(2)バンドパスフィルターの設定

図3−3−8に示したブーゲー異常分布には、地震基盤以浅の密度構造だけでなく、はるかに深い海洋プレートの沈み込みの影響やモホ面・コンラッド面の形状等の影響が強く反映されている。さらに、地下構造に起因しない測定時のノイズや解析上の誤差等による影響も加わったデータとなっている。そこで、二次元バンドパスフィルターを施すことにより、調査の対象となる地震基盤以浅の密度構造に起因するブーゲー異常(以下では、残差ブーゲー異常と称す)分布を抽出する。

バンドパスフィルターによって、必要とするデータを抽出し、解析するためにはブーゲー異常分布のデータから、対象とする地下構造のみに起因するデータを選択する必要がある。そのため、バンドパスフィルターの設定を行う前に、ブーゲー異常分布のスペクトル解析を行った。

図3−3−9には、典型的なブーゲー異常の振幅スペクトル分布を示す。この図のように、ブーゲー異常の振幅スペクトル分布は通常、3つ(4つに分けられる場合もある)の群に分けることができる。図3−3−9に示したトレンド成分(以下では長波長成分と称す)は、地震基盤以深の大局的構造による傾向を表す群であり、本調査での対象外のデータである。これに対し、シグナル成分(以下では、中波長成分と称す)が、主に調査対象の地震基盤以浅の地下構造を反映している群と考えられる。一方、ノイズ成分(以下では、短波長成分と称す)は、通常、地表近くの不規則な密度分布に起因する重力異常や各種補正の計算誤差に起因するものと考えられ、本調査で不要な群となる。

図3−3−10には図3−3−8に示したブーゲー異常の振幅スペクトル分布を示す。図3−3−9に示した典型的なスペクトル分布を参考に「長波長成分」、「2つの中波長成分」、「短波長成分」の4つの群に分けた。

図3−3−10に示した直線の交点から、長波長遮断フィルターの遮断波長は100から200km程度、短波長成分の遮断波長は5km程度であることが概略わかる。図3−3−10の下図において、短波長成分は振幅が小さいため短波長遮断フィルターの遮断波長を多少変化させても中波長はあまり大きな変化を示さない。一方、長波長成分は振幅が大きいため、長波長遮断フィルターの遮断波長を少し変化させただけでも中波長成分が大きく変化する可能性がある。したがって、短波長遮断フィルターの遮断波長は5kmで固定することとし、長波長成分の適正な遮断波長を求めるために、フィルターの遮断波長を90km、100km、110km、120km、130km、140km、150km、160kmと細かく変化させ、中波長成分の変化をより詳細に調べた。

図3−3−11−1図3−3−11−2図3−3−11−3に短波長成分遮断波長5km−固定、長波長成分遮断波長90〜160Kmの8種類のバンドパスフィルター解析によって得られた、ブーゲー異常分布の長波長成分(左図)および中波長成分(右図)を示す。この図において、例えば、長波長遮断フィルターの遮断波長が90km、短波長遮断フィルターの遮断波長が5kmの場合、長波長成分とはブーゲー異常分布の波長90km以上の成分、中波長成分とはブーゲー異常分布の波長5kmから90kmの間の成分を示している。

図3−3−11−1図3−3−11−2図3−3−11−3を概観すると、B図の遮断波長150km、160kmの趣が他の遮断波長と異なっているのが認められる。すなわち、長波長成分(左図)の南側に現れている高重力異常分布領域の検出形状が他と異なる。また、両者のみ、同図の中波長成分(右図)の南西隅に高重力異常が現れている。

図3−3−12にはブーゲー異常分布の中波長成分を遮断波長毎に示す。

図3−3−12において、y=‐145,000m断面では、遮断波長が90kmと150km、160kmの結果が他の遮断波長の結果と大きく異なっている。すなわち、遮断波長が150kmと160kmの場合は、他の遮断波長のデータと比べて、飛び抜けて外れている部分が多い。

また、遮断波長が90kmの場合では、西側の領家花崗岩類が露頭する最高重力箇所の重力値と堆積物が最も厚く堆積する平野部の最低重力箇所との重力差において、四日市〜鈴鹿付近(X=11,500〜12,500m付近−堆積物が最も厚いと想定される)と津付近(X=−145,000付近−断面中で最も堆積層厚が薄いと想定される)ともに15〜25mGalであまり差がない。

一般に堆積層の厚い箇所は、薄い箇所と比べて重力値が低いことから、上記のように、堆積層厚の大きく異なる箇所でのブーゲー異常値を満足するような堆積構造は考えにくい。また、バンドパスフィルターを施す際には、遮断波長を少し変化させただけでフィルター処理後の重力分布が大きく変化することは望ましくないことから、遮断波長90km、150km、160kmは不適当と考えられる。

図3−3−12の他の断面でも、遮断波長が120kmから140kmの結果では遮断波長を変化させることによる中波長成分の変化が小さく、遮断波長は120kmから140km程度が望ましいと考えられる。

以上から、本解析では遮断波長を130kmとして、既存重力データによる地盤モデルの検証を行った。以下では、長波長遮断フィルターの遮断波長130km、短波長遮断フィルターの遮断波長5kmとした場合に得られる中波長成分を残差ブーゲー異常分布とする。

重力値の理論計算に用いる地盤モデルを格子間隔1kmで作成したため、上記に示したフィルター解析により得られた残差ブーゲー異常分布を格子間隔1kmのデータに再補間した(線形補間を行った)。

図3−3−9 典型的なブーゲー異常のスペクトル分布

図3−3−10 ブーゲー異常のスペクトル分布

図3−3−11−1 バンドパスフィルター解析によるブーゲー異常分布の長波長成分と中波長成分

図3−3−11−2 バンドパスフィルター解析によるブーゲー異常分布の長波長成分と中波長成分

図3−3−11−3 バンドパスフィルター解析によるブーゲー異常分布の長波長成分と中波長成分

図3−3−12 バンドパスフィルターの違いによるブーゲー異常分布の中波長線分の変化