(1)アレーサイズ

微動源は、一般に時間的にも空間的にもランダムに存在するため、微動の到来方向を予想することは不可能である。しかし、微動が時間的にも空間的にもランダムな波動の場合、微動に含まれる表面波を分散の形で検出できるアルゴリズム(長・ほか、1997)が開発されている。そのアルゴリズムの要請する最適のアレー形が円形アレーである。3カ年の全調査地点において、この円形アレーを採用し観測を実施した。アレーを構成する観測要素点(地震計設置点)の数は、1回あたりの作業効率や同時観測をする上で機材の数量などを考慮し、二重正三角形の各頂点とその重心点(中心点)の計7箇所とした。

以下にアレーサイズ(アレー半径と1地点のアレーの個数)について述べる。

<平成10年度の検討>

・平成10年度の調査計画段階において、下総地殻活動観測井No.25(SMU)地点のアレーサイズは、既存資料から基盤深度が約1,500mであること、また、宮腰・ほか(1996を参照し、可探深度の1/5程度の半径300mとした。実際の観測では安全を期して、計画したサイズよりも大きい500mを採用した。基盤以浅の構造を把握するための観測については、アレー半径350m、100mをそれぞれ設定した。

・No.25(SMU)地点において、SPAC法およびF−K法から求めた基盤のS波速度は、S波速度検層、VSP探査の結果で得られていたS波速度と異なる値であった。また、最下層の緻密なコアサンプル等を観察し、微動観測から求めたS波速度は低すぎるのではないかと判断した。この結果、アレーサイズと可探深度の一般的な関係(宮腰・ほか、1996)、すなわち可探深度の1/5程度のアレーサイズでは、最下層のS波速度が得ら れないことが判った。

・「アレーサイズと推定可能な位相速度の最大波長との関係」のシミュレーションにおいて最大アレ−半径をR(m)、最小アレ−半径をRmin(m)、5%の誤差以内で求められる位相速度の波長をλ(m)とした場合、

 2Rmin≦λ≦10R(SPAC法)       式@

 √3Rmin≦λ≦(3〜5)R(F−K法)    式A

なる関係が示されていた(宮腰・ほか、1996)。

No.25(SMU)地点における観測結果をもとに、上記の式@により(アレー半径1,000m)推定可能な位相速度の最大波長は、10,000mと求まった。

一方、微動アレー観測で実際に求めた位相速度曲線(分散曲線)上で、周波数0.14Hz(周期7秒)のときの位相速度は約1.65km/secであった。このときの波長は約 12,000mであり、宮腰・ほか(1996)による推定可能な最大波長10,000mより大きい。これでは、低周波数領域の微動を捉えることができないアレーサイズであることを再確認した。

・長周期成分側(低周波数領域)の微動を捉えることを目標として、基盤のS波速度(Vs)を約3km/sec、2.5km/secと2通りの位相速度を仮定し、これを推定できるアレーサイズの見積を行った。平成10年度の観測で求めた周波数0.14Hz(周期7秒)のレイリー波の位相速度として、ポアソン比0.25で約0.92Vs、極限の0.50で約0.95Vsにより、最小で2.3km/sec、最大で約2.9km/secとなった。この結果から、波長(10R)の値は、16,400m〜20,700mとなり、1,700m〜2,100mのサイズでの観測が必要となった。

・平成10年度はNo.25(SMU)地点の他に、No.26(FNB)地点においても微動アレー調査を実施した。No.26(FNB)地点での先新第三紀基盤までの深度は、既存試錐調査や反射法地震探査の結果等によれば、約2,500mである。この地点で、微動アレー調査手法が、深度3,000mまでのS波速度構造の把握に適しているか否かの検討を行った。アレー半径の設定は、No.25(SMU)地点の2倍の大きさとし、3セットアレー(最大アレー半径200m、600mおよび1,000m)の観測を実施した。また、同地点においては長周期成分を取得するために、最大アレー半径2,000mの観測も実施した。結果として、最大アレー半径1,000mの解析結果からだけでは求めることができなかった長周期成分側のS波の位相速度を捉えることができ、最大アレー半径を2,000mとすることの有効性が確認された。

<平成11年度の検討>

・平成11年度の調査では、No.25(SMU)地点において最大アレー半径2,000mの追加観測を実施した。その結果、得られた基盤のS波速度は、最大アレー半径1,000mのS波速度と比べると大きな値となり、実測データ(検層のS波速度)とほぼ一致した。S波速度が大きくなった理由としては、アレーサイズを大きくしたことにより、有効な長周期成分側の微動を捉えることができたためと思われる。すなわち、ある周波数で最小二乗法によるベッセル関数にあてはめより、観測点間距離の大きいところの空間自己相関係数も利用可能となり、関数へあてはめる位相速度が大きくなった。結果的にS波の位相速度が大きくなった。

・平成11年度には、No.26(FNB)地点において最大アレー半径3,000mの追加観測を実施した。目的は得られている基盤の深度およびS波速度の検証と、位相速度の長周期成分側の有効性を確認するとともに、空間自己相関性の把握である。追加観測により最大アレー半径3,000mの位相速度曲線(分散曲線)は、空間的な定常性が乏しく相関性が低く、統合するのには不適切なデータであることが判った。これに対し、最大アレー半径2,000mのデータは、相関性が良く、分散曲線にもまとまりがみられた。これより基盤深度2,500m前後のS波速度構造の把握には、最大アレー半径を2,000mと設定すれば十分有効であることがわかった。本調査地域である千葉県西部・北西部地域における最大アレー半径は2,000mが適切であると判断した。

<アレーの組み合わせ>

・微動アレー調査の手法を用いた、地下浅部から深部に至る地下構造(100〜3,000m程度)の推定には、長周期側成分(低周波数領域)から短周期側成分(高周波数領域)を連続して捉えることのできる、アレーサイズを複数組み合わせたSPAC法による円形アレー(二重正三角形)大・中・小の3セットアレー(最大アレー半径2,000m、600m、200m)の観測方式が実用的であると判断した。

・アレーサイズの適切さは実際の地下構造に依存するため、地下構造未知のところで最適アレーサイズを事前に設計することは原理的にできず、経験と実績の積み重ねに頼らざるを得ない。しかしながら、観測の効率化を図るためには、早い段階で適切なアレーサイズを決める必要がある。今後、アレーの組み合わせの工夫や簡便なテスト観測法の開発、アレー半径とある種のデータとの簡便な対応関係(例えば、ある地域におけるアレー半径と地下構造調査における対象深度)の把握などにより、アレーの設計を容易にすることが望ましい。当面は、「分散曲線のタイプと地域および地下構造との関係」についてのデータベースを事前に構築するなど、他の地域における微動アレーのデータを収集していく必要があると思われる。