また、深部の構造についてはイメージがやや不明瞭であるが、地震学・火山学的にも興味深い議論が行なうことが期待される。例えば、足柄平野直下において箱根火山から東傾斜する強反射面が認められたが、この反射面の上下にも東傾斜するいくつかのイベントが認められる。現時点で、これらの傾斜層に対する確度は低いが、笠原、他(1991)による足柄平野の直下に東下がりになった反射面や、加藤、他(1983)による相模トラフ直下の反断面のどれかに対応する可能性が高く、フィリピン海プレートの沈み込みやこれに伴う付加メカニズムに関係した構造を表しているのかもしれない。今後、既存の反射法データの再解析を含めて、総合的に検討する意義は大きい。
屈折法調査では、受振器間隔25mの高密度展開により空間エリアシングのない初動波形が取得でき、地下構造形態や標高変化、表層地盤に起因する走時の遅れが確認できた。屈折法解析の結果、A、B測線の全域で求められた4.3km/s層は、関東平野南西部で求められた基盤速度と大きく異なるが、この速度の違いについて、神奈川県東部から中部の堆積平野は、先新第三系の基盤を被う新第三紀以降の堆積物で構成されているのに対し、西部は新第三紀以降の火山活動で生成された火山砕屑物(グリーンタフ)等により厚く構成されているためと解釈された。既存の地下構造調査の結果では、関東平野南西部の4.8km/s相当層(4.8〜5.2km/s)は、地震工学的な基盤として差し支えないと考えられたが、今後、平塚市以西の4.3km/s層を含めて関東平野全域における地震基盤の定義について再吟味し、地震工学に関わる研究者や専門家によるコンセンサスを得る必要がある。
今回の発破実験では、東京大学地震研究所をはじめとする多くの大学・研究機関による合同観測も並行して行なわれ、相模平野とその周辺域においても貴重なデータが得られている。特に、TD−1発破において取得されたデータ(東京工業大学によるB測線)で、本厚木付近で北落ちの走時遅れが観測されている。相模平野は地質的に構造線の存在が指摘されている地域であり、今後重点的に調査を要する。また、今回、A、B測線のデータだけで屈折法解析を行なったが、他機関による測線のデータも入れて解析したり、相模川流域(座間−平塚間)においてやや深部を対象にした反射法地震探査が行なわれているが、このような反射法データも含めて総合的な解析を行なうことが望ましい。