(1)解析方法

観測データから表面波(ここではレイリー波)の位相速度を推定するために空間自己相関法(SPAC法)を用いた。この手法は微動信号を定常確率過程として取り扱っている。図6−15に解析の流れを示す。

@ スペクトルの推定

図6−15からわかるように,観測データからレイリー波位相速度を推定するには,微動信号のスペクトル推定が必要である。解析は,観測データが十分長いこと及び計算量が大きいことを考慮して,FFT法を用いた。統計的な手法で微動信号を取り扱うために微動信号の定常性が要求されている。そこで,先ず収録データに対しノイズ解析を行い,デジタルフィルターによりノイズを除去する。次に,ノイズ除去後のデータを一定の区間長(基本区間)で分割し,分散性解析により定常性が良い区間のみ抽出してアンサンブルを作成する。続いてFFTにより各区間のスペクトル及びスペクトルのアンサンブル平均を計算し,更にPARZENウィンドウによりこのアンサンブル平均スペクトルを平滑する。以上の一連の解析により得られたスペクトルを表面波のスペクトル推定量として用いる。

A SPAC法による位相速度解析

SPAC法による位相速度解析は,微動信号を定常確率過程と見なすほか,観測データにはレイリー波の1つのモード(ここでは基本モード)が卓越することを仮定する。この2つの仮定が満たされれば,空間自己相関係数は第一種0階ベッセル関数で表すことが出来る。即ち:

          p(f,R) = J0(2πfR/c)

ここで,p(f,R) は空間自己相関係数,fは周波数,Rは半径,c = c(f)は位相速度である。解析は先ず推定したスペクトルから各観測データ間の規格化空間自己相関関数を計算する。次に,半径毎の空間自己相関関数の方位平均値を求める。この方位平均値を空間自己相関係数と言う。続いて,上述の関係式を用いて半径毎のデータから位相速度を推定する。最後に半径ごとの位相速度を用いて調査地点におけるレイリー波位相速度を推定する。