@ 密度構造モデル及び密度の推定
既存の地震探査のP波速度のデータから、次のような二層構造を想定した。
・基盤岩類:4.7〜5.6km/s
・地表〜基盤岩上面:1.6〜3.9km/s
それぞれの層の密度は、Gardner et al.(1974)による以下の式を用いてP波速度から変換した。
Ρ=0.31・V1/4
ここで、ρは密度(g/cm3)、VはP波速度(m/s)である。
変換された密度の平均値は、次のとおりである。
・基盤岩類:2.64g/cm3
・地表〜基盤岩上面:2.30 g/cm3
この密度構造が妥当なものであるかどうかを検証するために、既存のボーリング(愛宕橋Br、サンピア仙台Br、仙台Br)を結ぶ測線C−C’で断面解析を行った。
各ボーリング位置で境界深度を固定し、測定値と計算値が最もよく合うように他の点での境界深度を変化させた。その結果を図3−1−2−7に示す。図3−1−2−7 によると、各ボーリング位置で固定した基盤深度とその周辺の基盤深度は、スムーズに変化している。重力断面解析測線A−A’および重力断面解析測線B−B’についても、同じ密度構造を持つ二層構造を仮定して断面解析を行った。
A重力断面解析測線A−A’の解析結果
図3−1−2−8に重力断面解析測線A−A’の解析結果示す。
距離26.7kmの地点に、愛宕橋Brが位置する。第二層の上面深度は、ボーリング柱状図の基盤深度とほぼ一致している。距離0〜22.0kmは既往の反射法地震探査測線であるH13−LINE−A測線に対応している。第二層の上面深度は、図3−1−2−8に黒太実線で示した反射法の解析結果の境界面A(P波速度が6km/s以上になる境界;財団法人地震予知総合研究振興会,2002)とほぼ一致している。大局的には盆状構造を示しているが、距離11〜20kmでは短波長の重力変化が見られる。この箇所では、第二層の上面深度も重力値に合うように変化しているが、反射法の結果とは食い違いが見られる。これは、地質図によると9〜13kmは酸性凝灰岩からなる密度の低い白沢層(秋保層群)、17〜22kmは安山岩−玄武岩溶岩からなる密度の高い三滝層(秋保層群)が厚く分布していることに起因していると推定される。図3−1−2−9に第一層内の部分的な密度変化を考慮した解析結果を示す。図3−1−2−8と比較して、第二層の上面深度の変化が滑らかになり、反射法解析結果の境界面Aに近づいているのが分かる。
B測線B−B'の解析結果
図3−1−2−10に重力断面解析測線B−B’の解析結果を示す。反射法地震探査測線(H14−A測線)は、18〜22km間に位置している。
大局的な第二層上面深度の分布は、測線両端で深く、中央部で浅くなっている。距離8.0〜20.0kmでは重力異常値が高い値を示しており、基盤深度も浅くなっている。
測線中央部の距離23.0〜27.0kmでは窪みが認められる。この窪みの深度、形状は反射法地震探査(H14−A測線)の結果とほぼ一致している。窪みの最深部の深度は約790mである。
距離14.0km地点の東方約3kmの箇所で利府層の露頭が認められており、図3−1−2−4に示した残差ブーゲー異常図では、ここで最大28mgalの高重力異常を形成している。距離8.0〜9.0km、18.0〜20.0kmの箇所では地表付近にまで基盤が盛り上がっており、測定値が計算値より大きくなっていることから、ここでは想定密度2.64g/cm3より高いものが分布している可能性がある。
2)三次元基盤構造解析
駒澤(1980)の方法によって、三次元基盤深度分布を求めた。密度差は、二次元断面解析と同じ0.34g/cm3と、それよりも第一層の密度を低く想定して第二層との密度差を大きくした0.40g/cm3および0.50g/cm3の3種類について解析した。図3−1−2−11に地形図を、図3−1−2−12、図3−1−2−13、図3−1−2−14に各密度差での基盤深度を示す。各密度差から解析した基盤深度を比較すると、各解析結果とも同様な傾向を示しており、密度差を大きくすると基盤深度が浅めに解析されているのが分かる。
図3−1−2−15、図3−1−2−16、図3−1−2−17は、それぞれの密度差において解析した基盤深度から計算して求めた残差ブーゲー異常図を示している。図3−1−2−18および図3−1−2−19には、密度差0.34g/cm3の基盤深度を2方向から見た鳥瞰図を示している。
また、二次元断面解析の結果と比較するため、各密度差から解析された基盤深度を測線沿いに抽出し、断面図を作成した(図3−1−2−20、図3−1−2−21、図3−1−2−22)。なお、測定値と計算値の差の標準偏差は次に示したとおりである(表3−1−2−1)。
図3−1−2−4に示した残差ブーゲー異常図(測定値)と図3−1−2−15、図3−1−2−16、図3−1−2−17の計算値を比較すると、各密度差で測定値と計算値は全体的にほぼ整合的であるが、調査地域北東部塩竈周辺の残差ブーゲー異常値約15mgal以上の測定値が計算値では再現できていない。これは、この付近の基盤深度はほとんど地表付近に達しており、二層構造の仮定が成り立っていないためであると考えられる。
基盤深度分布の全体的な傾向は、長町−利府断層帯の東側で浅く、西側で深くなっている。調査地域北西部では、環状の基盤の落ち込みが認められる。ここは、H13−LINE−A測線の反射法の解析結果によるとカルデラとされている部分(財団法人地震予知総合研究振興会,2002)に相当する。しかし、同じH13−LINE−A測線で実施された屈折法地震探査では、P波速度が約6km/s以上になる境界の位置は、この環状の落ち込み部よりも浅部に解析されており、本調査の目的の一つである地震基盤を解析する際には、さらなる検討が必要である。
重力の三次元解析結果から抽出した重力断面解析測線A−A'、B−B'およびC−C'と二次元断面解析結果を比較する(図3−1−2−20、図3−1−2−21、図3−1−2−22)と、重力断面解析測線A−A'の北西部では密度差0.5g/cm3の深度が反射法の結果とよく合っている。また、愛宕橋Brの箇所でも0.5g/cm3の深度が基盤深度とよく一致している。重力断面解析測線B−B'の北部では密度差0.34g/cm3、0.4g/cm3では基盤が地表にまで達しているにもかかわらず測定重力値を十分説明しきれていないが、0.5g/cm3では測定値と計算値がよく合っている。距離23〜27kmの基盤の窪みの箇所では、いずれの密度差でも最深部の深度は約600mとなっており二次元断面解析よりも浅くなっている。重力断面解析測線C−C'では愛宕橋Brの地点では0.5g/cm3の深度が基盤深度とよく一致しているが、サンピアBr、仙台Brでは0.34 g/cm3の深度が基盤深度と合っている。
以上のことから、本解析で使用した単純な二層構造として解析する方法は、基盤岩トップから地表間の地層の種類、層厚および密度などが多様に変化する本調査地域の解析には適していないと判断される。今回の結果は、反射断面の解釈が困難な箇所や次年度に計画されている微動アレー探査の設計の際の参考に留めることとし、今後の重力データは、ブーゲー異常値または残差ブーゲー異常値と、ボーリングで確認された基盤深度、反射法地震探査や屈折法地震探査で解析された基盤深度および今後の微動アレー探査で解析される基盤深度などとの回帰式を求める手法を用いて解析を行う必要がある。