9−1−3 1次元地震動シミュレーションによる検証

次に、成層地盤におけるS波の周波数応答関数による1次元地震動シミュレーションにより地下構造モデルの検証を行う。対象地点は、前項と同じく県内K−NET14観測点であり、地下構造モデル(層境界深度、S波速度値、密度)も同一である。減衰に関しては、S波速度値の1/10〜1/15程度の範囲でQ値を仮定し、周波数によらず一定とした。検証に用いた地震は、東京湾の地震と千葉県北東部の地震の2地震である。検証は、S波速度500m/s以下の層が最も薄い藤野(KNG011)の観測記録を用い、逆応答計算で求めた藤野の基盤波のS波主要動部分の波動が各観測点の基盤に入射した時の地表の波動を周波数応答関数により求め、その地点の観測記録のS波主要動部分と比較することにより行った。なお、ここでは周波数特性に着目し、振幅の絶対値は検討外として震源距離による補正は行っていない。

図9−1−5−1図9−1−5−2は東京湾の地震、図9−1−6−1図9−1−6−2は千葉県北東部の地震の藤野における (a)観測記録と逆応答計算による基盤波形および (b)入力に用いたS波主要動部分(上段の波形の点線で挟まれた部分、下段はその時間軸拡大図)の波形をそのフーリエスペクトルとともに示したものである。なお、(a)のスペクトルの図中に示す増幅率は、地表に対する基盤層の応答倍率である。S波主要動部分のスペクトルを見ると、東京湾の地震では4Hz、千葉県北東部の地震では5Hz付近よりも高周波帯域で振幅が減少している。図9−1−7図9−1−8は、確認のために行った藤野に対するシミュレーション結果である。図の上段は観測記録、中段はシミュレーションの対象としたS波主要動部分の時間軸拡大波形と計算波形、左下は中段の波形のフーリエスペクトル(観測、計算とも水平2成分合成、観測は中段の波形の点線で挟まれた部分のスペクトル)と右下に示す地盤モデルの増幅率である(以下図9−1−9−1図9−1−10−12も同様)。

図9−1−9−1図9−1−9−2図9−1−9−3図9−1−9−4図9−1−9−5図9−1−9−6図9−1−9−7図9−1−9−8図9−1−9−9図9−1−9−10図9−1−9−11図9−1−9−12図9−1−9−13

図9−1−10−1図9−1−10−2図9−1−10−3図9−1−10−4図9−1−10−5図9−1−10−6図9−1−10−7図9−1−10−8図9−1−10−9図9−1−10−10図9−1−10−11図9−1−10−12

観測記録と計算結果は、波形およびスペクトルとも殆ど一致しており計算方法の正当性が確認できる。

藤野を除く他の観測点に対するシミュレーション結果を、図9−1−9(東京湾の地震)および図9−1−10(千葉県北東部の地震)に示す。観測記録とシミュレーション結果の水平2成分合成のスペクトルを比較すると、4~5Hzよりも低周波側(帯域L)と高周波側(帯域H)とで表9−1−3のようにまとめることができる。

表9−1−3 1次元シミュレーション結果の観測記録との比較

千葉県北東部の地震では概略良好な結果が得られたが、東京湾の地震では総じて一致度が悪い結果となっている。その要因として、藤野の基盤波を共通の入力波としたが、観測点により基盤への入射波が異なっていることが挙げられる。そこで、各観測点の基盤波を藤野と同じく観測記録の逆応答計算により求め、検討を行った。得られた基盤波のS波主要動部分のフーリエスペクトルを図9−1−11(東京湾の地震)、図9−1−12(千葉県北東部の地震)に示す。2つの地震を比較すると、川崎・横浜・相模原・鎌倉以外の地点では、千葉県北東部の地震では良く似たスペクトル形状を示しているのに対し、東京湾の地震では近傍の地点では似た特性となっているが、地域により違いが見られ、伝播経路の影響が大きいと考えられる。

以上2)、3)の検討から、今回求められた深部地下構造は概ね妥当なものと考えられるが、川崎・藤沢・秦野の5Hz程度より高周波帯域、横浜の3~5Hz付近、三崎の4Hzのピーク、厚木の4~5Hz付近等高周波成分の特性に影響する浅部構造の検討が今後必要であろう。