5−4−4 3次元シミュレーションによるモデルの検討

上記の手法及び諸条件によって、水平方向100m、鉛直方向50m間隔、深さ3kmまでを東西901×南北851×鉛直60個の格子に量子化したモデルを作成した。このモデルをもとに大阪平野地域を対象として、Pitarka(1999)による3次元差分法を用いてシミュレーションを実施した。改良されたモデルは大阪湾を含む領域であるが、パスによる影響をできるだけ排除するために、改良モデルの地域に比較的近くで発生した四方向の地震を用いて解析を行うことにした。シミュレーションの対象とした地震を表5−2に示す。

表5−2 シミュレーションの対象とした地震

大阪平野における基盤岩内部に関する物性値の情報は極めて少なく、基盤岩の詳細な速度を決定するのは困難であるため、作成されたモデルには基盤岩についての情報は与えられていない。このため基盤岩については、香川ほか(1990)、鳥海(1990)の屈折法探査結果やGS−K1孔における速度検層などを参考に、地表面におけるP波速度を5.4km/sとして深さ方向に速度勾配を与えるものとした。また、S波速度および密度に関しても同様に地表面におけるS波速度(2500m/s)および密度値(2.7g/cmP3P)とした基盤岩中の速度構造を表5−3に示す。

表5−3 基盤岩の速度構造

計算は水平方向に200m、鉛直方向50〜200mの不等間隔格子、時間刻みを250Hzで行った。F0=0.5HzとしてGraves(1996)によるQを用い、堆積層中のQ値はS波速度(m/s)の1/5として与えた。

解析に使用した震源位置及び地震波形の比較検討に使用した観測点の配置図等を図5−16にまとめて示した。解析によって得られた計算波形を大阪府下の観測点で観測された波形とをあわせて図5−17−1図5−17−2図5−17−3図5−17−4に示す。各波形は速度波形でそれぞれ0.1〜0.5Hzのバンドパスフィルターを施してある。なお、各観測点での計算と観測のS波初動の到達時間には最大0.5sec程度の時間のズレが見られたため、それぞれ観測点の波形はS波初動がほぼ揃うように波形をシフトさせた。また、図5−18−1図5−18−2図5−18−3図5−18−4に4秒ごとの3成分合成後のスナップショットを示す。

図5−17−1図5−17−2図5−17−3図5−17−4から、現状のモデルでは以下の点が上げられる。なお、文中の地震番号は表5−2にしたがっている。

@ 岩盤上の観測点とされる千早(CHY)はS波初動付近ではよく一致しており、計算で与えた震源解はまず妥当と考えられる。

A 鉛直方向で50mの格子であるため、大阪平野の表層付近に見られるごく遅い粘土層までは表現されていない。しかし、観測記録との比較からS波の速度構造としては、まず妥当なモデルになっていると考えられる。

B 両モデルとも各観測点とも1次元的な構造が大きく影響するS波初動付近から10秒程度までの波形はあまり変化していない。それぞれのモデルにおける基盤岩深度の差は、大阪平野南部地域で顕著であり北部ではあまり変わらなかったことに起因する。

C 忠岡(TDO)、豊中(TYN)の波形は各地震ともよく一致している。これらの観測点は基盤岩深度がやや浅く、長周期の表面波の影響を受けにくいためと考えられる。

D 弥栄(YAE)は地震1、2、3では観測記録と比較的良い一致を示すが、地震4ではあまり良くない。YAE南部の基盤岩深度と断層の設定の見直しがさらに必要と考えられる。

E 上町断層の近傍にある大阪市大(OCU)、堺(SKI)は後続の波群は、観測点南部で発生した地震2、東部で発生した地震4とも表現されていない。OCUは地震2、4とも振幅がやや小さく、位相のややずれた後続波が見られている。しかし、地震4におけるSKIはS波到達後10秒程度から全く一致しないことから、観測点東部の後続波を生成させる構造が表現されていない可能性が高い。

F 2000年5月16日の地震に茨木白川(SRK)で観測されたの後続波のうちEW成分の18secほどに特徴的な後続波が見られている。計算結果にもこれに相当する後続波が見られているが走時にズレが見られる。この走時差はS波の初動走時に比べ大きいことから、SRK観測点より北部におけるモデルの堆積層のS波速度構造が遅い、計算の際に与えた周辺の基盤岩速度構造が速い、といった可能性が考えられる。

図5−17−1 3次元シミュレーションによる観測と解析の速度波形比較

1999年7月15日の地震

図5−17−2 3次元シミュレーションによる観測と解析の速度波形比較

1999年8月2日の地震

図5−17−3 3次元シミュレーションによる観測と解析の速度波形比較

2000年5月16日の地震

図5−17−4 3次元シミュレーションによる観測と解析の速度波形比較

2000年8月27日の地震

図5−18−1 3次元シミュレーションによる地表面のスナップショット

3成分をベクトル合成して表示。値はkine。(1999年7月15日の地震)

図5−18−2 3次元シミュレーションによる地表面のスナップショット

3成分をベクトル合成して表示。値はkine。(1999年8月2日の地震)

図5−18−3 3次元シミュレーションによる地表面のスナップショット

3成分をベクトル合成して表示。値はkine。(2000年5月16日の地震)

図5−18−4 3次元シミュレーションによる地表面のスナップショット

3成分をベクトル合成して表示。値はkine。(2000年8月27日の地震)