996)もある。これは数値シミュレーションによる結果であるが,アレーサイズの見積もりに参考となる。しかし,その波長範囲は原理的には探査地域の地下構造に依存することからも分かるように,あらかじめ「適切な」アレーサイズを定量的に見積ることはできない。それではどのようにして見積もるか。

通常は,

@ 異なる手法で得られている対象地域の既存資料を参照する

A 既存の同種観測例を参照する

などの方法を採る。そして@,Aの両方法,あるいは@かAのいずれかの方法により,地下構造の参照モデルを作り,それに基づく位相速度を試算し,観測可能な表面波のおおよその波長範囲を推定する。結果として,アレーサイズを見積ることができる。

本調査の対象地域すなわち「石狩平野北部地域」では,文献調査の結果,S波速度構造モデルの推定に参考となる既存資料は乏しく,上記@に依ることは極めて難しい。しかし,過去,本調査対象地域内で行われた数少ない微動アレー探査の結果があり,平成13年度調査では,これらを参照してアレーサイズを見積っている。本年度調査では,さらに平成13年度の結果も参照できる。すなわち上記Aの方法を採ることができる。

本年度調査のアレーサイズを見積るために,平成13年度の結果を再検討した。次に,その検討内容について記す。

平成13年度の微動観測点の中から,本年度調査の「予定」観測地点に近い観測点を選び,実際に採用されていたアレーサイズとそれぞれの解析結果,具体的には位相速度の推定に至る問題点について検討した。

平成13年度の解析結果の中に,アレーサイズが異なると,同一周波数でも異なる位相速度が求められているという例が見られた。しかしその原因を個々に突き止めることは容易でない。

そこで,視点を変えて,解析手順としては位相速度推定の1つ前の段階で得られるSPAC係数について検討を試みた。つまり,平成13年度に推定したS波速度構造から計算される理論空間自己相関係数(以後,モデルSPAC係数と呼ぶ)と各相関距離で実際に解析された空間自己相関係数(以後,解析SPAC係数と呼ぶ)とに注目し,

@ 両係数の比較

A 両係数が一致しない場合の相関距離の検索

B その不一致の度合いに基づいた「解析への寄与の低い相関距離」の判定

などの検討を行った。

この検討に用いたアレーサイズ,すなわち相関距離と「モデル」及び「解析」の両SPAC係数との関係を,図3−3−6−1図3−3−6−2、、図3−3−6−3図3−3−6−4図3−3−6−5図3−3−6−6図3−3−6−7に示す。上図はモデルSPAC係数と解析SPAC係数を重ね描きしたものである。点線がモデルSPAC係数,実線が解析SPAC係数である。なお,解析SPAC係数は相関距離によって色分けした。中図,下図は,それぞれ小アレー,大アレーの各相関距離におけるモデルSPAC係数に対する解析SPAC係数の残差を示す。これも相関距離ごとに同様の色分けした。

アレーサイズを検討するときには,残差に定量的な閾値などを設定したりせずに,図の上で残差の定性的特徴をとらえ,モデルSPAC係数値から明らかに外れた値となっているアレーサイズに注目した。

このようにして一連の図を見ると,総じて相関距離が1500m以上で一致の精度が低下し始め,相関距離3000m,3460mでは,解析SPAC係数がモデルSPAC係数から完全に乖離し,解析への寄与が極めて低くなる様子が分かる。また,相関距離2290mも一致の精度はよくないが,基盤深度が深く解析されているNo.13などのように低周波数側で解析に貢献している観測点も見られる。つまり,平成13年度に採用したアレーサイズの場合,解析に有効な最大相関距離は約3000mと判定される。

以上のことから,本年度採用すべきアレーサイズを見積ると,最大相関距離が2300m〜3000mを越えないこと,という結論になる。