6−2−2 微動アレー結果による地下構造モデルの検討

地震動予測には,S波速度構造が重要なパラメータとなる。また,本年度は反射法地震探査を実施していないため,3次元地下構造モデル(第1次)の作成に当たっては,微動アレー探査によるS波速度構造モデルを基本とすることにした。

微動アレー探査によるS波速度構造モデル(断面)作成の手順は以下のとおりである。

本年度は21地点において微動アレー探査を実施し,それぞれの観測点におけるS波速度構造を推定した。微動アレー探査での構造解析に当たって,基礎試錐「石狩湾」における弾性波速度から構造モデルパラメータを設定した。基礎試錐「石狩湾」では,@地層を5層に区分しており,弾性波速度から各層には速度コントラストが期待されること,A各種検層が行われており,各層の物性値が把握できることから,基礎試錐「石狩湾」の結果を基に,S波構造モデルは,5層モデルとすることにした。

次に,各観測点におけるS波速度構造と他の観測点おけるS波速度構造との対比を行った。対比に当たっては,観測点Aの第i層と観測点Bの第i層とでは,同じ第i層であるが,同じS波速度を有しているとは限らない。そこで,ほぼ同じS波速度を示していると考えられる層同士を対応させて,S波速度構造断面図を作成した。断面線位置を図6−4に,S波速度断面図を図6−5図6−6に示す。S波速度断面図において,実線で示した層境界は,ほぼ対応関係がついたと考えられるもので,点線が対応の難しいものである。

さらに,各速度層と地質との対応を検討した。基礎試錐「石狩湾」では,地質は新しいものから順に第四系,当別・望来層,盤の沢〜厚田層,奔須部都層,定山渓層群に区分されている。基礎試錐「石狩湾」のソニック検層の結果からは,奔須部都層下部の礫岩は,定山渓層群とほぼ同様な弾性波速度を有すると判断されるが(図2−28−2参照),微動アレー探査実施地点では,奔須部都層下部が存在しない可能性が高いことから(図2−6参照),ここでは,奔須部都層を上部・下部に区分せず取り扱った。基礎試錐「石狩湾」の結果によると,上記5層のS波速度は,第四系:650m/s,当別・望来層:950m/s,盤の沢〜厚田層:1,850m/s,奔須部都層:2,300m/s,定山渓層群:3,000m/s程度となることが予想される。S波速度断面で対比した第1層〜5層のS波速度範囲と,上記各地層の予想S波速度から,S波速度構造断面の各層は,以下の地質に対比される。

層番号  地質名        S波速度範囲

第1層  表層および第四系         〜 900m/s

第2層  当別・望来層     900m/s 〜 1500m/s

第3層  盤の沢〜厚田層   1300m/s 〜 2000m/s

第4層  奔須部都層      1800m/s 〜 2700m/s

第5層  定山渓層群      2800m/s 〜

S波速度構造断面図をみると,地震基盤と判断される定山渓層群(第5層)は,東西方向断面では深度1,900〜4,200mに認められ,手稲付近では浅く,東米里に向かって深くなっている。北西−南東断面では,ほぼ同程度の深度1,600〜2,200mに分布すると判断される。

このS波速度構造断面と上記 ア で作成した地質断面と比較すると,大局的には,S波速度構造断面は,地質断面と比較して奔須部都層の層厚が厚く推定されている。一方,当別・望来層の層厚は薄く推定されている。不一致の原因として,

@ 微動アレー探査におけるS波速度構造モデル

A 地質断面における深部構造の精度

B S波速度と地質との対応関係

に,問題があるためと考えられる。@に関しては,3章の微動アレー探査で述べたように,最適モデルの作成に対して,反射法などを実施した段階で再検討する必要がある。また,ほぼ同じS波速度を示している層を全調査地域で対応させることが適当かの検討も必要となる。Aに関しては,ボーリング到達深度以深の地層境界は,深部ボーリングで得られている層厚が変化しないものとして推定している点で,不確かさが残っている。Bに関しては,本調査地域から離れている基礎試錐「石狩湾」の資料を用いているために,その結果を本調査地域に,そのまま適用することが適当かという問題を含んでいる。また,地質区分とS波速度が1:1に対応するのか,山麓域においても同じ地層区分が適当かという問題もある。

今後,反射法地震探査結果との対比を含め,再検討を行う。