2−6−3 震動解析

収集した44個の地震の中から、6個の地震と6箇所の観測点を選択し、それらの地震および観測点で得られたデータに対して、波形表示および波形のスペクトル解析を行った。ここでは、できる限り到来方向が均一になるような地震と、できる限り多くの記録が得られている観測点を選定した。

選択した地震は、1998年7月15日に東埼玉で発生した地震、1998年8月29日に千葉中央部で発生した地震、2000年4月10日に茨城南西部で発生した地震、2000年6月3日に銚子で発生した地震、2000年7月15日に伊豆で発生した地震、2000年9月29日に東京で発生した地震である。

選択した観測点は、浦安(UYX)、市川(GY_)、松戸(MTX)、野田(NDX)、千葉(CBX)、船橋(FUN)である。このうち、浦安、野田、松戸、千葉はK−ネットの観測点で、市川、船橋は千葉県総務部、水質保全研究所および震度情報ネットワークの観測点となっている。

以上の地震に対し、記録が得られている各観測点における原記録(加速度波形)と、積分によって得られる速度波形の表示を行った。各観測点では、3成分の記録が得られているが、ここでは波形の特徴が比較的似ている東西成分についてのみ表示を行った。なお、原記録ではDCオフセットが大きかったので、オフセット除去を施した。結果例を図2−39図2−40図2−41に示す。

続いて、各観測点で得られた水平成分のデータに対して、フーリエスペクトル解析を行った。スペクトルは、原記録を1回積分した速度波形に対して、水平2成分を別々に計算し、それらの2乗平均をすることにより求めた。スペクトルを求める際には、Hammingテーパーを適用した。

スペクトル解析の対象範囲は、記録の始まりから終わりまでとした。地盤の振動特性を解析する際には、厳密にはS波部分のみのスペクトルを見るべきであるが、実記録においては、S波初動が明瞭でないものが多数あり、S波初動の抽出は困難である。また、記録によっては記録長が60秒程度しかないものがあり、S波初動から記録の最後までをスペクトル解析の解析区間に設定すると、タイムウィンドウが短くなってしまい、1Hzよりも長周期のスペクトルの信頼性が低下してしまう。さらに、S波の主要動の振幅に対して、記録の始まりからS波初動までの振幅は小さく、全体のスペクトルに対する寄与は少ないと考えられる。全記録のスペクトルとS波初動からのスペクトルを比較したも結果、両者に大きな違いは見られなかった。

個々の観測点について、選択した地震のスペクトルを表示したものが図2−74−1図2−74−2図2−74−3図2−74−4図2−74−5図2−74−6である。各図の下側は、全地震のスペクトルの対数平均を個々の観測点について求めたものである。

さらに、特定の観測点を選んで地震の発生区域ごとに地震のスペクトルを表示し、全地震のスペクトルの対数平均を個々の地震について求めた。ここでは、観測点として松戸(MTX)を選んだ。結果を図2−75−1図2−75−2図2−75−3図2−75−4図2−75−5に示す。これらの結果から、以下のことが読み取れた。

・浦安(UYX)、千葉(CBX)、市川(GY_)、船橋(FUN)の記録においては、個々の地震のスペクトルを見ると、0.3Hz〜1.5Hzにスペクトルのピークが多数存在しているが、全地震のスペクトルの対数平均を求めると、浦安では0.7Hz〜1.1Hzに複数のピークが、千葉(CBX)では1.2Hz付近にピークが、市川(GY_)では1.1Hz付近にピークが、船橋(FUN)においても1.1Hz付近にピークがあることが見て取れる。これら4箇所の観測点ではいずれも、0.1Hz〜0.5Hzにおける振幅が1Hz付近の振幅に対して顕著に小さくなっている。これはすなわち、1Hz付近の周波数成分が増幅されている可能性を示している。

・これに対し、野田(NDX)、松戸(MTX)の記録においては、個々の地震のスペクトルを見るとスペクトルのピークは0.2Hz〜2Hzの間に多数存在しているが、全地震のスペクトルの対数平均を見ると、特に顕著なスペクトルのピークは見られず、低周波側の振幅が高周波側の振幅に比べて顕著に小さくなっているということもない。

・個々の観測点について全地震の対数平均を求めることによって、スペクトルの地震依存性は平滑化されるので、求まった平均スペクトルは、各観測点の地盤特性を表していると考えられる。また、浦安(UYX)、千葉(CBX)、市川(GY_)、船橋(FUN)の4観測点は、地震波低速度層が厚く堆積した地盤上の観測点であるのに対し、野田(NDX)、松戸(MTX)の2観測点では、軟弱地盤層の存在が確認されていないことも、これらの解析結果と調和している。

・地震の震源によるスペクトルの周波数成分の違いは、図2−43−1,図2−43−2,図2−43−3,図2−43−4,図2−43−5に現れている。伊豆の地震では、低周波成分ほど振幅が大きくなっているが、これは震央距離が大きいために、地層の吸収効果(Q)により高周波成分が減衰しているためであると考えられる。銚子の地震でも、相対的に高周波成分が減衰していると見られる。また、0.3Hz付近にスペクトルのピークが存在しているが、これはどの観測点にも共通しているので、震源の特徴を示している可能性がある。その他の地震では、1Hz〜2Hzの間にスペクトルのピークを持っている。千葉中央部および東埼玉の地震では、5Hz付近にスペクトルの小さなピークを持っているが、これも、地震による周波数成分の地域性を示している可能性がある。