(2)多地点同時逆解析技術によるS波速度構造解析

単独解析の結果を踏まえて、多地点同時逆解析技術による速度構造解析を行った。多地点同時逆解析技術は地層の連続性を重視する解析で、既存情報から各層の平面的変化パターンを設定し、この変化パターンで各地点のデータを連結して一括解析により準三次元的な地下構造モデルを求める。従来の単独解析と比べ、多地点同時逆解析手法は得られた構造の連続性がよくなり、時間的、空間的なランダムノイズの影響も低減できる。

解析におけるモデル探索範囲は各地点ともに表2−6−2−3に示すように設定した。また、S波速度構造の平面的変化パターンについては、調査地域にわたって各層の速度変化は±10%以内、層厚の変化は自由であるように設定した。

また、微動アレイ探査は地震基盤より深部にS波速度の変化がないと仮定して解析するのが一般的である。しかし、極深部にはS波速度3km/s以上の層が存在するので、得られた観測位相速度の低周波数部分はこのような層の影響を受けていると考えられる。単独解析で得られた地震基盤のS波速度が高い傾向がある原因は極深部構造によるものと考えられる。この影響を打ち消すために、仮に解析モデル(表2−6−2−3)の約4km以深と10km以深にそれぞれ3km/sを超える速度層があるように2個の層を追加した。一般的に、地震基盤より深部の速度構造を求めるには、通常の微動アレイ探査で得られた位相速度よりもっと低周波数域の位相速度データが必要である。言い換えれば、ここで得られた観測位相速度には地震基盤層以下の極深部の速度構造の影響が含まれているが、その速度層(層厚と深度)を特定するには不十分である。そのために、追加した2層は付加層と称し、その役割は地震基盤以下の極深部に存在する速度層の影響を吸収するものであり、正式な速度構造として評価できないものである。

解析は単独解析と同じ解析条件で10回繰り返した。その結果を図2−6−2−8−1図2−6−2−8−2図2−6−2−9−1図2−6−2−9−2図2−6−2−10−1図2−6−2−10−2図2−6−2−11−1図2−6−2−11−2図2−6−2−12−1図2−6−2−12−2図2−6−2−13−1図2−6−2−13−2に示す。各図の上段は得られたモデルの理論位相速度と観測位相速度の比較であり、下段は得られた地下構造モデルである。解析結果の概要は以下のとおりである。

・多地点同時逆解析で得られた地下構造モデルは前述した単独解析の速度構造と互いのばらつき範囲ないにあり、同等なものであると考えられる。

・一方、地震基盤のS波速度は付加層の効果でやや低くなり、2.8〜3.0km/sを示し、既存の他の探査結果(Vp≒4.8km/s)と単独解析結果より調和的と考えられる。

・また、HADANO地点におけるモデル8,9,10は3km/sを超える速度層が4km以浅にある条件での解析結果である。

したがって、多地点同時逆解析で得られた各地点のモデル1の速度構造は構造の連続性および観測位相速度の近似具合の両方から評価して、最適モデルと考えられる。よって、モデル1を最終地下構造モデルとした。表2−6−2−4および図2−6−2−14に本調査で得られた6地点のS波速度構造をまとめて示した。

また、NAKAI地点においては、反射法探査による時間断面図が既往データとして存在している。これと比較するために、P波―S波の速度関係式を用いて、得られたNAKAI地点の速度構造(深度―Vs)の深度軸をP波の往復走時に変換したものを図2−6−2−14に示す。図より、構造の主体となっているVs≒1.4km/sの層は上下面ともに反射法断面のVp≒3km/s層によく対応している。

表2−6−2−3 逆解析に用いたモデル探索範囲(多地点同時解析)

表2−6−2−4 多地点同時解析で得られた各地点のS波速度構造(最終地下構造モデル)

図2−6−2−8−1  HADANO地点の理論位相速度と観測位相速度(多地点同時解析)

図2−6−2−8−2 多地点同時解析により得られたHADANO地点のS波速度構造モデル

図2−6−2−9−1  NAKAI地点の理論位相速度と観測位相速度(多地点同時解析)

図2−6−2−9−2 多地点同時解析により得られたNAKAI地点のS波速度構造モデル

図2−6−2−10−1  ATSUGI地点の理論位相速度と観測位相速度(多地点同時解析)

図2−6−2−10−2 多地点同時解析により得られたATSUGI地点のS波速度構造モデル

図2−6−2−11−1  ISEHARA地点の理論位相速度と観測位相速度(多地点同時解析)

図2−6−2−11−2 多地点同時解析により得られたISEHARA地点のS波速度構造モデル

図2−6−2−12−1  HIRATSUKA地点の理論位相速度と観測位相速度(多地点同時解析)

図2−6−2−12−2 多地点同時解析により得られたHIRATSUKA地点のS波速度構造モデル

図2−6−2−13−1  CHIGASAKI地点の理論位相速度と観測位相速度(多地点同時解析)

図2−6−2−13−2 多地点同時解析により得られたCHIGASAKI地点のS波速度構造モデル

図2−6−2−14  微動アレイ中心点の位置及び得られた各地点のS波速度構造モデル

図2−6−2−15  得られたNAKAI地点のS波速度構造から変換したP波速度構造とP波反射法時間断面との比較