(6)シミュレーション

位相速度曲線のパターン形状(パターン@〜B)の違いが、どの原因であるかを調べるために、下総地殻活動観測井No.25(SMU)地点の結果を用いたシミュレーションを行った。

図2−58に位相速度曲線パターンのシミュレーション結果を示す。

このシミュレーションでは、No.25(SMU)地点で得られた位相速度曲線を基本として、図中上段は、基盤S波速度が3.02±0.4km/secの値をとる場合、また図中下段には、基盤深度が1,510±400mの値を仮にとる場合に、どのような位相速度曲線が現れるのかどうかを示した結果である。

これらのシミュレーションの結果から、位相速度曲線のパターンについての傾向を判断すると、基盤のS波速度が速くなると位相速度曲線は、長周期側成分(低周波数領域)である0.2Hz付近で位相速度が変化する傾向を示し、また基盤の深度が深くなると位相速度曲線の変曲点(曲線の傾きが急となる点)が長周期側成分(低周波数領域)に移動する傾向が認められた。これらの傾向を、全26地点で得られた位相速度曲線にあてはめ考察すると、パターンの違いは主に変曲点の周波数の違いであることが判った。この理由から、パターン@からBの分類は、主として各地点の基盤深度に関係した原因であることがわかった。

また、パターン@に分類された7地点の位相速度曲線の中には、その形状が長周期成分側において位相速度が大きくなる傾向も認めることができ、この傾向については基盤のS波速度が関係した原因であると考えられ、特にNo.21(KHK)、No.24(NDA)の2地点の位相速度曲線については、基盤のS波速度の違いによる原因であると推定された。これら2地点の基盤のS波速度が他のパターン@地点と異なる理由から、基盤の地質がこの付近で異なることも推定される。

関東地域の地質構造区分(矢島・他、1986)によれば、この付近には三波川変成帯(結晶片岩類)と領家変成帯(花崗岩類)の境界である中央構造線が推定されている場所の近くであるため、基盤岩の岩質の違いが位相速度曲線に現れていることも考えられる。さらに、No.15(CNT)地点の位相速度曲線についても長周期成分側において、これら2地点の傾向と似たような位相速度曲線の形状がみられる。