1964年に掘削された大佐和層序試錘の結果について概説されている。大佐和層序試錘は、本年度の反射法測線の南西端に位置する富津観測井から約8km南に位置する。
堀止深度は2552mで、基盤岩に到達していない。
岩相層序による対比では、深度279mまで上総層群、深度1467m(深度はいずれも海水面下)まで三浦層群、堀止深度まで保田層群とされている。
本坑井の約1.5km東に、帝国石油の大佐和R−1井(堀止深度1000m)があり、地震探査およびディップメーターの結果から、両坑井の間に向斜軸を想定している。
2) 加藤茂(1988): 音波探査から見た東京湾の地下構造,地質学論集,31,pp75−84.
1982−83年に水路部により実施された二次元音波探査の結果についてまとめられている。
東京湾の測線は、図2−1−3に示すように、北北東−南南西方向のA−1測線、A−2測線と、それに直交するB−1からB−4の計6測線からなる。(実際には、それぞれの測線が調査の都合で2〜3の部分に別れている。)
B−2測線は、東京都江東区の沖合いにある防災科学技術研究所の江東地殻活動観測井と、今回の測線の市原市沖合いを結ぶものとして重要である(図2−1−5)。また、A−2測線は、千葉県活断層調査として実施された千葉市の反射法地震探査測線の延長部にもあたることから、北側約半分の部分をここに掲載した(図2−1−4)。
B−2測線では、江東観測井での基盤である秩父帯に相当する強い反射面が明瞭であり、江東区側で往復走時にして約2.2秒、市原側で約2.6秒となっており、緩やかに東方に傾斜している。この面はA−2測線でも東京湾北部断層となってあらわれている。
A−2測線のB−2測線との交点より南の部分で、保田層群相当層があらわれるという解釈がなされている。
3) 千葉県総務部消防防災課/応用地質株式会社(1990): 人工地震観測による地下地質構造調査(平成元年度)報告書.
千葉県では、平成元年度から平成4年度にかけて、県内で人工地震観測(ダイナマイト震源)による屈折法地下構造調査を実施した。この最終結果の一部は報告書(1993)にまとめられている。
この調査では、富津市から九十九里町へ至る約63kmの区間で屈折法調査を行った。震源はダイナマイトで両端の富津と九十九里の発破点で400kg、中央の市原市の発破点で100kgを用いている。
堆積層に対して2種類の速度構造モデルを与え、タイムターム法により基盤の深度を求めている。基盤速度については、走時曲線の解析から、富津−市原間で5.0km/s、市原−九十九里間で5.5km/sと求められた。基盤岩の深度は、富津で3.9km、市原で4.5kmと深くなり、九十九里で3.1kmとなる。結果を図2−1−7に示す。
この測線の富津−市原間は、今回の測線とほぼ並行し、富津の発破点は、今回の調査とほぼ同一位置にある。
4) 纐纈一起(1993): 基盤構造の探査,地震,46,pp.351−370.
屈折法地震探査を中心に関東平野・大阪平野・濃尾平野の基盤構造探査の結果をまとめ、再解析を行っている。
関東平野での基盤岩の速度は図中の灰色の線分で南北2つに区分し、入手可能な全データを用いて走時インバージョンを行っている。
図2−1−9−2に結果を示す。これによると、今回の調査測線の大半は4kmより深い区域になる。
5) 鈴木尉元・ほか(1995): 東京湾とその周辺地域の地質(第2版),特殊地質図(20),地質調査所.
東京湾周辺の地質についてまとめたもの。10万分の1の表層地質図と、地質断面図が添付されている。
東京湾の音波探査の結果を含む既存データを活用し、図2−1−11のような発達過程が描かれている。大佐和GS−1の試錘で見られた保田層群は、今年度の測線ではより深くなるものの、存在する可能性は高いと考えられる。
6) 石油公団(1998): 平成10年度 国内石油・天然ガス基礎調査 基礎物理探査「房総沖浅海域」調査報告書,石油公団.
反射法地震探査は、陸域震源をバイブロサイス、海域震源をエアガンとする4測線、総測線長150kmで実施された。
海域での震源はエアガン1500in3が用いられ、陸域ではバイブロサイス4台、スイープ周波数8〜60Hz、標準20スイープで取得されている。
海域での受振器は、有線デジタル・テレメトリー方式であるOBC(Ocean Bottom Cable)が用いられている。
受振器の固有周波数は10Hz、受振点間隔は25m、標準発震点間隔は50mであった。
取得されたデータは、S/N比が良く、0.5〜2.3秒の基盤からの強い反射波が明瞭に捉えられている。概略としては、調査地域の北東から南西にかけて基盤深度は増加している。
本調査結果は、2002年3月現在未公開であるが、特に石油公団の許可を得て、反射法地震探査の結果を本報告書に含めた。(図2−1−6−1、図2−1−6−2)
7) 鈴木宏芳(1996): 江東深層地殻活動観測井の地質と首都圏地域の地質構造, 防災科学研究所 研究報告, 56, pp.77−123. 鈴木宏芳・小林健太郎(1999): 関東地域の坑井データ資料集,防災科学技術研究所研究資料, 119, pp.1−80.
これらの論文は関連性が高いのでひとつにまとめておく。
調査地から水路部東京湾B−2測線を挟んで対岸にある江東地殻活動観測井の諸データについて鈴木(1996)、調査測線南端の富津観測井、調査地周辺の市原観測井、千葉観測井、成田観測井等についての情報は鈴木・他(1999)より参照した。
鈴木(1996)には、調査地周辺の深堀井の情報がまとめられており、今年度測線のほぼ北端に位置する五井R−1井(堀止深度1305m)では、深度300mに下総層群の境界をおいている。また、今年度測線のやや北の八幡K−6井、MITI2000井では、共に堀止深度2000mでまだ上総層群であり、三浦層群には達していないとの情報がある。
富津観測井は堀止深度2000mで、深度830mより下が三浦層群に分類されているが、2000mで保田層群相当層ないしは基盤岩には到達してはいない。
昨年度まで調査を行った千葉県西部地域にある下総観測井、江東観測井、富津観測井の3坑井について、合成地震記録を作成した結果を図2−1−8に示した。
鈴木(1996)に示された先新第三系上面深度分布図は、鈴木(1998)で改訂され、鈴木(2001)で最新のものになっている。これらは、新たに掘削された地殻活動観測井、千葉県・神奈川県(横浜市・川崎市)で行われた活断層調査・地下構造調査の結果を反映して更新されている。
最新の2001年の分布図を図2−1−9−3に示す。
この他の文献からの資料として、以下のものを収めた。
・関東周辺部構造概念図(共立出版,1986)(図2−1−10)
・関東地方南部の地質構造の発達過程(鈴木ほか,1995)(図2−1−11)
・房総半島の地質図(保田層群の分布域)(図2−1−12)
・黒滝不整合等深線図(図2−1−13)