No.13−01〜No.13−13の各地点の解析結果として、位相速度およびS波速度構造を図2−4−42、図2−4−43、図2−4−44、図2−4−45、図2−4−46、図2−4−47、図2−4−48、図2−4−49、図2−4−50、図2−4−51、図2−4−52、図2−4−53、図2−4−54に示した。
(b) 各探査地点の解析手順とS波速度構造
S波速度構造を解析するにあたって、既存資料から得られる地下の地質・地震学的知見は、解析手順と解析結果の解釈双方にとって重要である。
今回の解析手順で基本とした既存資料の利用については2.4.4−(1)に記したので、ここではこれ以外に利用した既存資料があればそれを示しながら各探査地点の解析手順を述べ、さらにS波速度層の解釈とその際の検討・問題点についても述べる。
1) No.13−01−FUT地点
アレー中心から北東へ約2kmの所に富津地震観測井がある。これは表2−4−6には記載されていないので、防災科学技術研究所研究資料第191号から必要なデータを引用して示すと、表2−4−8のようになる。
富津地震観測井の下総層群基底深度、上総層群基底深度はそれぞれ35m、830mで、三浦層群は掘止深度2040mまで連続している。このデータでは下総層群は層厚が薄いので、1層と仮定することにした。先新第三系上面深度は図2−4−37より読み取り、これらの深度を初期モデルに5層構造を想定したS波速度構造の解析を行なった。なお、アレー中心との標高差が1mしかないので、富津地震観測井の深度をそのまま解析に用いた。
この解析結果は、観測分散曲線に対する理論分散曲線の1Hz以上と、さらに0.3Hz以下のフィッティングも悪いというものとなった。
特に、0.3Hz以下のフィッティングは深部の地質情報が関与しているので、先新第三系の上面深度や三浦層群相当層及び先第三系基盤のS波速度を何度も変化させ解析を繰返したが改善されず、層構造を変えずに良いフィッティングを得ることは難しいと判断した。
そこで、アレー中心の南方約5kmで実施された層序試錐「大佐和」(GS−1)の深度1467m以深が保田層群となっている(図2−4−55参照)こと、及び平成13年度地震探査において大佐和(GS−1)のデータなどを参考として、富津から北東へ向かう測線下で三浦層群と先新第三系の間に保田層群相当層を入れて解釈していることなどを踏まえ、この微動探査の解析も三浦層群相当層の下部にS波速度が0.5km/s程度高い保田層群相当層を仮定し、6層構造の初期モデルに変更した
さらに、平成13年度屈折法地震探査の結果で、先新第三系基盤の深度が4000m強という情報を得て、基盤の上面深度をその深度付近で絞り込むことにして解析を行なった。
これらによって、0.3Hz以下のフィッティングの改善が得られた。
本地点と同じように0.3Hz以下のフィッティングが悪く、保田層群相当層を仮定し、さらに屈折法の資料を基にした先新第三系基盤上面深度で解析することにより、フィッティングが向上した地点は、No.13−02−SDU 、No.13−03−YSD 、No.13−05−IIC である。今回の微動探査で得られた0.2〜0.3Hz付近の分散曲線の信頼性はいずれの観測地点でも十分にあることから、その周波数領域のフィッティングが向上する場合は、これらの解析結果を生かすことにした。
これら保田層群相当層と仮定した層は、解析した4地点でS波速度が1.86〜2.00km/s、上面深度が2680〜3220m、層厚1430〜1750mという範囲になった。この上面深度の範囲は保田層群が確認されている大佐和(GS−1)の試錐データの保田層群上面深度と1000m以上の開きがある。
今回、保田層群相当層と仮定して解析した層を「保田層群」と判断するにはデータが不足しているので、便宜的に「保田層群相当層」と注釈なしで用いることにした。
一方、1Hz以上の浅部の解析では、富津観測井の地質柱状図で下総層群が深度35mとされているため、深度35m以深に上総層群の推定されるS波速度0.6km/s以上を入れるとフィッティングが悪くなってしまうという結果になった。そこで、試みに初期モデルで下総層群を1層にしたのを2層にして解析し、第2層のS波速度として良いフィッティングが得られたのは0.49km/sだった。0.49km/sは既存資料(表2−4−5参照の他、図2−4−56にPS検層などで測定したS波速度の例を示す)などから考えて、下総層群の可能性の方が高い。
下総層群基底深度について他の資料(図2−4−41参照)では200m前後としているものもあることと、富津観測井地質柱状図の495mより上部では年代に関する厳密な検討がされていないことから、下総層群の基底深度は35mより深い可能性もあると考え、今回の解析はフィッティングの良い第2層のS波速度0.49km/sを採用し、下総層群と判断した。
したがって、本報告書では解析結果の第2層までを下総層群とし、第3層のS波速度0.79km/sと第4層0.90km/sを上総層群とした。
また、初期モデルで当初、三浦層群相当層は1層と仮定したが、2層に分けるとフィッティングがさらに改善されることが判り、2層に分けて第5層1.37km/s、第6層1.47km/sというS波速度を得た。このS波速度は平成12年度微動アレー調査で得られた三浦層群相当層のS波速度の範囲内で上限に近い値だった。
このようにして求めたNo.13−01−FUTの解析結果と、地層区分をまとめたのが表2−4−9である。
最終的に、上総層群基底深度は富津観測井の試錐データに近い840mとなった。三浦層群相当層の層厚は1840mで図2−4−38よりやや薄く、新たに保田層群相当層が層厚1480mを有して分布している。先新第三系基盤の上面深度は4160mと図2−4−37より500m以上深く、そのS波速度は2.55km/sで、平成12年度調査の先新第三系基盤の速度よりは低い結果となった。
2) No.13−02−SDU地点
この地点には、近くにボーリングデータがないため、No.13−01−FUT地点の解析結果をもとに、図2−4−37、図2−4−38、図2−4−39、図2−4−40、図2−4−41を参考に修正した初期モデルで解析を行なった。
解析結果はフィッティングの良いものとなったが、初期モデルで2層とした上総層群は、1層にまとめて解析しても深度・S波速度ともに、ほとんど変化がなかったため、解析結果では1層にまとめて示した。
また、第2層のS波速度が0.69km/sで下総層群のS波速度としては高いものとなった。しかし、第2層を上総層群とすると、下総層群の層厚は既存資料図2−4−41と比べて1/3程度ということになる。むしろ、第1・2層ともに下総層群とした方が既存資料との整合性があることから、やや高いS波速度であるが、第2層も下総層群と考えた。
したがって、第3層だけが上総層群となり、深度1110mまで続く。この深度は図2−4−39から読み取れる上総層群の基底深度(標高)−1500mより浅いが、この深度を深くしようとするとどうしても良いフィッティングが得られなかった。
三浦層群相当層の下位にはNo.13−01−FUT地点と同様に保田層群相当層を考え、先第三系基盤の深度を深くすることによりフィッティングが良くなった。
第4・5層のS波速度はそれぞれ1.37km/s、1.47km/sで、No.13−01−FUT地点の三浦層群相当層とほぼ同じ値であった。第6層の保田層群相当層のS波速度は1.99km/sで、これもNo.13−01−FUT地点の保田層群相当層とほぼ同じ値となった。
このようにして求めたNo.13−02−SDU地点の解析結果と、推定した地層区分をまとめたのが表2−4−10である。
全体として、三浦層群相当層、保田層群相当層と下総層群がNo.13−01−FUT地点より層厚が厚く、上総層群はほぼ同じ層厚として解析された。中でも保田層群相当層が270m、下総層群が250m厚くなっているのが目立つ。さらに、先新第三系上面深度が4720mと、既存資料などで考えられているよりかなり深い。先新第三系基盤のS波速度は2.70km/sで、No.13−01−FUT地点よりは高いが、平成12年度微動アレー調査の平均値よりは低い。
3) No.13−03−YSD地点
この地点はNo.13−02−SDU地点と表2−4−6の五井R−1とに近いが、五井R−1の試錐データでは300mで下総層群基底深度を確認しているだけで、掘止深度1305mまで上総層群の基底深度も確認していない。そこで、本地点の初期モデルはNo.13−02−SDU地点の解析結果を参考に設定した。
解析過程での検討点は、第2層のS波速度が高いこと、及び上総層群は2層に分けなくても良いフィッティングが得られたことなどNo.13−02−SDU地点とほぼ同じだった。
さらに、三浦層群相当層の下位に保田層群相当層を入れ、先新第三系基盤の深度を深くするとフィッティングが良いのも同じだった。
このようにして求めたNo.13−03−YSD地点の解析結果と、推定した地層区分をまとめたのが表2−4−11である。
No.13−02−SDU地点との相違点は保田層群相当層のS波速度がNo.13−02−SDU地点では1.99km/sであるのに対して、本地点では1.86km/sと0.13km/s低くなっていること及び三浦層群相当層を2分した場合の上下層の層厚に400m前後の違いが出ているくらいである。三浦層群相当層全体の層厚の変化は少ない。
解析に際してNo.13−02−SDU地点の解析結果をモデルとしているが、深度を固定して解析を行っているわけではなく、このように違いの少ない結果が得られたのは、個々の層相に変化はあるものの、全体としてNo.13−02−SDU地点と似た地質状況であるためと推定される。
図2−4−37、図2−4−38、図2−4−39、図2−4−40、図2−4−41の既存資料と比べると、下総層群の層厚は同じくらいだが、上総層群基底の深度は1000m前後浅くなっている。三浦層群相当層の層厚は500m前後厚くなっており、この下位に既存資料にない保田層群相当層と考えられる1.86km/sの層が1700mあり、先新第三系上面深度は図2−4−37から読み取れる値より1000m以上深くなっている。
なお、本地点は先に示した図1−1調査位置図で重力異常の「L」の部分に対応し、調査地域内で最も先新第三系の上面深度が深い解析結果となった。
4) No.13−04−USK地点
本地点はNo.13−03−YSD地点の南東方向10kmのところで、近くに既存孔井がないため、初期モデルは基本的な下総層群2層、上総層群2層、三浦層群相当層と先新第三系各1層の6層構造で、既存資料等から各層の基底深度等を読み取って作成した。
解析過程で当初2層とした下総層群のうち第2層のS波速度が高くなり、上総層群に相当するS波速度となった。初期モデルの層構造と同じ下総層群2層にするため、第1層を2分することも検討したが、第1層の層厚が薄く、これ以上は微動探査法の分解能から考えて無理がある(アレーの大きさによるもので、13−11〜13のような小さなアレーで観測を行なえば、より細分化は可能)と判断し、下総層群は第1層だけとした。
さらに、第4層は三浦層群相当層に相当するS波速度に近づき、最終的に初期モデルと同じ6層構造でも、第1層が下総層群、第2・3層が上総層群、第4・5層が三浦層群相当層(第5層のS波速度の検討は後述)、そして第6層が先第三系基盤にそれぞれ対応すると考えられるS波速度で解析された。
初期モデルと比べると下総層群が1層に減り、1層だけと仮定した三浦層群相当層が第4・5層の二つの層に分かれるという形になった。このような層構造で良いフィッティングが得られた。
本地点の第5層のS波速度1.65km/sは、13−01−FUT〜13−03−YSD地点で推定した、三浦層群相当層と保田層群相当層のS波速度の中間と言える値で、今回の調査で解析したS波速度で他にこのような値はない。
既存資料を見ると、先に掲げた図2−4−35中TokorozawaとIwatsukiのS波速度柱状図には新第三系として1.56・1.57km/sの速度値が記載されており、今回の第5層のS波速度値1.65km/sに近い。図2−4−35ではこの1.56・1.57km/s層の地層名がはっきりしないが、平成12年度微動アレー調査の図3−13によると関東平野北部に分布する中〜下部中新統の富岡層群の中・下部相当層となっている。この富岡層群の中・下部相当層の堆積年代は三浦層群下部と同じである。この富岡層群はほとんどが砂岩・泥岩を主とすると考えられ、三浦層群に近いようである。
そこで、本地点の第5層も、他の地点で三浦層群相当層としたものよりS波速度が高いが、三浦層群相当層と推定した。
ただ、この第5層は三浦層群相当層の下位にある保田層群相当層も一緒に解析したため、三浦層群相当層としては高いS波速度1.65km/sになったという可能性も否定はできない。しかし、第5層は2層に分けなくてもフィッティングが良好であることから、保田層群相当層が存在するとしても、その層厚は微動探査の分解能以下の薄いものと推定される。さらに周辺で保田層群相当層を確認した例がないことから、本地点では保田層群相当層のないものを解析結果とした。
以上の検討などから求めたNo. 13−04−USK地点の解析結果と、推定した地層区分をまとめたのが表2−4−12である。
既存資料の深度等を見ると、下総層群の基底深度は200〜300mと読み取れ、解析結果は浅い。上総層群基底深度は(標高)−2000m程度とされていたものが、標高差を考えても半分以下の890mという結果となった。その分三浦層群の層厚が厚くなり、2倍近い2860mとなって、先第三系上面深度は図2−4−37で読み取れる(標高)−3500m以上の3750mになっている。
先の東京湾岸に近いNo.13−03−YSD地点と比べると、下総層群基底深度が300m、上総層群基底深度が250m、先新第三系基盤上面深度が約1000mといずれも浅くなっている。
先新第三系基盤のS波速度は近くの13−03−YSD地点とほぼ同じ値となった。
5) No.13−05−IIC地点
先のNo.13−03−YSD地点と同じように既存孔井の五井R−1に近いが、五井R−1の試錐データでは300mで下総層群基底深度を確認しているだけで、掘止深度1305mまで上総層群の基底深度も確認していない。このため、初期モデルはNo.13−03−YSDを参考に、既存資料から深度等を推定して作成して解析を行った。
解析過程でNo.13−03−YSD と同じように200m前後で層区分しようとすると上下層のS波速度に差がなくなり、下総層群に相当するS波速度の層は1層とした方が無理に2層に分けるよりフィッティングが良かった。
一方、上総層群はNo.13−03−YSD地点では1層として解析したが、本地点ではS波速度0.80〜1.20km/sの範囲で2層にした方がフィッティング良く、上総層群を2層に分けた。
さらに、保田層群相当層を入れ、先新第三系の基盤深度を深くすることにより、良いフィッティングを得たことは 1)〜 3)と同じだった。
このようにして求めたNo.13−05−IIC地点の解析結果と、推定した地層区分をまとめたのが表2−4−13である。
解析結果を既存資料と対比すると、下総層群基底深度は五井R−1の試錐データの300mよりやや深い。上総層群基底深度は既存資料で(標高)−2000m以上と考えられているが、これは1580mと浅い。三浦層群の層厚は1000〜1500mの間と推定されているのが、今回の解析結果では1640mと厚く、さらに層厚1430mの保田層群相当層が分布し、先新第三系上面深度は1000m以上深い4650mという結果となった。
先新第三系基盤のS波速度は今回の調査地域で13−01−FUT地点と並んで一番低い2.55km/sとなった。
6) No.13−06−CBA地点
アレー位置はほぼ千葉地震観測井に一致し、このデータは表2−4−5には記載されていないので、防災科学技術研究所研究資料第191号から千葉地震観測井の主なデータを引用して表2−4−14に示す。
この試錐データと既存資料の図2−4−37、図2−4−38、図2−4−39、図2−4−40、図2−4−41を参考に初期モデルを作成した。
当初、千葉地震観測井のデータに沿って、第1層だけを下総層群とした解析を試みたが、フィッティングを良くしていくと第2層のS波速度は高くならず、下総層群に相当する0.6km/s前後のS波速度が深度500m以上まで続くという結果になった。
しかし、この結果では下総層群と上総層群の境界がはっきりしないことから、千葉地震観測井のデータとは別に、下総層群基底深度を図2−4−41から読み取った(標高)−300〜400mとして、下総層群2層、上総層群2層、三浦層群相当層、先新第三系各1層の6層構造モデルで新たに解析を行った。このモデルの解析過程で0.4Hz以上のフィッティングが良くならないことから、層構造が他より複雑である可能性があると考え、上総層群の層を増やして3層で解析したところフィッティングが改善した。最終的に7層構造でフィッティングの良いものを最適解と判断した。
なお、保田層群相当層については、先新第三系基盤上位の第6層のS波速度がNo. 13−04−USK地点より低く、第6層中に保田層群相当層が存在するとしてもその層厚はNo. 13−04−USK地点よりさらに薄いと考えられることから、No. 13−04−USK地点と同じ理由で解析しなかった(No.13−07−CBC・No.13−08−YCM地点も同じ)。
このようにして求めたNo.13−06−CBA地点の解析結果と、推定した地層区分をまとめたのが表2−4−15である。
下総層群基底の深度は、第1層だけを下総層群とすると千葉地震観測井の試錐データと整合はするが、第2層のS波速度0.54km/sが上総層群のS波速度として低い。一方、第1・2層を下総層群とすると既存資料図2−4−41の下総層群基底の深度とS波速度の面で整合することから第1・2層を下総層群と判断した。
上総層群基底以下の各層の深度については、既存資料に近い深度で層区分できる結果を得た。
本地点の三浦層群相当層は1層で解析し、このS波速度は位置が離れた13−01−FUT地点〜13−03−YSD地点の三浦層群相当層の上部に近いS波速度で解析された。
先新第三系基盤のS波速度はほぼ南南西にある13−04−USK地点と同じだった。
7) No.13−07−CBC地点
この地点付近には千葉FR−10(掘止深度2000m)他の試錐データがあるが、いずれれも上総層群の基底を確認しておらず、下総層群の基底深度(250〜463m)を確認しているだけである。
層構造は6層の基本構造として、既存資料から深度を読み取って初期モデルとした。
この付近は上総層群基底以下の試錐データはないが、地震探査等の他のデータが豊富なため、図2−4−38、図2−4−39、図2−4−40、図2−4−41のデータとかけ離れることなく、解析は他と比べてスムーズに行なえた。下総層群の基底深度は既存の試錐データにばらつきがあったが、深い方の値に近い480mで良いフィッティングを得た。
このようにして求めたNo.13−07−CBC地点の解析結果と地層区分をまとめたのが表2−4−16である。
解析結果は、既存資料から得られた深度とほぼ同じで、下総層群と上総層群のS波速度は13−05−IIC地点のS波速度に近い値となった。三浦層群相当層のS波速度は今回の調査地点の平均値に近く、先新第三系基盤は一番低い値となった。
三浦層群相当層はNo. 13−04−USK地点と同様に保田層群相当層が一緒に解析されている可能性も考えられるが、保田層群相当層を仮定しないで良好なフィッティングが得られ、他にその存在を示唆する既存資料もないことから、微動探査の分解能を考え、詳細な解析は行なわなかった。
8) No.13−08−YCM地点
本地点には八街R−2の試錐データがある。それによると下総層群基底深度270m、上総層群基底深度1892m、先新第三系基盤上面深度1989mといずれも確認されている。したがって、初期モデルは隣のNo.13−07−CBC地点も参考に、試錐データの値を用いた6層構造とした。
解析過程で、試錐データの下総層群の基底深度270mを中心に解析していったところ、深度260mまでが第1層になり、第2層が深度260〜550mでS波速度は0.60km/sという結果になった。
試錐データから第2層は上総層群のはずが、0.60km/sではS波速度が低すぎるのではないかと考え、今度はNo.13−06−CBA地点を参考に下総層群2層、上総層群3層を仮定し、全体で7層構造のモデルで再度解析を行なった。この結果、第1・2層のS波速度は0.40・0.47km/s、第3層は0.69km/sと、S波速度による下総層群と上総層群の違いが明確になり、第2層の底面深度(下総層群基底の深度)は試錐データより60m深い330mで良いフィッティングが得られた。
一方、0.20〜0.25Hzのフィッティングにズレが残った。これは上総層群から先新第三系基盤上面の深度に相当する周波数領域と考えられ、試錐データの深度に2割以上の範囲を持たせたり、保田層群相当層も仮定した8層構造にしたりして解析を行なったが、解消できなかった。
試錐データの上総層群基底面・先新第三系基盤上面の深度誤差は少ないと考えられ、良好なフィッティングが得られない原因は、実際の地層境界が微動探査法解析の前提である水平多層構造になっておらず、観測分散曲線に理論分散曲線がフィッティングできない変化があるためではないかと推定される。このため、解析した中でフィッティングのズレができるだけ少ないものを解として選んだ。
このようにして求めたNo.13−08−YCM地点の解析結果と推定した地層区分をまとめたのが表2−4−17である。
解析結果の第2層の底面深度が330mで、八街R−2の試錐データの下総層群底面深度に近く、第1・2層を下総層群とした。この深度が試錐データより深くなっているのは、下総層群基底面が傾斜しているための誤差、又は地層区分の解釈の違い(表2−4−7参照)などが考えられる。
層構造は本地点の南南西約13kmにあるNo.13−06−CBA地点と同じ7層構造で解析され、上総層群を3層で解析したのは、この2地点だけである。これらの下総層群と上総層群のS波速度を比べると、第3層を除き、本地点の方が低くなっている。
三浦層群相当層の層厚はNo.13−06−CBA地点で1250mだったものが、本地点で140mと薄くなっているがS波速度はほとんど変化していない。先新第三系基盤上面の深度は3420mから1980mと三浦層群相当層の層厚の減少に合せるように浅くなっている。S波速度は2.70km/sでやや高い。
9) No.13−09−YKC地点
本地点のアレー内に四街道R−1があり、この試錐データでは下総層群基底深度460mと上総層群が掘止深度の2000mまで連続していることがわかっている。その他のデータは既存資料の図2−4−38、図2−4−39、図2−4−40、図2−4−41より推定し、初期モデルを6層構造とした。
解析過程で、初期モデルの6層構造ではフィッティングが悪く、三浦層群相当層を外したところフィッティングが改善し、この5層構造で解析した。
このようにして求めたNo.13−09−YKC地点の解析結果と推定した地層区分をまとめたのが表2−4−18である。
解析結果は、No.13−07−CBC地点と比べて、上総層群のS波速度が全体に低く、No.13−08−YCM地点に近い値となった。三浦層群相当層はNo.13−07−CBC地点で950mの層厚が解析されたが、本地点では解析されず、その分先第三系基盤上面の深度が浅くなっている。先第三系基盤のS波速度は上面深度2000m前後でフィッティングの良い値を絞り込んだ結果、S波速度が他と比べてやや高くなった。
10) No.13−10−SKR地点
本地点には佐倉R−1の試錐データがある。これによると下総層群基底が深度270m、上総層群基底が深度1510mで確認された。三浦層群相当層は分布していない。初期モデルはこのデータをもとに下総層群2層、上総層群2層、それに先新第三系基盤1層の5層構造で解析を行なった。
このようにして求めたNo.13−10−SKR地点の解析結果と推定した地層区分をまとめたのが表2−4−19である。
本地点では、試錐データに近い下総層群基底深度、上総層群基底深度で解析され、S波速度は下総層群上部の第1層と上総層群下部の第4層(上総層群が3層で解析された地点は第5層)が周辺の探査地点より低い値になっている。
先第三系基盤のS波速度はNo.13−09−YKC地点と同じ値で解析された。
極小アレー解析結果について
地質区分は大アレーでの解析結果を参考にした。
しかし、層構造を細分するための資料がないため、極小アレーでの解析目標深度を三浦層群相当層上面付近とし、微動探査法の分解能は深度が深くなるにつれて低下していくことを考慮し、便宜的に下総層群5層、上総層群3層、三浦層群相当層1層の9層を仮定した初期モデルで解析を行なった。解析では特に深度・S波速度を固定しなかったが、解析過程で不要と判断される場合は層を減らした。
解析結果では下総層群の上位層も個々に解析されたので、便宜的ではあるが下総層群の上位層と推定されるS波速度0.4km/s未満の層を「新期ローム・沖積層」と区分した。
11) No.13−11−KMT地点
本地点は大アレー13−01−FUT地点の東側に隣接しているので、No.13−01−FUTの下総層群基底深度と上総層群基底深度を基に解析を行なった。
下総層群基底の深度、上総層群基底の深度は13−01−FUT地点に近い値で解析された。
下総層群の第3層と第4層では下位の第4層の方が低いS波速度になっているが、これは未固結堆積物の場合、堆積年代よりも層相の方がS波速度に影響を与えることが多く、粘土<砂<砂礫の順にS波速度が高くなる傾向にあり、第4層の方が第3層より粘土分が多いのではないかと推定される。
上総層群上部のS波速度が13−01−FUT地点より低くなっているのが目立つが、境界の深度も変化しており、この影響と層相の変化のためではないかと推定される。
三浦層群相当層のS波速度は13−01−FUT地点の三浦層群相当層上部とほぼ同じ値で解析された。
12) No.13−12−KSZ地点
大アレーの13−01−FUTと13−02−SDUの中間に位置する。このため、解析は双方を参考にして、No.13−11−KMTと同じ9層の初期モデルを仮定し、フィッティングをみながら最適解を絞り込んだ。
下総層群基底深度は13−01−FUT地点に近い深度で解析された。
第4層のS波速度は上総層群と思われるが、下位の第5層のS波速度が上総層群としては低いS波速度であることから第4・5層を下総層群と判断した。このように下総層群のS波速度が高い傾向は13−02−SDU地点に近い。
上総層群のS波速度は13−02−SDU地点より低く、13−01−FUT地点に近いようである。
三浦層群相当層上面の深度(上総層群基底の深度)は13−01−FUT地点・13−02−SDU地点の中間の深度となった。
三浦層群相当層のS波速度は13−01−FUT地点・13−02−SDU地点いずれよりも高く、13−03−YSD地点の三浦層群相当層下部に近い値で解析された。本地点の解析結果は三浦層群相当層の上面近くのS波速度と考えられることから、三浦層群相当層は層相の変化によってS波速度も比較的大きく変化しているのではないかと推定される。
本地点で特徴的なのは第1・2層の低いS波速度で、このように低いS波速度は他に解析されていない。粘土・腐植土などの軟弱層が発達したのではないかと推定される。
参考までにS波速度からN値を推定(今井の提案式)すると、第1層が「1以下」、第2層が「2」となる。
また、本地点はK−NETの木更津観測点とほぼ同じ位置で、その土質データでは軟弱層が深度16mまでとなっており、微動探査結果と一致している。
13) No.13−13−KRN地点
大アレー13−02−SDUの北東側に隣接しているので、13−02−SDUの解析結果をもとに他の極小アレーと同様に9層構造の初期モデルで解析を行なった。
解析結果は、下総層群基底深度が13−02−SDU地点より100m強浅く、上総層群基底深度は13−02−SDU地点とほぼ同じ結果になった。
S波速度を見ると下総層群は13−02−SDU地点に近い傾向を示し、上総層群は13−02−SDU地点では1層だったものが、S波速度の差が大きい二つの層に区分された。
三浦層群相当層のS波速度は13−02−SDU地点の三浦層群層相層上部の値に近いものとなった。