取得された記録中にはさまざまな速度の反射波および屈折波が見られるが、これらの波を強調するためのテストを行い、ゲート長6000ミリ秒の自動振幅調整(AGC)と、6〜30Hzのバンドパスフィルターを適用した。これにより記録中に見られる屈折波が強調された。
(2) 屈折波走時の読み取り
屈折波の強調処理を行った5記録につき、その初動走時の読み取りを行った。オフセット距離が長く、ノイズレベルが高い受振点では読み取りをスキップした場合がある。読み取りは、10受振点ごとに行った。
初動を読み取った屈折波の概略を図2−3−1−1, 図2−3−1−2に示す。
各発震点のスイープ回数・オフセット距離と初動読み取り可能であった距離との関係は以下のとおりである。
発震点 スタック数/薬量 オフセット距離(km) 初動到達距離(km)
基盤岩の屈折波の到達距離は、エアガン(G2)でオフセット距離約30km、そのほかの記録でも20km程度まで到達していることが確認できる。
(3) 仮想測線へのデータの投影
今回の屈折法測線は、直線に近いもののやや曲がりくねっている。レイトレーシングのモデリングは、測線は直線であると仮定して行う。ゆえに発震点から受振点へのオフセット距離を直線の仮想測線への投影を行い、解析を行った。以下にその手法を述べる。
まず、図2−3−3 のように、受振測線が曲がっており、発震点も受振測線からオフセットがあるものとする。仮想測線を選ぶ。今年度の測線では発震点D3と受振点1122を結ぶ直線で設定した。
この仮想測線上に発震点位置・受振点位置を投影する。発震点−受振点間の直線と投影された直線のなす角度をθとすると、実オフセット距離(X)と投影された距離(X')との関係は、
X'=Xcosθ
となる。これに対して、読み取った初動走時の補正(T)を行う。表層付近の屈折波でオフセット距離が短い場合は、インターセプトタイム(To)が0と見なせるので、補正された初動走時(T')は、
T'=Tcosθ
となる。インターセプトタイムが0と見なせないような第2層以下の屈折波初動(T)については、
T'=(T−To)cosθ+To
として補正を行う。ただし、cosθが0.99以上であれば、実用上補正は不要と考えられ、第2層以下についてこの補正が必要なケースは希である。
各屈折発震記録について読み取った初動、補正された値等のデータは、付録5に示した。
(4) レイトレーシングによる地下構造の推定
レイトレーシングによる方法では、岩崎(1988)による波線追跡プログラムを用いて、何回か試行錯誤を繰り返し、モデリングと実記録の走時合わせを行った。
レイトレーシングは、まず今年度の測線のデータのみを用いて行い、次いで昨年度(平成13年度)のデータと連続的なモデルを作成するため、昨年度の測線を含めて見直し、統一的なモデルを作成した。
今年度測線部分の入力モデルの構造は、反射法から求まった深度断面図(図2−2−15)を参照しながら決定し、速度のみを変えていってもっともモデルと観測値の走時のずれが少ないと思われるもの初期モデルとした。
このモデルでは、基盤岩上面の屈折波、上総層群と下総層群の境界付近からの屈折波が説明でき、さらに去年の屈折法の解析では明瞭でなかった三浦層群上面に相当する面の屈折波が一部の記録で説明できたが、解釈の見直しによりこの反射面は、上総層群中の地層境界となった。従って、三浦層群上面に相当する屈折波は確認されていない。
逆に、去年の屈折法では認められた保田層群相当層上面での屈折波は、保田層群相当層が今年度測線の中間部分で尖滅していると考えられるため、現れてこない。
今年度の調査測線と昨年度の調査測線は重なる部分があり、両者モデルの重複部を同じモデルになるように変更し、両者のレイトレーシングをやり直し、最終モデルとした。
レイトレーシングと全発震点での実データの初動読み取り値の比較を図2−3−4(a), (b)に示す。この図は、10受振点ごとの初動読み取り値・レイトレーシングの結果求まった走時のグラフ、モデル構造図とレイトレーシングのパス、最下段にモデルの速度構造を並べて表示したものである。図2−3−4(a)が昨年度(平成13年度)の結果、図2−3−4(b)が今年度(平成15年度)の結果を示す。
また、基盤からの屈折波が確認された平成13度の発震点D2、今年度の発震点の屈折波強調処理後の記録と、10受振点ごとの初動読み取り値・レイトレーシングの結果求まった走時のグラフ、最下段にレイトレーシングのパスを並べて表示したものを図2−3−5(a)〜(d)に示した。
最終的なモデルをまとめたものを図2−3−4の下図に示す。
基盤岩のP波速度は、平成13年度測線では4.9km/sであり、今年度測線でも4.9km/sとなった。平成14年度測線では5.3km/sでありこの違いは有意である。
保田層群相当層上面に対応する屈折波は、平成13年度の調査結果では確認されているが、今年度の結果では基盤岩の屈折波とほぼ同じ走時となり識別できなかった。ただし、基盤屈折波の走時を説明するためには、4km/s程度の速度の地層がかなり厚く分布しないと説明できないため、既存調査でP波速度が3km/sを超える保田層群相当層が測線西部に厚く分布していると考えられる。
逆に、上総層群中の地層境界に対応する屈折波は、平成13年度の調査結果では見られなかったが、今年度の結果で見られた。平成13年度の反射法断面図の解釈結果をもとに、モデルを作成したところ、ダイナマイト発破点D2の記録で、初動になってない屈折波と対応することが分かった。この結果は、図2−3−5(a)に示した。三浦層群から上総層群中の屈折波地層境界までのP波速度は、2.3〜2.8km/sである。
上記屈折面より上位の上総層群に相当する堆積層の速度構造は、水平方向に大きな変化がない。屈折波の速度の境界は、総合解析(3.で後述)で解釈を行った上総層群と下総層群の境界よりもやや下位(上総層群中)にある。上総層群のP波速度は、最大2.4km/sであるが、測線北東部では上総層群が厚くなるにつれ、速度は2.15km/s程度と遅くなる。
最上位の屈折層(下総層群と上総層群を含む)のP波速度は、1.7〜2.0km/sであり、水平方向にはあまり変化が見られない。ただし、実際には測線東部には下総層群は分布せず、測線東部での最上位層の速度は地表付近の風化した上総層群の速度を示している。