(3)既存重力データを用いた三次元地震基盤深度分布の作成

微動アレー探査結果および既存物理探査結果を用いて、地震基盤上面深度分布図(暫定)を作成した。図3−3−13に三次元地震基盤深度分布の作成の流れを示す。

地震基盤上面作成に際し、まず、重力探査による残差ブーゲー異常値(g)と微動アレー探査および既存物理探査により得られた地震基盤の深度(h)との関係を求めた(g−h関係)。関係式を求めるために使用した物理探査の一覧を表3−3−1に示し、解析に使用した物理探査の調査位置図を図3−3−14に示す。

G−h関係式を導くために、横軸に物理探査を実施した測線および測点と同位置での残差ブーゲー異常値(g)、縦軸に同位置の地震基盤深度(h)のグラフを作成した。

図3−3−15に残差ブーゲー異常値(g)と地震基盤深度(h)の関係グラフを示す。さらに、最小二乗法により残差ブーゲー異常値(g)と地震基盤深度(h)の関係式を導いた。ただし、関係式を算定する際、断層近傍のデータは、残差ブーゲー異常値(g)および地震基盤深度(h)との相関が悪いため使用しないことにした。

図3−3−13 三次元地震基盤深度分布作成の流れ

表3−3−1 残差ブーゲー異常値と地震基盤深度との関係解析に用いた物理探査一覧

図3−3−14 物理探査結果による推定地震基盤深度分布

図3−3−15 g−h関係図

図3−3−15のg−h関係式と図3−3−16に示す地震基盤深度分布図作成の流れによって、地震基盤深度分布図を作成する。

地震基盤深度は、以下の手順によって算定する。

@ 各物理探査により算定されたg−h関係式の傾き(A)と切片(B)の補間および外挿を行い、1km間隔のデータを作成する。

A 1km間隔毎に「傾き(A)×残差重力値+切片(B)」の計算を行い、地震基盤深度を求める。

具体的には、図3−3−15のg−h関係式によって、東西断面1km間隔に地震基盤深度断面図を作成した後、平面図として表す。

図3−3−17にg−h関係式から求めた地震基盤断面図及び残差ブーゲー異常分布と理論重力値との比較例を示す。

理論重力値は、得られた地震基盤深度の検討のために算定したもので、地盤モデルを堆積層と地震基盤の2層構造とし、堆積層の密度を2.2g/cc、地震基盤の密度を2.68g/ccと仮定し、地盤モデルは二次元構造とした。

図3−3−17において、平野部では残差ブーゲー異常値と理論重力値は、ほぼ一致しているが、山地部では残差ブーゲー異常値と理論重力値の対応が悪い(下図に比較の一例を示す)。これは、図3−3−15で示したように断層の近傍等の速度構造(密度構造)が急激に変化する場所においては、基盤深度と残差ブーゲー異常値の線形の対応関係が破綻しているためと考えられる。

参照図(図3−3−21) 残差ブーゲー異常分布と理論重力値の比較の例(修正前)

そこで、残差ブーゲー異常分布と二次元構造により計算される理論重力値分布が一致するように地震基盤深度の修正を行った。

図3−3−18に修正後の結果例を示す。

修正の結果、平野と山地の境界部における残差ブーゲー異常分布と理論重力値分布の不一致が解消される結果となった(下図に修正後の比較図を示す)。

以上のような修正を東西断面1km毎に行い、地震基盤深度分布図(暫定)を作成した。

図3−3−19に地震基盤深度分布図(暫定)を示す。図3−3−17及び図3−3−18の断面での理論重力値の計算は、二次元で行っていたが、図3−3−19の地震基盤深度分布図では三次元の理論重力値の計算を行った。

図3−3−20に残差ブーゲー異常分布と理論重力値分布の比較図を示す。伊勢平野の北部〜中部にかけて、残差ブーゲー異常分布と理論重力値分布の傾向は、ほぼ一致しているが、伊勢平野南部(Y=−140,000m以南)については、両者の対応が悪い。このことは、地震基盤以浅の堆積層厚が急激に薄くなる伊勢平野南部において、遮断波長130kmのバンドパスフィルターによる残差重力値が、地震基盤以浅の密度(速度)構造を表現していない可能性を示している。このことは、堆積層の浅い部分と深い部分における密度値が異なっていて、地震基盤との密度差を一律に扱うことが難しいことを示しているものと思われる。今後、これらの情報の取得と整理を行い、特に南部地域の堆積層と地震基盤の密度差の設定を再検討する必要があると考えられる。

参照図(3−3−22) 残差ブーゲー異常分布と理論重力値の比較の例(修正後)

図3−3−16g−h関係式を用いた地震基盤深度分布図作成の流れ

図3−3−17g−h関係式より求めた地震基盤断面図例

図3−3−18修正後の地震基盤断面図例

図3−3−19 地震基盤深度分布図(暫定)

図3−3−20 残差ブーゲー異常分布(上図)と理論重力値分布(下図)の比較