S波反射法による速度解析では、深度500mまでの速度を得るのに留まった。地震工学の立場では、地震基盤までのS波構造モデルが必要であるといわれていることから、今後、特に、S波震源のパワーをあげる開発が必要である。また、バイブロサイス観測において、S波(SV波)が遠距離まで観測される事例があり、これを活用できるかどうかの検討も必要である。
屈折観測では、反射法の測線を利用して最大オフセット約20kmの記録を得ることに成功した。高密度の受振点配置により、様々な波形処理、インバージョン法が可能であり、精度の高い速度解析結果が得られた。ただし、今回のようなノイズ環境下の測線では、その初動読取りに多大の労力を費やすだけでなく、解析精度を落とす結果につながりやすい。今後は、測線計画の段階で、ノイズ状況(振動レベル、振動加速度レベル、速度レベル)を定量的に把握しておくことが望ましい。
今回の調査測線では、第四系を明瞭に切る活断層の存在は認められなかったが、川崎市王禅寺付近の三浦層群および基盤上部の形態に異常が認められる。発破観測データで異常が認められている地点と一致することから(小林、ほか、1985)、今後、立川断層との位置関係も含めて3次元的な考察が必要である。
また、このような地震基盤以浅の地下形態が地震動に及ぼす影響について評価することは、地震防災の観点からみて大きな課題である。短期的には、今回推定した速度構造モデルに対する地盤の増幅特性を計算して、種々の地盤パラメータとの関連を調べることが必要である(瀬尾、ほか、1990;山中、1997)。将来的には、川崎市周辺の三次元速度構造モデルを構築し、地震防災マップの作成に用いられることが重要である(Koketsu and Higashi, 1992)。