具体的な解析手順は、次のとおりである。
(a) 波形データ処理
微動探査法では、アレーを構成する複数の観測点を「一体の観測システム」と見なして、どの観測点でも均質なデータが取得されたかどうかの確認を行う。これを、「微動の空間的定常性」の評価という。
具体的には、取得した微動波形データから微動パワースペクトルを計算し、各地震計ごとのスペクトル曲線が同じ形状であるような周波数範囲を調べる。スペクトル強度に多少の違いはあっても、曲線形状が相似していれば(パワー軸方向に曲線を上下に移動させると互いに一致する場合)、微動の空間的定常性が保たれていると判断する。以後の処理は、スペクトル曲線の形状が一致するような周波数の範囲内で実施する。
(b) 空間自己相関法に基づく分散曲線の計算
微動に含まれる表面波成分の分散データの計算には、空間自己相関法(Spatial AutoCorreration Method;略称SPAC法、岡田他、1987)および拡張空間自己相関法(略称ESPAC法、凌、1994、凌他、1993)を用いる。
ここで実際に用いている空間自己相関係数の計算方法は、Aki(1957)が定義したものではなく、半径rのアレーの中心点(0, 0)、円周上の点(r,θ)として、地震計の設置条件(例えば、地震計と地面のカップリング)などが異なる場合を考慮し、(1)式のように求めている[岡田ほか(1987)]。空間自己相関関数および空間自己係数のオリジナルの定義はAki(1957)の論文を参照された。
式2参照
(1)式は、半径rのアレーで微動を観測したとき、そこに分散性の波が含まれていると仮定すると、空間自己相関係数ρは周波数f、アレー半径r、分散性の波の位相速度cを変数とする第一種0次のBessel関数で表されることを意味する。
2重三角形アレー(図2−4−1)で観測を行ったとき等距離(R)の観測点間の組み合わせは図2−4−3に示すような5通りができる。すなわち、アレー半径をr、2rとすると大きい順に、r、 、2r、3r、2 rの5通りである。以下、アレー半径rの値をRで代用する。
図2−4−16−1、図2−4−16−2、図2−4−16−3の下図は、上記の5通りの等距離(R)の観測点間の組み合わせに基づいた計算結果であり、(1)式の被積分関数はこれらの図の上の3つ(あるいは9つ)の図に対応する。
以下式3参照
により、位相速度c(f ) が求められる。図2−4−17に周波数を一定にした空間自己相係数(プロット)および最小2乗的に見つけたBessel 関数(実線)に示した。
以上の手続きで、微動波形から分散データ が抽出される。分散データは、グラフ化すると滑らかな曲線イメージになることから、通常は「分散曲線」と呼ばれる。
c S波速度構造の推定
得られた分散曲線を「レイリー波基本モード」の分散曲線と仮定し、アレー直下の地下構造を多層半無限水平成層構造として推定する。
レイリー波位相速度は、層数、層厚、各層のP波速度、S波速度および密度をパラメータとする関数である。層数をnとするとき、未知パラメータの総数は −1個である(最下部の層は半無限層である)。数値計算の安定化や処理時間の短縮を図るため、未知パラメータの個数を減らすことを考える。
数値実験によれば、レイリー波分散曲線の変化に強く寄与するパラメータはS波速度と層厚、特にS波速度であり、P波速度や密度の寄与はS波速度よりも1〜2桁以上小さいことがわかっている。そこで、P波速度および密度は既存の統計資料(Ludwig et al. 1970、土木物探研究会、1970)からS波速度の関数として換算することとし(図2−4−4)、層数nは前もって設定する。
すなわち、レイリー波分散曲線から精度良く推定できる実質的な地下構造は、S波速度構造である。このとき、未知パラメータ(S波速度および層厚)の個数は、当初の約半分の 個にまで減少する。
通常、地下構造モデリング作業においては、初期モデルを試行錯誤的に決定し、それを反復的に修正する逆解析(インバージョン)プログラムを用いていた。この種のインバージョンでは初期モデルへの依存性が問題となり、標準的な地下構造が未知の場合に初期モデルをどう設定するかが大きな課題であった。
そこで、本報告の構造解析では、初期モデルへの依存性を解決する手段として、個体群探索分岐型遺伝的アルゴリズム(Forking Genetic Algorithm、略称 fGA)による地下構造推定法(長ほか、1999)を利用する。fGAでは初期モデルとして層の数、各層の層厚の最大値・最小値、S波速度の最大値・最小値を与え、これらの範囲内で残差最小解を求める。fGAは順問題という性格上、計算が不安定になる可能性がないなどの特徴を有する。
最終的には、fGAで求めたパラメータを必要に応じて手動調整し(フォワードモデリング)、最適解を絞り込む。なお、S波速度の調整のみではフィッティングが向上しない場合、層数や層厚を適宜増減する。既存資料との整合性も充分に良好な解を、S波速度構造の最終推定解とする。