強震動予測など、地盤の動的挙動に対して基本的に必要となる物性値は、密度(ρ)・P波速度(Vp)・S波速度(Vs)・減衰定数(Q)の4種類の量である。
P波地震探査によって、広域的に把握される物性値は、上記のうちP波速度である。一方S波速度は、S波地震探査等によって直接測定することができるものの調査法自体に内在する種々の理由でP波地震探査ほど広域的に実施することは困難である。ここでは主として堆積層を対象としてP波速度を利用して、半理論的にS波速度を推定する方法について議論する。この方法は既に大阪層群(大阪湾周辺)に対して適用されている。(松本他(1998))
大阪層群などの堆積地盤の弾性的挙動は、有孔媒質の弾性論(例えばGassmann(1951))という理論分野で定式化されている。
堆積層の大部分を占める地下水位以下の水で飽和した部分に対して上記のGassmannの式が適用できることは、P波速度とS波速度を同時に求めるPS検層の実測データから明らかにされている。(松枝他(1996)) Gassmannの式によれば、実験的事実から得られる2通りの仮定のもとで、地盤中の空隙の比率である空隙率(n)を考慮すれば、Vp,Vs,n,ρの組み合わせのうちいずれか2つがわかれば、他の量が推定できることが示される。
松本他(1998)は、大阪平野の検層データを用いてVpとnの関係を深度をパラメーターとして検討し、Vpからnを推定する実験式を提案した。Vpからnが推定できれば、上記の議論に従ってVsを推定することが可能となる。従って京都盆地の堆積層に関しても数地点のボーリング調査と各種の検層を実施すれば、Vp,Vs,n,ρの各種物性値間の関係が明らかになり、地震探査で広域的に得られるP波速度から他の物性値を理論的な裏付けのもとに推定することができる。
参考文献
1)F. Gassmann,”Elastic waves through a packing of spheres”,Geophysics,Vol.16,1951
2)松枝富士雄他,”サスペンション式PS検層による弾性波速度(Vp,Vs)と地質との対比”,物理探査,49,No.5,1996
3)松本正毅他,”地下深部における大阪層群の動的特性”,物理探査学会第98回学術講演会講演論文集 1998