全点に対して初動を読取った結果を表5−1、表5−2、表5−3、表5−4、表5−5、表5−6、表5−7、表5−8、表5−9、表5−10、表5−11、表5−12、表5−13、表5−14、表5−15に示す。また、読取った結果をグラフ化したものを図33−1、図33−2、図33−3に示す。図33−3は、各オフセットにおける見かけ速度(ウィンドウ幅2km)をプロットしたものである。堆積層中を通る初動の見かけ速度には、1.9 km/s、2.7 km/s、など代表的な相が全ての発震記録でみられる。特筆すべきことは、基盤からと類推される屈折初動の見かけ速度が、SP1(多摩川河川敷)では約5.6 km/sに対して、SP3(黒川)では約4.8 km/sであることである。SP1では、明瞭な4.8 km/s相が確認できないことから、基盤の不規則構造の存在が予想される。
得られた初動読取り値は、速度構造モデルの決定に用いられた。今回、速度構造モデルの決定には、走時インバージョン、レイトレーシングによる試行錯誤的方法、および、タイムターム法を使用した。
走時インバージョンは、1つの試みとしてヘルグロッツ・ウィーヘルト法を用いた(Appendix−5、図5−1)。これは、単調増加型の水平成層構造を仮定したときに、観測で得られた走時曲線から速度構造を求める手法である。川崎市周辺は堆積層が厚く覆っており、その圧密効果によって堆積層中の速度が連続的に増加することが予想される。ヘルグロッツ・ウィーヘルト法は、このような速度が連続的に変化する場合に対応ができる。実際は、堆積層を細かく8層に分けてこれらの区間速度と層厚を求めた。図33−3中の折線を入力として与えた場合(測線東側を対象として水平成層を仮定した場合)の結果を、図34に示す。反射法による速度解析結果と比べると、浅部で速度が若干低くなっているが、それ以外は良く一致している。
レイトレーシングによる方法では、岩崎(1988)による波線追跡プログラムを用いて、試行錯誤的に合成記録と実記録の初動合わせを行った。ただし、予め反射法の結果から構造形態が把握できているので、これを参照しながら、各層(5層)の最適な厚さと速度を求めた。また、前述の初動走時インバージョンの結果やτ−Pパネルも参考にした。最終モデルは、堆積層(4層)のうちの2層についてその内部で連続的に速度を増加させている。この結果(モデル走時と波線ダイアグラム)を、図35−1、図35−2、図35−3、図35−4に示す。上図には、各速度境界からの屈折波(L0、L1、L2、B)と速度漸増層からのDiving wave(D1,D2)の走時曲線が描かれている。また、10観測点おきの観測走時を四角で印している。図36−1、図36−2、図36−3には、モデル走時(初動および後続波)と記録波形を重ねたものを示す。合成記録と実記録の初動および後続波相がよい一致を見せているのがわかる。この結果から、SP3(黒川発震)の見かけ速度4.8 km/s相が基盤(約5.2 km/s)の不整形性(平均傾斜角約3度、最大傾斜角約6度)によって生成されるという説明ができる。
タイムターム法では、基盤屈折波のタイムタームを最小2乗法により求めた。基盤より上位については走時データが測線全域でカバーされておらず、最小2乗法を用いることができなかった。そこで、走時曲線(図33−1、図33−2、図33−3)から比較的顕著なフェーズである、1.9km/s、2.7km/s、および、3.5km/s相のそれぞれのインターセプトタイムを読取り、タイムタームに換算した。この結果を、図37に示す。下図は、求まったタイムタームから導かれた構造図である。これによると、基盤の形状は全体的に西上がりであるが、麻生区上麻生のあたりで凸状になり、基盤またはその上位層のアノマリーを示唆している。また、基盤の速度は約5.2 km/sである。