今年度の調査では、走時で2〜2.5秒くらいまでは、測線全体で明瞭な反射波をとらえることができた。しかしながら、先新第三系基盤上面からの反射波は測線の多くの部分で明瞭ではなかった。
P波屈折法地震探査の結果、ブーゲー異常図、および周辺の坑井情報等の既存資料等を総合的に判断しながら、以下の作業を行った。
地震断面図上で、基盤を含めて顕著な反射面として追跡できる地層境界を上位からA〜Eの5つとして識別した。これらの境界をマイグレーション深度断面図上に記入したものが図3−2である。
坑井情報・屈折法の解析結果は直接深度構造で与えられるが、水路部の東京湾の断面図の解釈、反射法の速度情報・反射面の識別等は時間断面図において得られるため、実際の解釈作業は、マイグレーション時間断面図と深度断面図の双方を見比べながら行っている。
図中には、各層の代表的なP波区間速度を示した。マーカーEの下の基盤速度は屈折法から求めたもの、その上位の速度は反射法地震探査の速度解析(図2−2−10−1、図2−2−10−2、図2−2−10−3)の結果から求めたものである。
図3−3は、反射法の深度断面図に、屈折法のレイトレーシングの結果を重ね合わせたものである。ここに表示した速度は、レイトレーシングの結果求められた速度である。
基盤上面および保田層群相当層上面の深度・構造については、反射法断面図で反射面が明瞭な場合はそれを屈折法の拘束条件として与え、反射面が不明瞭な場合はレイトーシングの走時合わせを行うという相互補完的な作業の結果として求まったものである。
深度約1kmの屈折境界面については、明瞭な屈折初動が見られるため、走時合わせによって移動することは困難であった。ただし、この面については、上下の速度コントラストがわずかであり、速度は地層の違いではなく深度の影響を大きく受けているためと考えられる。
本年度の結果を、水路部の東京湾二次元地震探査の結果と比較するために、本年度測線の北の部分と東京湾のB−2測線の東端部分と並べたものが図3−4である。
文献調査の結果と合わせて、以下のことが明らかとなった。
【マーカーE(基盤上面)】
○ 基盤上面からの反射波は、袖ヶ浦発震点付近の屈折法記録・反射法記録中に認められるが、木更津の屈折発震点で夜間150スイープの記録でも明瞭ではなかった。
○ 処理断面図上では、基盤上面からの反射波は、測線中央部で往復走時約3秒(深度約4.0km)で強く見られる。また、測線北端のダイナマイト屈折記録を用いた部分で基盤上面からの反射波が見られる。その他の部分では弱く追跡が難しい。屈折法のレイトレーシングによる解析結果を参照すると、測線北部(袖ヶ浦市と市原市の境界付近)で走時3.4秒ぐらいに凹部(最深部約4.7km)があるように解釈される。
○ ダイナマイト屈折法2点の発破のうち、市原発破点の記録中には走時3秒(深度約3.8km)に基盤岩からの反射波が認められた。
○ 先新第三系基盤の深度は、屈折法の解析結果から約4.0〜4.7kmと求まり、測線北部に最深部がある。中央部の反射が明瞭な部分で約4.0kmとやや浅くなるが、ここから南西方向には徐々に浅くなり、ここから測線南西端の富津市で約4.4kmになると解釈される。水路部の東京湾の結果でも、富津の沖合いの基盤深度は深いと解釈される。
○ 基盤岩の速度は、屈折法の結果から、4.9km/sである。
○ 基盤上面の往復走時は、東京湾B−2測線の市原沖で2.6秒、今年度測線のB−2測線延長部で約3.3秒であり、そのまま対応させるとかなり急激な落差(約1000m)になる。逆にB−2測線の反射面を素直に延長すると、今年度測線の保田層群相当層上面に対応する(図3−4)。基盤が落差をもつ傾向は、東京湾B−3測線、B−4測線とその今年度測線延長部との間でも同様である。
○ 基盤上面の深度構造は、市原市と袖ヶ浦市の境界付近でもっとも深くなる点では、ブーゲー異常値の変化と対応しているが、木更津市から富津市にかけて深度がやや深くなる傾向は、ブーゲー異常値が徐々に増加する傾向とは対応していない。
【マーカーD(保田層群相当層上面)】
○ 中央部で走時2.5秒前後(深度約3.5km)付近に比較的強い反射面が認められ、ほぼ測線全体で追跡でき、北東方向に深くなる傾向がある。
○ 上記反射面から基盤上面までの区間速度は、精度の高い反射法測線中央での速度解析の結果から約3.5km/sである。屈折法の解析でも3.6〜4.2km/sとやや速い。これは、三浦層群相当層よりも古い時代の堆積層と解釈される。
富津観測井の南約7kmにある大佐和GS−1では、三浦層群の基底深度が1467m、その下2541m(堀止深度)まで保田層群とされており(石和田ほか,1965)、この3.5km/s層が保田層群相当層である可能性が高い。
○ 保田層群相当層は、北部で薄くなるものの全測線にわたって分布していると解釈される。また、東京湾の2次元反射法測線でも、東京湾南部では保田層群が存在すると解釈されている。しかしながら、東京湾B−2測線の東京側(江東地殻活動観測井)では三浦層群の下の基盤は秩父帯であることが確認されており、今年度測線とB−2測線の間、あるいはB−2測線上のどこかで保田層群が消滅していることになる。
【マーカーC(三浦層群相当層上面)】
○ 上総層群基底(三浦層群相当層上面)は、測線南端に位置する富津地殻活動観測井で深度830m(走時約0.9秒)(鈴木ほか,1999)である。この面は不整合面であり、反射波は、測線全体に渡って追跡可能である。測線北東では、走時1.5秒(深度約1700m)になる。
○ 測線の北東約5km先に八幡K−6井があり、堀止深度2000mで三浦層群に到達していない(鈴木,1996)ことから、上総層群の基底は、測線の北東方向延長でさらに深くなっていくと判断される。
○ 三浦層群相当層中(マーカーC〜D間)には、変位の少ない反射面のずれが数箇所で見られる。これは小さな断層の可能性がある。
○ 屈折法地震探査の結果では、測線南半分でおよそこの面に相当する屈折面が見られる。しかし、この面は測線北半分でもほぼ水平につながっており、反射法の結果とは対応していない。これは、屈折法地震探査がマクロな物性境界を捉えているためと考えられる。
【マーカーB(上総層群上面)〜マーカーA】
○ 測線の中央部以北で、走時約0.7秒(深度約600m)に連続性の良いほぼ平坦な強い反射波が見られる。この反射波は、測線南西部分で徐々に浅くなる。これは顕著な不整合面であり、楡井(1977)の東京湾不整合面と対応し、ここが上総層群と下総層群の境界と解釈される。このマーカーは富津市付近で深度約300mとなるが、これは楡井(1981)(図2−4−41)と調和的である。
○ 測線の北端付近に位置する五井R−1井(堀止深度1315m)で、鈴木(1996)では下総層群基底の深度は300mとされている。この深度には、水平で連続性の良い反射面が見られる(マーカーA)。マーカーBを上総層群の下面として解釈しているので、マーカーAは上総層群中の反射面と解釈される。
○ 測線南東部で上総層群上面(マーカーB)に対応する屈折波は、測線北東部では必ずしも深くならならず、むしろマーカーAに近い。これは、速度構造が漸増しているためと考えられる。
【その他】
○ 屈折法地震探査の震源として、ダイナマイトは有効であった。周囲に人家がない発震点を選ぶことができれば、最大オフセット距離30km以上の屈折波が取得できることが確認された。