観測時期の分割による影響を確認するために、平成11年の冬季(11月)に観測したNo.10(YAG)地点およびNo.15(CNT)地点の2地点において、平成12年の夏季(8月25日と28日)に中・小アレー2セットの観測を実施した。
中・小2セットアレーの観測を実施した17地点と同様に、観測を開始する前にハドルテストを行い、機器の特性などの一致性を事前に確認した。両地点におけるハドルテスト記録については、それぞれ別冊資料集に付した。
図2−60−1にNo.10(YAG)地点における平成12年度(夏季観測実施分)の小アレーの地震計設置点(7箇所)ごとの観測波形の例を示し、図2−60−2には同地点、同アレーにおける平成11年度(冬季観測実施分)の観測波形の例を示した。また、図2−61−1および図2−61−2には、No.10(YAG)地点における観測記録のパワ−スペクトルの例をそれぞれ示した。
前掲した図中のパワースペクトルに見られるように、観測を実施した季節の違いによるパワーの大きさやスペクトルの形状には相違が認められ、冬季の微動パワーは夏季のパワーと比較すると約10倍以上の大きさであった。さらに、1Hz以下の長周期側のスペクトルの形状について着目すると、夏季には周波数0.2〜0.3Hz(周期5〜3.3秒)および周波数0.6〜0.7Hz(周期1.7〜1.4秒)の2箇所にパワースペクトルのピークがあるのに対して、冬季では周波数0.2〜0.3Hz(周期5〜3.3秒)の1箇所のみにピークがある結果となった。ピークの違いについては、冬季のピークは長周期成分側にあり、外洋で冬季に卓越する大振幅・長周期の波浪から発生した微動であり、夏季のピークは外洋の長周期波浪と比較的近傍(港湾等)で発生した短周期の波浪による微動であると推察される。
夏季および冬季のパワースペクトルともに、観測中(観測開始直後、中間、観測終了直前)におけるスペクトルの形状には、時間的な変化がほとんど認められず時空間的な定常性を確認することができた。No.15(CNT)地点の観測結果においても観測波形およびパワースペクトルについてはNo.10(YAG)地点と同様の傾向があり、夏季よりも冬季の方が微動のパワーは大きい結果となった。パワーが大きい冬季の観測は微動観測において、SN比が向上するため解析結果の品質も向上するものと考えられる。また、大アレーにおける長周期側成分の微動の取得も期待できる。これらNo.10(YAG)およびNo.15(CNT)の両地点における観測波形およびパワ−スペクトルは、別冊資料集に付した。
図2−62−1にNo.10(YAG)地点における平成12年度の空間自己相関関数(図中上段)と空間自己相関係数(図中下段)の例を示し、図2−62−2には同地点における平成11年度の結果の例を示す。空間自己相関関数および係数は、微動のパワーの大きさやパワースペクトルのパターンには関係がなく、夏季も冬季も同じ形状を示す結果であった。
図2−63−1に、No.10(YAG)地点における平成12年度(夏季観測実施分)の各周波数ごとの最小二乗法によるベッセル関数のフィッティングの例を示し、図2−63−2に平成11年度(冬季観測実施分)の例を示す。当然、空間自己相関係数の結果が同じであることから、ベッセル関数のフィッテングによる各周波数ごとのS波位相速度についても、両年度の結果においてはほとんど同じ結果であった。これら2地点における空間自己相関係数および各周波数ごとの最小二乗法によるベッセル関数フィッティングについて、例示した以外の結果は別冊資料集に付した。
図2−64−1にNo.10(YAG)地点の位相速度曲線を、図2−64−2にNo.15(CNT)地点の位相速度曲線をそれぞれ示した。これらの図はESPAC法で求めた結果を示したもので、平成12年度の結果は赤色の○印で、平成11年度の結果は黒色の□印で示した。結果について、観測時期の異なる微動データ(夏季と冬季)を用いて解析を実施しても、求められた位相速度曲線の形状(周波数と位相速度の関係)は、ほとんど同じで結果であることがわかった。