(3)相関距離と位相速度について

二重三角形アレーを例にとって述べると,アレー半径(本節ではRで表すこととする)が「1:2」の2種類の基本アレーを組み合わせて使った場合(図3−3−3参照),1観測地点に見かけ上アレー半径が異なる5種類の円形アレー(具体的には,R, √3R, 2R, 3R, 2√3R などの円形アレー)を展開したことと等価になり,それぞれについて解析上重要な「空間自己相関係数(略称:SPAC係数)」を求めることができる。すなわち,このような二重三角形アレーを1観測地点に展開することにより,目的とする位相速度の得られる波長範囲が,より広くなるという効果がある。以後,この見かけ上のアレー半径を「相関距離」と呼ぶ。

二重三角形アレーで,アレー半径が「1:2」の場合における相関距離の模式概念図を図3−3−5に示す。図左側が測定時の地震計組み合わせである。それを図右側のような配置で測定されたと見なして解析を行うものである。各組み合わせで用いる地震計は●で示してあり,それらの間の対応関係は実線,破線及び点線で示してある。この実線,破線及び点線で示してある地震計の対応関係(地震計間の距離,方位)は,図の左右で共通である。

このようなアレーの組み合わせにより,周波数軸上断片的ではあるが,いくつかの周波数範囲で,それぞれ相関距離の違いを反映した複数の位相速度の分散が得られる。つまり,同一周波数でそれぞれの相関距離に対応する位相速度が得られるが,その値がそれぞれ異なる場合(札幌市,2002,笹谷ほか,2000,馮ほか,2000)もあるし,同一の場合もある。

いずれにしろ,このようにして得られる位相速度には,

@ 観測データの質(例えば,非定常ノイズの有無,微動のパワーの強度など)

A 解析時のデータ処理法(例えば,データのリサンプル,種々の解析パラメータの設定など)

B 空間自己相関係数に固有の誤差(例えば,係数のvariance;松岡ほか,1996)

C アレー直下の地下構造の不均質

D 地下構造の不均質に関わる位相速度の推定方法

などが複雑に関係している。