大阪層群などの新期堆積層のP波速度は,つぎの3つの条件で推定することにした。
イ.上載圧.すなわち,その地層の埋没深度.
ロ.堆積後の年数.これは地質構造モデルより堆積年代分布として求められる.
ハ.堆積環境.
上載圧すなわちその地層の埋没深度(D)の影響は,大阪平野における検層データの整理から松本他(1998)により報告されており,800m以浅では0.37×D (m/sec) だけP波速度が上昇する。これは京都のKD−1,KD−2孔でも特に問題なく適用できた。
つぎに堆積後の年数の影響については,反射法探査によるP波速度解析結果と,先に作成した地質モデルの堆積後の年数とを比較検討した。これを図9−7に示す。この図では,深度の影響はあらかじめ取り除いている。両者の値の相関がやや悪いため,P波速度と堆積年代の関係式として知られるFaust(1951)の式,すなわちVp(P波速度:km/sec)がT(堆積後の年数)の1/6乗に比例するとする関係を先見的に用いて回帰式を求めるものとした。なお五条通を含めた京都盆地北部と,これ以外の京都盆地中南部では,同一年代の堆積層でも北部のP波速度が明らかに速い。これはKD−1孔とKD−2孔の検層結果でも認められた違いであるが,北部が扇状地の堆積層であるのに対し,中南部が比較的静穏な水域での堆積層で,この堆積環境の差によるものと考えられる。そこでこの2地域を区別して扱うこととして以下の回帰式に近似することができた。
<五条通より南部>
Vp=0.194×T1/6 (35万年前以前)
Vp=0.861×T0.051 (35万年前以後)
<五条通より北部>
Vp=0.220×T1/6
A 基盤岩のP波速度の推定
本調査では,屈折法探査により4測線について基盤岩のP波速度を求めた。この結果,場所により基盤岩のP波速度分布が大きく異なることが明らかになった。これは様々な岩種から構成される丹波帯の特徴と推定されるが,この調査結果だけでは京都盆地全域の基盤岩の分類とP波速度推定は不可能である。これとは別に京都盆地の基盤岩P波速度分布の特徴として,比較的深くまで風化が進んでおり基盤岩表層部の速度が遅いことが挙げられる。図9−8に,測線別に平均した基盤岩上面からの深度とP波速度の関係を示す。モデルには,この表層部の風化状況のみを反映させた。