モデルにより合成された波形の比較結果を図3−4−26に示す。いずれも、観測結果が黒色、合成結果が青色で示されている。N−S、E−W、U−D成分を、フィルター後速度波形で比較しており、右端の数値(黒、青)は、観測および合成波形のピーク値(kine)を表す。図3−4−27−1、図3−4−27−2、図3−4−27−3は、合成波形と観測波形との比較を、計算領域内の44観測点で行ったものである。図3−4−28−1、図3−4−28−2、図3−4−28−3は、フーリエスペクトルの比較を示す。振幅スペクトルは、S波主要動からの60秒間で計算され、移動平均によるスペクトル平滑化を行っていない。図3−4−29には、合成された水平動スナップショット、図3−4−30には、合成された各成分最大速度値分布を示す。
図3−4−31、図3−4−32に、それぞれの地震の実データと合成記録による水平動ピーク速度分布の比較を示した。地震の有効周波数である2−10秒の帯域において、三次元地下構造との関連性を調べた。実データと合成記録の水平動ピーク速度値の平面分布を比較すると、異なる地域も認められるが、共通するパターンが認められる。特に、臨海部において周期1秒以上の地震動が増幅されている点が注目される。2000/10/31の地震では、山地と平野の境界より平野内に入ったところ(特に、津市から松阪市にかけて、香良洲町を中心とする地域)で地震動の振幅が増大しているのが確認できる。また、鈴鹿東縁と養老山地の間(いなべ市、東員町)は細長い谷を形成しているが、シミュレーション結果では、その谷間の中で増幅された波が長い間続いているように見える。ただし、このような詳細については、震源と観測点の関係で変わってしまうので、ある地震に限定される現象である可能性もある。なお、一部の地域で観測結果と計算結果で明瞭な違いがあるが、観測データは観測点の密度が粗く、比較できるほど観測点が無いことに留意する必要がある。
波形の振幅については、S波初動部やその後続波を含めて比較的合っているが、波形の位相については、特に後続波部分が一致していない。これは、基盤より深い速度構造(Vsが3km/s以上)に主に問題があると考えられる。それ以外にも、速度構造モデルの他に、地盤の三次元的効果、震源パラメータの精度、Q値の精度など様々な要因が考えられる。特に、1998年4月22日の地震については、0.5Hzより低周波成分について、今回使用した震源時間関数は、真の震源波形の低周波成分をうまく表現していない可能性が残されている。
最後に、自然地震データを用いた検証により、作成された地下構造モデルに対する評価を行う。上記2つの中規模地震に対して波形の比較を行った結果、S波主要動の合成波形が実記録波形の空間方向にばらつく範囲内(目安として、2倍から3倍以内)で合っていることが確かめられた。また、三次元解析による比較でも、実データおよび数値計算の信頼できる範囲(周期2秒から10秒程度)においては、両者の整合性は良好である。従って、推定した地下構造モデルにより中規模地震の地震動が説明できており、調査成果である地下構造モデルが許容範囲内で正しく作成されていると評価できる。