大磯丘陵は関東堆積盆地と南部フォッサマグナ堆積地区との境界に位置し、丹沢山地および大磯丘陵は、海溝堆積物が海溝位置の移動により隆起したものと考えられている。(日本の地質3、関東地方、1986)。丘陵の北側は東西にのびる渋沢断層で秦野盆地と、西側は北西−南東に延びる国府津−松田断層で酒匂川低地と、また東側は南北にのびる久所断層などで相模平野と境された隆起地塊である(図4−2)。丘陵の西部には、国府津−松田断層にほぼ平行して、曲隆によって形成された曽我山(327m)の尾根がつらなっている。中央部は中村川と葛川に開析された起伏のある丘陵地で、この地域の大半は二宮層群以上の中部更新統の分布地域である。東部には第三系の鷹取山礫岩層からなる鷹取山(219m)が突出し、高度50〜150mのゆるい起伏のある台地がこれをとりまき、ところにより断層や傾動により地塊状の変形をしている(図4−3)。大磯丘陵地域の後期更新世以降の隆起は大きく、完新世における海岸段丘の変位は20m以上に達し、丘陵内の河川ぞいの段丘形成もいちじるしい(日本の地質3、関東地方、1986)。下部更新統より上位に数十万年にわたり厚さ300m以上の火山砕屑物があり、下位には中期更新統の二宮層群(70万〜50万年前)がある。大磯丘陵の第三系は二宮層群とは不整合または断層で接する(日本の地質3、関東地方、1986)。
足柄平野は、西は箱根火山、北は丹沢山地、東は大磯丘陵と三方が山地・丘陵に囲まれ、南は相模湾に開いた東西4km、南北12kmほどの小規模な沖積平野である。足柄平野は、相模トラフの北西延長上に有り、現在の沈みこみ帯の一部を形成すると考えられている。
国府津−松田断層は、足柄平野と大磯丘陵との間を分ける北西・南東走向の活断層である。大磯丘陵の東縁には比高25mに及ぶ断層崖が形成され、山崎(1993、1999)は次のような地殻変動の変遷を推定した。0.5Ma頃、現在の大磯丘陵西縁部に曽我山層を堆積させた沈降域が形成された。その運動は0.3Ma以降弱り始め、浅海性あるいは河川堆積物が曽我山層を覆った。この頃は大磯丘陵地域はまだ顕著な地形的高まりにはなっていなかった。最終間氷期以降、この地域の地塊運動は隆起に変わり高まりが出現し丘陵が形成さた。この運動は現在も継続し、大磯丘陵は激しい隆起の場にある。一方、足柄平野は0.3Ma以降平均2mm/年の沈降速度を示すが、後期更新世の前半以降はその沈降運動が徐々に弱まりつつあるので、中期更新世における沈降速度は2mm/年よりかなり大きかったものと考えられる。完新世においても沈降運動の衰弱は継続しているが、同平野は長期的なタイムスパンで見れば現在もなお沈降運動の場にある。このように、大磯丘陵および足柄平野の地殻変動は、位相はずれるがどちらも地塊が沈降から隆起へ転換する過程を示している。
足柄平野では、屈析法(長谷川、他、1991;Higashi、1989)、反射法(Ikawa et al、1991;笠原、他、1991)による物理探査が行われている。また、周辺の地震活動が比較的活発で強震記録の取得可能性が高いこと(棚田、1999)、平野の規模が小さく盆地構造の地震動への影響を検討しやすいと考えられたことから、足柄平野は ESG (Effects of Surface Geology on seismic motion)研究の国際テストサイトに選定され、東京大学地震研究所により強震計アレイによる観測が実施されて来た(例えば、Kudo、 K. and Y. Sawada、1998)。近年、強震観測記録を基に平野内を伝播する表面波と地下構造の関係の検討から、平野部と周辺地域のS波速度構造について検討されている(植竹、工藤、1998;植竹、工藤、2001)。これによると、求めたS波速度2.0km/s 層を見ると西側に比べて平野内が深く、東側の大磯丘陵で持ち上がるという大局的な構造は既往の研究と一致している。
加藤、他(1983)によれば、相模湾で実施された音波探査の深度断面図から、伊豆半島側の基盤反射面が、北東へ約10度の傾斜角で相模トラフ下を通り三崎海丘下まで追跡されている。相模トラフを埋める堆積層は厚く、最も厚い三崎海丘に接する付近で4,000m以上の層厚を有している。トラフ底の堆積層の音響的層理は、三崎海丘構成層にアバットしているようにみえるが、その一部は、トラフと三崎海丘の境界より三崎海丘側に連続しているようにもみえる。三崎海丘下は、音響的層理の乱された地層からなる。
笠原、他(1991)によれば、今回の測線より北部の足柄平野〜国府津−松田断層を横切る測線でバイブロサイス反射法による地下構造調査を行っている。これによると、国府津−松田断層の下方に、東下がりになった基盤面(P波測定4km/秒)が存在し、その上部は足柄平野の堆積物(P波速度2〜3km/秒)と、大磯丘陵の延長部(P波測定4km/秒)とに区分される。4km/s 層に相当する深さは、平野北部の国府津−松田断層付近で深さ1.3km程度であり、Higashi(1989) によればそれは平野南部で1.5km程度である。このような構造は、規模は小さいが、加藤、他(1983)による相模トラフのマルチチャンネル反射法の結果と類似している。
関東平野の重力異常図(図4−4)によれば、足柄平野は丹沢山地南縁部から南東の相模トラフへ延びる負の重力異常帯上に位置している。相模トラフの北西延長が足柄平野であり、大磯丘陵は相模トラフの北東縁に沿う沖ノ山堆列の北西延長と一致していることから、足柄平野は沈降性のトラフが丹沢山地からの大量の土砂に埋め立てられた場所と考えられる。
鈴木(1998)は、既存の反射法および深層ボーリングのデータをもとに関東平野全域の基盤構造や上総層群基底など堆積構造の検討を行っている。図4−5によれば、相模川より西では基盤が急に浅くなるが、大磯から小田原にかけては表記されていない。
首都圏基盤構造研究グループによる夢の島人工地震実験から、関東平野南西部を中心とした広域的な地下深部構造が求められている(例えば、首都圏基盤構造研究グループ、1989)。夢の島−平塚−小田原測線(解析測線D)では、一部確定されていないが、4.8 km/s層及び5.5 km/s層の地震基盤を含む5層速度構造モデルが提唱されている(図4−6)。第4層の速度値は、平塚発破点の西側で4.3km/sの速度値を示す。これは、全域の第4速度層のP波速度(4.7〜5.2km/s)に比べてもやや低い値となっている。この測線に近接する厚木観測井の音波検層結果(鈴木、小村、1999)においては、深度1800m付近で約4.0km/sの速度値が得られている。第4速度層は、先新第三系に相当すると考えられるが、相模川以西では山地部に丹沢帯(新第三紀)が分布しており、愛川層群を含めた丹沢帯が、平塚以西の4.3km/s層に相当するものと考えられている(神奈川県、2001)。図4−7に、平成13年度神奈川県地下構造調査より推定された関東平野南西部の基盤深度分布(単位:km)を示す。