(2) 線型地盤応答解析(波形、スペクトル、増幅スペクトル)による検証

S波多重反射理論に基づく線型地盤応答解析により、各観測地点における理論波形、フーリエスペクトル、増幅スペクトルの計算を行うことで、地震記録から求められる結果と比較を行い、モデルを検証した。線型地盤応答解析は、ハスケルマトリックスを解くことで行う。基盤入射波がS波鉛直入射であるという仮定を行っているため、解析対象は、地域直下で発生した比較的深い地震が望まれる。今回は、2000年10月31日に志摩半島(深さ40km)で発生した地震を使用した。この震央位置を図3−4−4に示す。地下構造モデルの検証に使用した地震観測地点は、K−Net観測点のうち、伊勢平野全体を含むように品質の良好な8地点を選択した。解析の概念図を、図3−4−9に示す。基盤入射波形の計算には、基盤岩に地中観測井が設置されているKiK−Net観測井の中から最もS波速度が大きかったMIEH08(松阪)の地中地震計データを基準点として使用した。ここで作成された基盤入射波形(解放基盤における波形)をこの点以外の7地点の観測点における入射波形とした。減衰による振幅のスケーリングは考慮していない。なお、堆積層のQ値ついては、既存の報告を参照して、周波数の0.7乗に比例するように周波数依存性(Q = K f 0.7)を与えた(平成14年度愛知県地下構造調査;久家、ほか、2001)。ここで、Kの値は、各層ごとに定義して、S波速度の1/20で与えた。堆積層のQ値については、地中観測データやVSPデータなどに基づく資料が必要であるが、伊勢平野においては十分な資料がないのが現状である。今回は、濃尾平野における既存の資料を参考にして一意的に与えた。

観測記録より推定した波形、水平動スペクトル、増幅度と計算による結果を図3−4−10図3−4−11図3−4−12図3−4−13図3−4−14図3−4−15図3−4−16に示す。黒が観測結果、青がシミュレーション結果を表す。波形の右端に、各ピーク振幅をcm/s(kine)で表示している。基準観測点のMIEH08(松阪)では、波形の一致がきわめて良好で、周期1秒から10秒までの基盤入力波形が、高精度に推定されているのが確認できる。観測点の付近に、平成14年度三重県地下構造調査で実施された微動アレイ探査観測点(N0.1〜15)が存在する場合は、S波速度構造図に、微動アレイ探査によるモデルを赤線で表示した。基盤深度が200m以上違っている観測点が存在するが、両者の観測地点が完全に一致しておらず、距離が2〜5km離れているためであると説明できる。例えば、MIEP27(河芸)では、反射法測線が通っているため、微動アレイ観測点No.11との間で基盤深度が300m程度違っていることが事実として確認できる。また、MIE009(松阪)は盆地周縁部にあたるため、微動アレイ観測点No.15との間で基盤深度が急激に変化すると予想される(3.4.4で後述)。このため、両者の違いは堆積層S波速度のトレンドの全体的な違い(第1ピーク周期)についてのみ比較の対象とする(図3−4−17−1図3−4−17−2図3−4−17−3図3−4−17−4図3−4−17−5図3−4−17−6)。

1.5秒程度より高周波側では、表層の効果が大きいと考えられる。表層部は、K−NetのPS検層・土質データに見られるように、深さ方向にも水平方向にも不均質性が強く、三次元モデルでは再現されていない。また、これによる散乱効果も大きいと考えられる。今回は、震源スペクトルが有効であり深部地下構造の増幅効果を反映する、2〜10秒のやや長周期帯を主な比較対象とした。

図中より、堆積層の卓越周期を反映した理論ピークが、7秒台以下で確認でき、不明瞭であるが、観測記録より推定した増幅度のピーク周波数と概ね対応しているようにみえる。具体的には、MIEP05(桑名)、MIE003(四日市)、MIEP07(鈴鹿)で7秒台を示し、MIE006(津)で3.2秒、MIE009(松阪)では0.9秒、MIE010(伊勢)では、0.5秒未満であった(図3−4−20)。また、周期1秒以上の領域においては、理論増幅度のレベルが観測記録より推定した増幅度のレベルと2倍・半分以内の精度において整合している。