2−2−4 観測結果

測線のノイズ状況を表す図を図2−6に示す。時間的、空間的にノイズ環境が大きく異なり、数μkine〜数百μkineの範囲である。ノイズ(微動レベル)の大きい場所は、足柄平野内の交通量の多い道路上の区間であり、ノイズ(微動レベル)の小さい場所は、A測線の両端部(大磯町から二宮町にかけての農道、小田原市久野の林道)、および、B測線の北部(大井町から松田町にかけて河川敷内)であった。両者における受振点では20dB以上の差があることが分かる。この違いが最終断面図の品質にも影響し、特にB測線北部におけるS/Nは他と比べて高く、品質が良い。

図2−7(図2−7−1図2−7−2図2−7−3図2−7−4図2−7−5図2−7−6図2−7−7図2−7−8)に、P波観測の現場モニター記録例を示す(AGC4000ms)。図では、人工震源(バイブロサイス)から生成された弾性波を、地表に設置した100〜496カ所の受振点で同時に観測した波形を並べて表示してある。横軸は受振点位置、縦軸は弾性波の到達時間(往復走時時間、ミリ秒)に相当する。参考のために、地形図上に発震点・受振点をマークした測線図を対比した。

記録例では、表層基底層を伝播した初動屈折波(直線的な波の並び)および、それに続く反射波(双曲線的な波の並び)等が確認できる。初動屈折波の見かけの速度は約2km/sであるが、小田原市久野地区では1km/s未満の低速度層が認められる。一部の記録(VP413)で垂直往復走時1.3秒付近に明瞭ではないものの基盤からの反射が確認できる。この基盤深度以浅には、複数の連続する反射波が確認できる。これらは、第三紀または第四紀の堆積層に相当すると考えられる。3.0秒以降は、連続する強い反射面は確認できない。

具体的に詳しくみると、A測線についてVP1の記録(平塚市、ゴルフ場周回道路、バイブロ3台、フォース90%、スイープ16回)では、山間部の距離4kmまで初動が届いており、見かけ速度は約4km/s、TO(インターセプトタイム)は0.5秒である。坂呂橋まで明瞭で、六本松あたりも確認できる。

VP221の記録(小田原市沼代〜坂呂の道路上、バイブロ3台、フォース90%、スイープ16回)では、初動が3km程度届いている。見かけ速度4.4km/s、TOが0.5秒の基盤屈折波が明瞭である。VP1の逆打ちを考えると、大磯丘陵の地下構造について、基盤速度4〜4.4km/s、堆積層速度2km/s、基盤深度0.5km程度と推定される。一方、西向きの基盤屈折波は、足柄平野のノイズが大きくて確認できない。

VP413の記録(小田原市成田、バイブロ3台、フォース90%、スイープ16回)では、初動が東端付近8km程度まで届いており、その見かけ速度は、V1=2km/s(オフセット0〜2km、TO=0.0秒)、V2=4〜4.4km/s(オフセット2〜6km、TO=0.5秒)、V3=5〜5.5km/s(オフセット6〜8km、TO=1.2秒)と大別できる。また、1.1秒の基盤反射波が弱いが確認でき、速度はV3のものと考えられる。一方、西向きの基盤屈折波はノイズが大きくて確認できない(平野内のノイズレベルは、山に比べて20dB以上ある)。

VP663の記録(小田原市久野、バイブロ3台、フォース90%、スイープ8回)では、初動が街中の東方向には2km程度しか届いていない。西向きの見かけ速度は、3つに分かれて、V1=0.5km/s(TO=0.0秒)、V2=2.4km/s(TO=0.1秒)、V3=5.0km/s(TO=0.4秒)であった。

一方、高分解能発振区間約3kmでは、ミニバイブ1台、4スタックを用いて合計199点の発振を行なった。二つの南北の主要道路を結ぶ県道であるため、交通量が多くノイズレベルが高く、また、道幅がせまいため渋滞しやすく大型車両が来るとバイブレーター退避させる必要があった。大体オフセット300m程度は初動が読め、0.1、0.2秒程度、および場所によるが0.4秒程度に反射が見られた。

B測線での発振作業は、大型バイブロサイス標準4台、16回スタックで行なった。ただし、一般道の場所によっては道幅が狭い等の理由で、台数を4台から2台または1台に減らして発振し、事務所・工場・住宅が近い場所ではLow Forceで発振した。High Forceで発振点から4km以上、Low Forceでも3.5kmまで比較的明瞭に屈折初動が読み取れる。

VP2105の記録(小田原市飯泉、バイブロ3台、フォース90%、スイープ16回)では、A測線と比較してノイズレベルは全般的に低く、0.5、0.8秒付近に強い反射面ある。A測線と比較して表面波が目立たないため、かなりNearまで反射が追えるが、Far Offsetでは屈折初動のアフターフェーズが反射に被っており見えにくい。

取得記録の卓越周波数は、20〜30Hz程度であり、発振点による周波数成分の相違は認められない。すべての震源から表面波の発生が見られる。また、一部の記録では表面波に先行するかたちでチューブウェーブと呼ばれるノイズが混入した。これは、発振点、受震点の双方に水道管または下水管等の埋設管が存在する場合、この埋設管を伝播する波のことである。実際には、データ処理においてこれらを除去することができ、解析上問題はなかった。